スペシャル対談

2005年4月号 大阪府・枚方市長 中司 宏さん


3月3日(木)大阪事務局に、合同プロジェクト「ひらかたストップ・ザ・温暖化キャンペーン」がスタートしたばかりの枚方市から中司宏市長をお迎えして、対談が行われました。
 

「枚方市は、環境保全都市でいこう」


高木 『地球村』との出会いは、いつ頃ですか。

中司 8年ほど前、地元中学校のPTA主催の講演会です。当時、社会全体としては、それほど環境意識が高くなかったと思いますが、その時、誰一人、席を立つ人もなく、みんなが真剣に聴いている様子が印象的でした。

高木 その時、中司さんはいかがでしたか。

中司 市長として一期目、高木さんのお話は非常に衝撃的でした。環境問題には、学生時代にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んで興味もありましたし、大学では自然農法の研究会にも参加していて、意識はあったのですが、講演を聴いて、「環境保全都市をめざそう」という、市長としてのスタンスが確立しました。

高木 非常にうれしいです。

中司 講演を聴いた翌年の市の広報誌で、高木さんに新春対談をお願いしまして、その時はじっくりと時間をかけてお話を聴かせていただくことができ、さらに私の意識は高まりました。当時、枚方市は、新しいゴミ焼却場を作らなくては…という状況にありました。しかし、ゴミ問題はゴミ焼却場を作りさえすればいいというものではなく、全市民でゴミ削減を考えていくことが大切だとわかりました。高木さんの話を聞いて、いろいろな環境施策を進めて行こうと思いました。

高木 『地球村』は環境だけではなく、さまざまな問題の根本的解決、つまり意識・価値観の転換を伝えています。『地球村』のそういう面での影響はございましたか。

中司 まず、私が一番感銘を受けたのは「非対立」です。政治の世界では対立する場面が多いのですが、まず私が聞き方を変えていくことができるようになったと思います。対立しても問題は解決できないので、できるだけポジティブにプラス思考でやっていくようにしています。

高木 うれしいです。でも中司さんは、もともとポジティブでしっかりされておられますから、『地球村』の考え方を生かしてうまくいったということではないのではありませんか。

中司 いいえ、悲観的で、ネガティブなところもあります。ただ、「全部、つながっている」という考え方は大事だと思います。高木さんもそうおっしゃっていますが、『ガイアシンフォニー』の龍村監督と対談したときも、「地球はひとつの生命体で、みんなつながっている」とおっしゃっていました。この考え方は、今、起こっている問題のすべてに応用できると思います。
 

「目に見えにくい、大切な成果を」


高木 では、「市長会」(正式には地球環境を考える自治体サミット)について。以前『地球村』の会員の中には首長さんが大勢おられるので、手をつないで何かできたら…と、私から提案させていただきましたね。

中司 提案をいただいて、高木さん、海東さん(現・滋賀県高島市長、当時は滋賀県新旭町長)などの強力な方々と共に1年間準備を重ねてスタートできました。1、2回の開催ではなく、「市長会」として継続していかないと意味ありませんから、それにはかなりのパワーとエネルギーがいりますからね。

高木 現在は、28市ですね。環境という入り口は、声をかければ「そりゃ、いいですね。ぜひやりたいことです」となり、どの市長さんも入られると思います。ただしその後、環境課の課長さんだけが来るようになっては困ります。そこのところをちゃんと見据えて声をかけていかないといけないと思います。

中司 これまでのまちづくりは、大量生産、大量消費社会の中で、施設などのいわゆる「箱もの」をつくることが大きな成果と考えられていました。しかし、今は、例えば、河川の護岸工事で、環境への影響を最小限に抑えた手法を変え、変えていくなど、従来の価値観や意識を変えていくことが重要となっています。これからは、施設をつくるなどの市民に分かりやすい、目に見える形の成果は減っていくと思います。そのなかで、従来の価値観や意識、手法を変えるなどという形の成果を出していきたいという意識の高い首長さんも増えていますので、ともに協力して取り組みたいと考えています。

高木 箱ものを喜ぶ市民がいるかもしれませんが、従来型の公共事業、自然破壊的な護岸工事やムダな道路工事をやめて、予算を落すことを喜ぶ市民もいますから安心してください。

中司 今はどこの自治体も財政状況が大変厳しく、限られた財源を効果的に活用するということが重要な課題となっています。ですから、予算編成の際には精査に精査を重ねて、実施すべき事業を選択しているので、無駄な公共事業は減っているはずです。また、事業にあたっては、行政のセレクト主義による無駄をなくすため、道路や水道など関係する部署が集まり、連携して取り組むこともしています。
 

「レベル1・2・3のマニフェスト作り」


高木 では、次に『地球村』との合同プロジェクト「ストップ・ザ・温暖化キャンペーン」(愛称ストッコ)についてお聞かせください。

中司 枚方市のホームページ上に立ち上げている「Web版環境家計簿」のページと、『地球村』の「ストップ・ザ・温暖化キャンペーン」のホームページを連動させる形で、キャンペーンを強力に推進しています。枚方市独自にCO2の削減目標を数値化し、市全体の削減量を測定するのは難しい面がありますが、家庭での削減量を推定することは十分可能であり、市民と協働で温暖化防止の輪を広げて生きたいと考えています。

高木 関西電力、大阪ガスと相談すれば、数値は把握できるのではないでしょうか。またストッコに登録された市民の数値を広報誌で「現在、何家族、何%削減」と発表したり、定期的に地球温暖化、京都議定書発効といったコラムを書いたりしてはいかがですか。

中司 指標と目標値を作って、おっしゃるように広報誌で周知していくことはできると思います。

高木 例えば、モデルエリアを作って、フライブルク市のように自動車の乗り入れを制限するとか、そういったことも一つの指標になるのではありませんか。

中司 そうですね。まずは、そういうことに意識のある市民を増やしていくことが大切だと思います。現在のマニフェストには入っていませんが、これからのマニフェストには、「いつまでにどれだけの市民の環境意識を高めていく」なども盛り込みたいと思います。

高木 マニフェストをレベル1、2、3で考えましょう。自動車と電力とガスの消費削減、焼却ゴミの削減、この4つの削減指標をマニフェストに入れることがレベル1。マニフェストを市民参加で作っていくことがレベル2。例えば、環境マニフェストは環境市民が、福祉マニフェストは福祉に関心のある市民が、教育マニフェストは教育に関心のある市民が作って議会に持ち込むのです。分野別に、マニフェストを作る市民会議があって、しかも自主運営。その中には、ゴミ部会、電力部会、ガス部会など、分科会がある。さらにキッズ(子ども)部会も。…という風にやっていくと、市民1%、2%、3%を巻き込むことが可能です。さらに、レベル3では、行政がするのではなく、市民が何をしたらいいのかということを決めるマニフェストを作るのです。これは、ペイフォワード(いいことを倍々で広げていく方法)になります。

中司 今ちょうど「ひらかた環境ネットワーク会議」というのを立ち上げたんです。それぞれ環境活動に取り組んでいる行政と事業者、市民が一緒に、良い部分を出し合い、これまでと違った新しい枠組みを作っていこうとしています。今いわれたようなペイフォワード方式は可能だと思います。

高木 それは、いろんなグループから集まってきた協議会的なものですか。

中司 いろんな団体が入っていますから、協議会的な要素も強いです。数としては150人くらいです。

高木 それは画期的ですね。おもしろいですね。

中司 キッズ(子ども)の話ですけれど、今年から学校で「エコスクール事業」というものを始めます。市はISO14001をとっていますが、ISOは費用もかかるし、学校が個々にISOをとるのは難しい。そこで、それに準ずる基準を作って、学校で実践していく仕組みを作ろうとしています。

高木 それはどういったものですか。

中司 学校でビオトープを作りましょうとか、エネルギーを減らしていきましょうとか、そういう取り組みになります。5年ほど前から言っていたのですが、最近になって、「やろう」ということになったばかりです。

高木 では最後に、市長としての抱負というか、中司さんがやりたいことを教えてください。

中司 枚方を環境都市にしたいと。

高木 答えが、まじめな環境対談になっていますよ。

中司 今日の対談は、まじめな環境対談だと思っていました(笑)。今年1月22日、枚方市で夜回り先生・水谷修さんを招いて講演会をしたことがあり、非常に感動しました。他の講演にはないすばらしい反響がありました。すべてのベースは愛なんだなと実感しました。愛のある市政を行っていきたいと思います。