スペシャル対談

2005年8月号 ワタミ(株)代表取締役社長 渡邉美樹さん


居食家「和民」でおなじみの「和民フードサービス」は、社名を「ワタミ」に変更し、外食だけではなく、農業、環境、介護、教育など幅広く取り組んでいます。お二人はすっかり意気投合して…。
 

「地球上で一番たくさんのありがとうを集めよう」


高木 こんにちは。渡邉さんは『地球村』の個人会員としては8年目。今回、企業会員にもなっていただき、ありがとうございました。

渡邉 こちらこそ、よろしくお願いします。実は、我々の環境への取り組みのきっかけは高木さんの本です。本を読んでショックを受けまして、そのあと3~4回に渡って、地球の現状を書いた手紙を社員に出しました。僕は、毎月原稿用紙10枚くらいの手紙を社員に宛てて出しているのですが、高木さんからたくさんの情報をいただきました。

高木 そうでしたか。実は、私も渡邉さんの本を読ませていただいて、「人は何のために生きるのか」「何のために生まれてきたのか」といったことが書かれていたので、『地球村』との共通点を感じていたところでした。

渡邉 そうしたことを私が考えるようになった原点は、小学校5年生10歳のときに母が亡くなったことです。自分の目の前で、一番大切な人が死んだということで、その時は、死にたいと思うくらいショックでした。そこから、なぜ人間は生まれ、なぜ死ぬのかと考えるようになりました。すぐに答えは出ませんでしたが、前に進むにつれて徐々に答えが見えてきました。

高木 私も子どもの頃から、「自分は何のために生まれてきたか」「自分とは何か」を考えてきました。学生運動で仲間を3人失い、平和運動で人が死ぬのはなぜかについても考えました。自分が交通事故で寝たきりのときにも考え続けて、遂にその答えが見つかったのです。

人は幸せの実現のために生まれてきた!
自分だけの幸せはありえない!
みんなの幸せの実現こそ、本当の幸せ!
みんなの幸せの実現に、一生をかけよう!

この決意をしたことで、寝たきりだった体も急速に回復しました。渡邉さんも、そんな思いで、やっておられるのではないかと思うのですが。

渡邉 その通りです。本質を理解していただいてありがとうございます。僕は、中学時代からのボランティアの中で気付いたんです。人間っていうのは不平等です。たとえば、カンボジアの子どもたちは3日に1回くらいしか食べられないのに、日本の子どもたちは飽食です。中学時代クリスチャンでしたから、この不平等には悩みました。そのうちふと思ったんです。もしかしたら神様の目から見たら、こうした不平等も実は大したことではないのかもしれないと。そして神様の視点で見たとき、平等なのは、人間性を高めるために生きているということだったんだと。そう考えたら、カンボジアの子どもたちのほうが、日本の子どもたちよりも、人間性を高めやすい環境にあると確信しました。学校でも、机をガンガン動かすくらい、夢中に勉強していますからね。そこから「あ、そうか。人生というのは、目標を持って生きることがステキで、その目標に向かって生きるプロセスの中で、周りの人からたくさんのありがとうを集めて、自分自身を磨いていくものなんだ」と気付いたんです。そこで、「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」というのがワタミのグループスローガンになりました。

高木 よくわかります。私も目指すところは同じです。「ありがとうを集める」という表現は、初めて聞きましたが、なるほどと思います。私も「あなたに出会えてうれしい。生まれてきてくれてありがとう」という言葉が一番うれしいですね。自分自身も、死ぬときに「精一杯生きた! 幸せだった!」と、感謝出来れば最高だと思います。

渡邉 僕も、子どもや社員の誕生日のたびに「君たちが生まれてきてくれてよかった。ありがとう」といつも言います。大事な言葉ですね。
 

「外食産業世界初のISO14001取得まで」


高木 環境への取り組みについてお伺いします。

渡邉 未来の日本人から、一番たくさんの「ありがとう」を言ってもらえる取り組みは何だろうかと考えたときに、それは環境だと思いました。そこで99年にISO14001を、外食産業として世界で初めて取りました。どうしてどこも取ってなかったかというと、取っても意味がないというか、売上は変わらないのに費用だけは莫大にかかるからなんです。我々はISOを取得したとき「ワタミ環境宣言」を出して、ISO取得のノウハウを無料公開したんです。そのあと30数社の外食産業がISOを取ったのですけれど、我々の取り組みがきっかけになったと思います。


高木 ISO取得のノウハウをすべて公開したんですか。それはすてきなことですね。

渡邉 我々がISOを取得したとき、実は3,500万円かかりました。もちろん社内では「そんな費用をかける意味があるのか」という議論になりました。僕は「一人ひとりが関わり、変えていかなければ環境は守れない。200店舗の環境負荷だけではなく、そこで働いている2万人の意識が変わる取り組みなんだ」と訴えたんです。うちのアルバイトの人たちには、まず環境ビデオを見てもらいます。たとえば、店でのゴミ分別は9種類です。毎日の猛烈な忙しさの中で、9分別はとんでもないことなんですよ。それを教育してやらせるわけなんです。これをやるとどうなるかというと、家に帰ってもゴミを分別したくなるんです。習慣になるんです。今、我々は、年間2万人のアルバイトがいますから、2万人の意識を変えられるんです。

高木 それはすごい。そうした気持ちで取得したISOは、お金では買えないすばらしい価値があると思います。

渡邉 それと、CO2削減とゼロ・エミッションに取り組んでいます。僕が「ゼロ・エミッションをやる」と言い始めたときは、周りから「夢みたいなことを」と言われたものです。でも実際に、生ゴミはワタミファームに持っていって循環を始めました。全店舗のうち、約半分がゼロ・エミッションを達成したんです。

高木 ワタミファームというのはどこにあるんですか。

渡邉 千葉に2ヶ所、群馬に1ヶ所、北海道に1ヶ所です。やり方としては、各店舗に設置した乾燥機で生ゴミを乾燥させ、リサイクルセンターに持ち寄って選別します。そこで異物を取り除き、ワタミファームへ持っていき、堆肥化して土に戻すという仕組みです。

高木 なるほど。この循環システムは、お客様からは見えませんがすばらしいことですね。見えるところの取り組みとしては、店で竹箸を使っているのでしたね。

渡邉 はい、そうです。いろいろ検討して、割り箸には成長の早い竹を使おうということになりました。

高木 実は、日本の食糧廃棄は、50年前は5%だったんですが、今は25%なんです。日本の人口は1億2,500万人ですから、25%というと3000万人分の食糧を捨てているということになります。それをゼロ・エミッションで循環させているのはいいことですが、本当は廃棄そのものを減らしたいですよね。外食産業としては難しいかもしれませんが、「食べ残さないでください」「食べ残すほど注文しないでください」というお客様への教育も必要ですね。

渡邉 そうですね。そこで僕は「食べ残さないように、おいしいものを出そう」と考えているんです。おいしいものを出せば、残さないでしょう? 残り物を捨てるときの切なさといったらないですよ。一生懸命作ったのにという意味と、食糧が足りない国もあるのにという意味と、無駄なことをしてしまったという意味と、何重にも悲しい。ですから、食べ残させない工夫に取り組んでいきます。
 

「みんなが幸せな社会を作ろう」


高木 外食部門以外に、教育や介護福祉に関わっておられますが、そのことについて話していただけますか。

渡邉 基本理念「たくさんのありがとうを集めたい」に基いて、農業とか、環境とか、介護とか、いろいろ始めました。我々にとって、「ありがとう」を集める活動は2つありまして、「ありがとう」が拡大再生産できるものと、「ありがとう」が集まりっぱなしのものがあるんですよ。

高木 つまり、ギブ&テイクのものと、ギブだけのものということですか。

渡邉 その通りです。「ありがとう」が拡大再生産できるギブ&テイクのものはビジネスになるんですが、「ありがとう」が集まりっぱなしのものは商売にはなりません。たとえばカンボジアでの学校作り。形の上では、相手の国に与えるばかりですが、実は精神的には、多くのものをいただいているんだと思うんです。

高木 ネパールとカンボジアで学校を作られたんでしたね。

渡邉 そうです。今年17校建てて、全部で47校、2万3,000人の子どもたちが学んでいます。


高木 『地球村』でもアフガニスタンに3校建てて、3,000人以上が学んでいます。学校建設は地元の人が主体になって動かないと難しい部分がありますね。

渡邉 そうなんです。お金を出せばいいというものではありません。一番大事なのは、学校を建設することじゃなくて、学校は勉強をするところなんだと、村人を巻き込むことなんです。「学校ができたら、必ず子どもたちを労働から離して通わせてくださいよ」という約束を取り付けてから建設に入らないと、建物だけができてしまうことになるんです。

高木 本当ですね。教育は、学ぶ気持ちがあってこそ意味があります。「ワタミ」さんは環境教育に力を入れておられますが、ぜひ私も力になりたいと思っています。環境の講演会を開催されませんか。

渡邉 ぜひとも、お願いしたいと思っています。どういう形で高木さんにお願いしようかと考えていたところです。

高木 お話をうかがいますと、渡邉さんの考えのベースに、感謝や生き方を伝えたいという共通部分がありますので、ジョイントもできますね。

渡邉 それはありがたいことです。僕は、環境を守るのは、目的じゃなくて手段だと思うんです。健康でいたいというのは、これも手段であって目的ではない。目的と手段を履き違えてしまうと、何をやっているのかわからなくなってしまう。環境というのは切り口であって、高木さんがおっしゃっているように、みんなが幸せになっていく社会、一人も飢えて死んでしまうような子どもがいない社会、それを僕は作っていきたいです。

高木 とてもうれしいです。まさに同じ願い、同じ目的、同じビジョンです。それが「美しい地球を子どもたちに」という『地球村』のテーマです。ぜひ、一緒にやっていきましょう。

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