戦災孤児について

支援期間2002年5月

このアフガニスタンの支援活動中、どうしても忘れてはいけないことがある。それは戦災孤児についてです。

僕たちが始めてカブールを訪れたとき、最初の印象は何といってもあのピリピリしたムードとエネルギッシュなアフガン人だった。みんな力強い目がギラギラしていた。大人だけではない、お年寄りも子供たちもみんな力強い目をしている。一見、カブール市内を見ていると“どこに困っている人がいるんだろう?”“どこに飢えで苦しんでいる人がいるんだろう?”と疑いたくなるくらいみんなエネルギッシュだ。

現地であったある 日本人は単身でこちらに渡り、自費で子供たちの治療をしているという。どんな治療を行っているのか?と訊ねると“PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいる子供たちの治療をしているんです”という。そして『植木さん、今この国でどんな問題が起こっているのか知っていますか?その現実を一緒に見に行きませんか?』と、自分のやっている活動に随行させてくれた。

案内してくれた先は孤児の家だった。それも戦争で親を失った子供の家…僕は家に上がった瞬間、ただならぬ雰囲気に襲われた。ものすごい悲しみ、絶望、怒りの雰囲気…こちらも涙が止まらないくらいの悲しい現実が待っていた。

▲ 一人ぼっちになってしまった孤児

ある子供は…数年前にお父さんを殺され、それ以来恐怖で家から出られなくなってしまった子供。 ある子供は、目の前でお父さんを殺され、ショックで心を閉ざしてしまった子供。 ある子供は、お父さんのことを聞くと、突然泣き出した…『お父さん、、お父さん、、、なんであの大好きなお父さんが死んじゃったの?』と涙が止まらなくなってしまう子供。 ある子供は、親兄弟を殺されてしまい、今は親戚に預けられている子供。

ある子供は、アメリカ軍の誤爆に合い、一瞬で一家8人を失い自分は意識不明の重体に。気が付いたときにはパキスタンの病院だった。そして一人ぼっちに… アメリカ軍は『これは戦争なんだ!』といって何の保障もしてくれないという。

▲ 一瞬で一家8人を亡くしたジャワット君

▲ ヤシーン君13歳

ある子供は、5年前にお父さんを殺されて以来、一人で家族5人を養っているという少年に会った。 毎朝5時に起きて町まで片道2時間(約8キロ)を歩きながらタバコを売っている。 彼の夢は“弟たちにお腹いっぱいお米を食べさせたい!”という。今まで殆どといっていいほどナンという主食のパンしか食べてない。お米は高級品なので簡単には買えないというのだ。 『休みはあるの?』と聞くと、『僕が仕事を休んだら家族が食べられない、、、だから病気以外は休めない』。この仕事を5年もしていて足が痛くなっている。それでも家族のために毎日頑張っている。自分も本当は学校へ行って勉強したい!もし神様が僕を助けてくれるのなら僕は学校へ行きたい。そして自分の名前を書いてみたいという…。

ある子供は、僕たちがレストランで食事をしていると『その残った食べ物をちょうだい。僕たち今日なにも食べてないの』と、物乞いに来た。僕たちは『いいよ。全部持っていっていいよ』というとスーーっと持っていった。帰り際にその子供たちが階段の踊り場で少ないご飯をみんなで分け合って食べていた。それを見て僕は胸が熱くなった…。 僕は心の中でこう叫んだ。『僕はこの現状をたくさんの人に伝えるからね。そして二度と戦争が起こらないように伝え続けるからね。早くあの平和だったアフガニスタンに戻って欲しい。それまで一緒に頑張ろうね!』と

▲ “どんなことがあっても生きることに背を向けない!”と言わんばかりの力強い目が印象的だった。

こういった子供たちが今アフガニスタンには数万人もいる。この子供たちはやり場のない憤りに苦しみ、もがいている・・・この子供たちは突然の腹痛や頭痛に襲われ、自分がなんでこんなに痛みだすのか知る由もなく生活している。そして突然怒りだしたり、他の子供をなぐってみたりと喧嘩ばかりするようになっていく。

この子供たちのストレスを和らげ、心のよりどころを作ろうとしているのがこの生井先生だった。 一人一人戦災孤児の家を回り、ストレスを和らげる治療を行っている。それよりも子供たちにとってお父さんのような存在そのものが心のストレスを和らげ、安心を得られる。なによりも子供たちの顔が変わってくる。少しずつではあるが、笑みを見せてくれるようになってくる。信頼してもいい大人がいることに安心し、笑顔になってくる。気の遠くなるような治療だが、これ以外に子供たちの傷ついた心を癒すことができない。ただ薬を上げるだけではなく、根本からの治療をしている生井先生に未来のアフガニスタンを感じるのであった。

最後に。これを体験したことで僕は本当に希望を持つのは私たち日本人なんだ!と実感した。 僕たち一人一人が平和を望み、希望を持って行動していくことでこういった子供たちを無くすことにつながる。そう思うと自分としてできることを精一杯していきたいと改めて感じた。

後世に残るこの世界最大の悲劇は、悪しき人の暴言や暴力ではなく、善意の人の沈黙と無関心だ。

- マーチン・ルーサー・キング