巻頭言

【巻頭言】プーチン首相と会って

ニュースで報道されましたが、5月にロシアのプーチン首相が来日、麻生総理とエネルギー問題、北方領土などについて会談し、そのあと異例のことですが、ある出版記念式典に出席されました。

それは、山下泰裕さん(1984年オリンピック柔道金メダリスト)が理事長をつとめるNPO法人柔道教育ソリダリティーが主催した、 『プーチンと柔道の心』(プーチンほか著、山下泰裕ほか編)の出版記念式典でした。
山下さんは『地球村』の理事、私も山下さんのNPOの理事をさせていただいているので、私も式典に招待されたのです。

プーチン首相は、実質的には、メドヴェージェフ大統領以上に国民の支持を受けている権力者ですから、日本の警備セキュリティは最高レベルでした。
会場のホテル近辺は、警察車両、パトカー、装甲車が無数に並べられ、数千名の警官が配備され威圧感を与えていました。まるで戒厳令下の様相でした。

招待客は政界、財界、出版界の名士50名。
身分証明も必要ですし、いろいろ手続きが大変でした。
プーチン首相は1時間遅れで現れました。
身長170センチ弱。体重60キロくらい。
「柔道で鍛え抜いた肉体」と伝えられていますが、むしろ痩せているという印象。
姿勢はいいのですが、立ち姿は少し傾いていて、気の弱そうなおとなしそうな感じ。
山下さんや東海大学の学長の挨拶の間、礼儀正しい態度で耳を傾けていました。

出版記念の本『プーチンと柔道の心』は、プーチンさんが大統領になる前に書いた柔道関係の本が、今回、日本で山下さんらによって編集、出版されました。
・山下さんの挨拶と本の贈呈
・東海大学の学長の挨拶と、名誉博士号の贈呈

プーチン首相は、控えめな態度でそれらを受け取ったあと、スピーチをしました。
声は驚くほど小さく、おだやかでした。
内容は、大げさでもなく、装飾もなく、誠意あるスピーチでした。
この人が8年間、大国ロシアの大統領をつとめ、経済崩壊したロシアを再生し、ロシアの国際的な地位を取り戻し、アメリカのブッシュ大統領の独走をけん制したとは、信じられない気持ちでした。
しかし、国民の大部分から尊敬され支持され、いまも大統領以上に期待されていることが、
よく分かるような気がしました。

★プーチンさんのスピーチ
ここに招待され、自分の本が翻訳され出版されたこと、博士号をいただいたことは、すべて予想もしない出来事でした。心より感謝申し上げます。
私の今日があるのは、柔道のおかげです。
私は若い時は、皆さんには想像もつかないかもしれませんが、家庭は豊かではなく、世の中に不満を持ち、町でうろついていました。
自分を強く見せようとして、ボクシングやレスリングを習い、最後に柔道に巡り合いました。
そこで、私は、礼儀作法、柔道の精神、武道の心、日本の精神を学びました。
私は大きく変わりました。
それまでの私は短気で、すぐにカッとしましたが、それが無駄なことだと知りました。
自分を抑えること、コントロールすることを覚えました。
それが、今の私を大いに助けてくれています。
じっくり物事を考え、判断することを学びました。
相手の力を利用して相手を倒すという柔道の精神も、大いに役立っています。
そして、力は平和のために使うということも学びました。
私は、世界の平和、みんなの幸せにこそ、貢献したいと思います。

穏やかに語り終えると、静かに演壇を降りました。
大きな拍手が鳴りやみませんでした。
私は、「世界は平和になる可能性がある!」と思いました。
プーチンさんのスピーチは本音だと思います。その思いが伝わってきました。
言葉やゼスチャーや演出だけで、できることではありません。
これは、本音(本当の言葉)、本気(本当の気持ち)だと思います。
この日、とてもハードなスケジュールをこなし、かなりお疲れのようでした。
予定の時間を1時間以上遅れ、到着は22時でした。
それでも、これだけの誠意ある態度と言葉を残し、そこにいたほとんどの人を魅了しました。
私も感動しました。

「ロシア首相を褒めるなんてけしからん」と思う人がいるかもしれませんが、私は褒めているのではなく、実際にプーチンさんに会った印象を書いたのです。
プーチンさんに会った人は多くはないと思いますが、実際に会った人、交流している人の多くは、これまでのマスコミ情報とは違う印象、違う人物象を伝えています。
マスコミ情報や一部の情報だけでは、間違いが多いと実感しました。