2005年7月号 マルシェ(株)代表取締役社長 谷垣雅之さん
居酒屋チェーン「酔虎伝」「八剣伝」「居心伝」を、全国にフランチャイズ展開しているマルシェは、「心の診療所」を目指しています。さあ、そこに『地球村』的発想が加わると…
「割り箸をなくし、食べ残しはお土産に」
高木 『地球村』との出会いはいつ頃ですか。
谷垣 6、7年前船井オープンワールドで、家内と一緒に先生の講演を聴かせていただきました。その時、非常に感銘を受けまして、2人でマイ箸を買いました。
高木 その時、ご入会は?
谷垣 家内と一緒に入会しましたが、1年間だけだったと思います。5年前に、先代社長からバトンタッチをしてマルシェの社長に就任させていただきました。環境のことは頭にはあるのですが、現実の仕事に没頭する中で、徐々に風化していったというのが正直なところです。
高木 では、『地球村』との再会はいつでしたか。
谷垣 ついこの間、4月のことです。社の若手を、食品リサイクル法や環境対策について、『地球村』で取り組んでいることを勉強して来てくれと送り出しました。本当は、僕が率先して行かなければならなかった、と感じています。それが再会でした。
高木 その後、環境対策で何か取り組まれましたか。
谷垣 いくつか、あるんですが、まず一つは割り箸です。私どもは、割り箸をたくさん使っています。全国750店で月80万膳の割り箸を使います。割り箸は間伐材の有効利用と思っていましたが、それが間違いで、外国からの輸入材と知って驚きました。割り箸も森林破壊だということがわかり、まずはこれに取り組んでみようと思いました。
高木 どういった取り組みになるのでしょうか。
谷垣 まず実験店で丸箸(洗い箸)を使ってみて、お客様の声をリサーチすることから始めようと思います。
高木 お客からいろんな声があるでしょうね。理解いただくために、主旨を書いたポスターを用意するといいですね。
谷垣 ポスターといえば、6月末から全店舗で「おいしいね、をご家庭で」という表示を始めます。講演で、「日本では、毎日3000万食の食べ残しがある」「毎日5万人が餓死している」と伺いますと、私どもも何かをせずにはいられません。『地球村』の経営塾を受講した後、みんなで対策を話し合ううちに、お客様がご希望でしたら、食べ残しを「おみやげにお包みします。持って帰ってください」というポスターを作ろうということになりました。
高木 なるほど、これはわかりやすい! 他にも例えば、マイ箸持参の方にはスタンプカードを用意して、スタンプの数で何か特典がある、などのアイデアいかがですか。
谷垣 可能だと思います。食を扱う産業として、環境のためにできることは、たくさんありますね。
「心の診療所を作る」
高木 マルシェさんは、「心の診療所」という経営理念がございますが、その辺りをお話いただけますか。
谷垣 これは、先代社長からの教えです。そもそも先代の親(祖父)が丹波篠山から大阪に出て、立ち飲みの酒屋を始めたことがマルシェのスタートです。その店に通ってきていたその日暮らしの若者が、祖母になつくようになりまして、祖母は彼の行く末が心配になり「通帳を作ってあげるから、稼いだお金を持っておいで」と貯金をはじめました。彼が持っていると全部使ってしまうので、預かることにしたんですね。そして年数がたって、貯金がある程度の金額になったとき、彼はまともな仕事につくことができたのだそうです。そうした体験から、居酒屋の本質は「食べて飲む場所」というだけではなく、グチを聞いてあげたり、親のように叱ってあげたり、親身になって相談に乗ったりして、「お客様が元気になる場所」だと気付いたのですね。そこで、お客様を癒やし励ます場所であろうという精神を「心の診療所」という言葉で表しています。
高木 それは素晴らしい経営理念ですね! お客が癒される。すると当然仲間をつれてきたくなる。それがお客の幸せであり、お店の幸せであり、従業員の幸せであるということですね。それは実に素晴らしい!! いまの時代、それが求められています。そこをよりはっきりと打ち出されたらいいでしょうねえ。お店が診療所なら、そこにはドクターやナースがいりますね。ということは、その人たちを育てるのは社長ですから、どんなイメージで社員育成を考えておられますか。
「よく見る、よく聞く、受け止める」
谷垣 それを、『地球村』経営塾に学びに行きました。
高木 では少し経営塾の話をしましょう。言われたことに対して、すぐに反論したり、説得したり、アドバイスしたりしたくなるものですが、ほんとうは何が必要なのでしょう。
谷垣 よく聞く、受け止める。
高木 そうですね。それを店長さん、店員さんに徹底することが大事だと思います。お客様から文句が出たときに「ですが、当店では」と言い返してはだめです。仲間内でも、いざこざがあったときに反論してはいけません。
谷垣 なるほど、なるほど…。よくわかります。でも、なかなか難しいですね。
高木 謙虚に受け止め続けること。これを徹底するのです。特に夫婦とか、親子とか、親しいものほどすなおに聞けません。つい言い返したり、アドバイスをしたくなりますが、これをやめる。相手は聞いてほしいんです。わかってほしいんです。正解を探すのではなく、「なるほど、なるほど」と聞いてあげることが本人にとっては一番なのです。
谷垣 なるほど。いや、本当にそうですね。
高木 いい訳をしたり、反論したりせず、「気がつきませんでした。勉強させていただきました」と、受け止めること。これが「心の診療所」の基本だと思います。そしてこれは、社長ご自身が、社内で実践していかないといけません。オープンドアセオリーをご存知ですね。社長室のドアを開けておき、いつでも社員の話を聞ける環境を作っておくことです。逆に、社長の怒鳴り声がいつも聞こえるようでは困りますが。(笑い)
谷垣 なるほど。そうですね。(笑い)
高木 今のように「なるほど」と聞き、「ありがとう」とねぎらいがあれば、社長室もまた「心の診療所」になりますね。先代の思いがよりはっきりとするでしょう。そして「常にお互いに学びである」という気持ちを、会社のポリシーの一つとして掲げるのです。
谷垣 お互いに学ぶのですか。
高木 どちらか一方が学ぶのではなく、常に学び合うのです。これはとても大切なことですが、「受け止める」と「受け入れる」は違います。ここを間違えないようにしてください。というのは「給料を上げてくれ」「はい。わかりました」という会話は「受け入れる」ですね。「なんで上げてほしい?」「生活が苦しいから」「そうか。しかしな、こっちも苦しい。ここは一緒によく考えて、解決していこう」と、相手を「受け止める」ことが大事なのです。
谷垣 受け入れるじゃなくて、受け止めるんですね。
高木 相手の意見を聞きながら、対話をするのです。説得でもなく、教えや助言でもなく、キャッチボールの中で問題が解決していくという手法を、『地球村』ではMMと呼んでいます。このMMというやり方でやっていくと、相手は「意見を聞いてもらえた」と感じます。しかも「それはいいですね~!」と、キャッチボールしながらアイデアを練り上げていけば、そのアイデアは磨かれます。みんなに「いいね!」といわれることで、さらにいいアイデアが生まれ、そのアイデアからまた新しいアイデアが生まれる。逆に、意見を聞かず、こちらのいい分を押し付けると、そこに必ず抵抗が起こるんです。MMは、カウンセリングの手法を生かした、とても気づきの多い対話法です。
谷垣 なるほど。それは楽しみです。次回の経営塾で、ぜひ、勉強させていただきたいと思います。
高木 では最後に、ストップ・ザ・温暖化キャンペーンや、CO2削減について、何か考えはございませんか。
谷垣 今月の幹部会で、できることをディスカッションしていきたいと思っております
高木 もし、お店でCO2削減の取り組みを始められましたら、ストッコのページ登録をお願いします。
谷垣 もちろんです。先週、名古屋地区の加盟店オーナー様の集会があり、そこでみなさまに環境の取り組みについてお聞きしました。場がしらけるかなあと思っておりましたが、逆に共鳴していただくオーナー様が非常に多かったですね。みなさま、環境問題を勉強されておられるし、知恵もお持ちでした。こうしたみなさまと一緒に歩んでいくことが、これからのマルシェのあり方だなあと思いました。一緒に知恵を出し合いながら、CO2の問題も取り組んでいきます。
高木 全国750店で取り組みが広がると、楽しみです! 「よく聞く、受け止める」でお願いしますね。
谷垣 実は、家庭の中では、それが不足していたなあと思います。例えば、仕事の話を家に持ち込むのが嫌でしたが、一人で悶々と悩んでいますと、家内の話も聞き流してしまいそれがケンカの元になっていました。経営塾の後は、意識して聞くようにいたしました。仕事の話もするようにしています。すると励まされたり、応援をしてもらえます。一番身近にそういう存在があることを、今はありがたくうれしく思います。
高木 誰からでも学ぶことがたくさんあります。うちの家内は私の顧問、相談役です。最大のアドバイザーだと思っています。そう願えば、そうなるものです。
谷垣 家内は相談役か。よし、やってみようと思います。
高木 マイ箸も、料理のお持ち帰りも、CO2の削減も「環境のため」というよりも、一番大事なのは「みんなの幸せのために」というベースです。「みんなの幸せ」という言葉を手のひらに書いて、この方針で進めてください。みんなというのは、経営者さんも、店員さんも、お客様も、あえていうなら地球上のみんなのことなのだ、という根本のベースがしっかりしていれば絶対大丈夫です。
谷垣 ありがとうございます。そう心掛けるようにします。
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