2005年6月号 湖西市長 三上 元さん
昨年12月に静岡県湖西市長に就任した三上元(はじめ)さんは、船井総合研究所の元取締役。高木代表とは旧知の間柄で、とても和やかな対談になりました。
「地球の1割を消費する国・日本」
高木 よろしくお願いします。このところ、この対談は市長シリーズということで、枚方市、高島市と続きました。
三上 高島市というのは、聞き慣れない名前ですが。
高木 滋賀県にできた新しい市です。合併した5町1村の町村さんたちが立候補し、一番若い町長さんが市長に当選されました。
三上 一番若い市長が当選、それはすばらしい。日本も流れが変わってきたということでしょうか。
高木 この市長さんは、日本の保有する地雷の大部分を自分の町で引き受け、爆破処理し日本を「地雷ゼロ」にしたというすごい人です。この提案を出したとき、町では「地雷輸送や爆破は危険じゃないか」と反対もあったそうです。
三上 そんな良いことにも反対がありますか。そういえば、どんなに必要でも、ゴミ処理場とか、し尿処理場とか、火葬場建設は反対にあいますね。
高木 Not in my back yard(うちの裏庭には嫌よ)なんです。原子力発電所もそうでしょう。だからこそ、立地には莫大なお金が動くのです。大きなお金が動かなければ、「誘致」したり「推進」したりする人はいないでしょう。
三上 僕は、原子力発電は国防上反対です。万が一、戦争になったとき、相手の国は原爆の代わりに原子力発電所に向けてミサイルを撃てばいいという話になります。それに、人為的な事故もずいぶん起きています。人間にミスがないわけはないし、スリーマイルアイランドやチェルノブイリのようなひどい事故もありえますよ。ドイツやイタリアなど多くの国がチェルノブイリ事故をきっかけに原発を見直したように、やめていくべきじゃないですか。
高木 今は、欧州のほとんどの国は「脱原発」です。しかし、日本には53基の原発があります。世界には、434基あります。
三上 約1割ですね。
高木 日本は、資源消費、エネルギー消費、自動車の保有台数、二酸化炭素排出など、多くの環境問題についても地球の約1割を占めています。それだけの責任、それ以上の責任があると思います。
「歩きましょう。自転車に乗りましょう」
三上 高木さんとのお付き合いは、考えてみると12~13年になりますね。あるセミナーで初めてお会いしたのですが、食事のとき、やおら箸を取り出してお使いになった。そのことを非常に印象深く覚えております。その場で『地球村』の会員になったかどうかは覚えていませんが、その何年か後には、会員になっておりました。
高木 その後、岐阜で私たちが対談したセミナーがありましたね。確か、企業か商工会議所かが主催したセミナーだったと記憶しています。
三上 あれは、そのセミナーの事務局から人選の相談がきて、「ぜひ高木さんに」ということになったんです。私の師匠であり船井総研の創業者である船井幸雄さんが、折に触れて「みなさん、こういう人がいるのを知っていますか」と、高木さんのことを話していました。「食べない、飲まない、汗も出ない。洗濯もしない」というので、「ええ!?じゃあ、すごく痩せていて不健康ですか?」と訊くと、「とんでもない、元気で、健康で、毎日講演もしている。全国どこにでも行く。外国にも行く」というじゃないですか。最初に船井さんから、高木さんの話を聞いたときは、「やれやれ参ったなあ…」と思ったものでした。
高木 食べない、飲まない訳ではありませんが、いたって健康です。みなさんが食べ過ぎ、飲み過ぎなんですよ。
三上 そうなんでしょうね。僕たちは過剰に浪費していると思います。浪費のツケといえば、このところ地球温暖化現象を実感しています。僕はここ湖西市に18歳まで暮らしていたのですが、小さい頃の冬、気温は0℃以下まで下がり、しょっちゅう氷が張っていました。ところが今年は、かなり寒い冬だったと感じるのですが、それでも氷が張ることはほとんどありませんでした。女房の実家は松本で、諏訪湖の御神渡り(おみわたり:急激な気温低下で湖氷に亀裂が入る現象)が有名なところですが、近年はその現象が見られなくなってきたそうです。諏訪湖は、戦前は戦車が乗れるほどの分厚い氷が張ったと聞きますが、現在は車だって乗れません。地球温暖化は、科学的なことはわからずとも、実感してわかるほどに進行していると思います。
高木 そのとおりです。ぜひ、地球温暖化対策を市政に反映してください。
三上 市としては、ISO14001の認証を2000年に取得しています。先日、検査員が来ました。それで「30日のうち1日は、自動車通勤をやめましょう」というので、僕は部長たちに、「そんな1日だけやめようなんていわずに、歩いて15分以内の人は車をやめよう」といったんですよ。これを実行できたら、職員の車は半分くらいになり、大幅削減できるわけです。もしも日本全国の市長がみんなそういう考え方で、市職員や、学校の先生や、市に関連する職業の人たちに、「15分くらい歩きましょう。15分くらい自転車に乗りましょう」といいだせば、自動車通勤はかなり減るでしょう。例えば、15分圏内の人が車を使う場合は、駐車料金を高くするとか、そういうことも考えられます。
高木 すごいアイデアですね!
三上 そういう大胆なことをやるのがISOじゃないかと思うのです。冷暖房も、冬は18度~20度以上に暖かくする必要はないし、夏は27度以下にすることはないんです。
高木 ひどい場合には、冬は27度以上に暖め、夏は20度以下まで下げて「寒い寒い」といっています。三上市長のそうした方針は、基本として大切なことだと思います。
三上 僕は、実は市役所まで自転車でちょうど15分なんです。ただ「市長に事故があったら大変! 危ないからやめてください」という声で、自転車通勤を自粛しています。確かに、現在の道路は自転車にとって危険な作りになっています。歩道が車道よりも少し高いので、自転車が歩道を走るときは交差点のたびに"ガタン"と落ちなくてはいけない。しかし段差のない車道を車と一緒に走ると、それだけ危険も大きい。同じ高さの道路にして、ガードレールか植え込みで守られた自転車道路を作ればいいのですが、それにはお金がかかるし、市としては、国道や県道は手を付けられないのです。
高木 私は10年以上前に運転免許証を捨てましたので、自転車生活なんですが、都会ではかなり改善されてきましたよ。整備を進めていくことをぜひお勧めします。
三上 高木さんが、セミナーで「実践してください」「何かを始めてください」と締めくくられるのを何回も聞いています。自転車通勤もしかりです。僕がどう取り組むかも問われているのですね。
「当たり前を疑ってください」
高木 地球温暖化に伴う食糧危機も深刻です。近年、異常気象が続き、世界の穀物在庫は激減しています。さらに海面上昇が起きれば、農地はなくなります。そこで、自給率が高い国・オーストラリアにリッチなシルバー世代の移住が始まっています。オーストラリア人気の一つは食糧なんですよ。CO2の削減目標も日本では6%だといっていますが、日本はその目標にむけて、真剣な努力をしていない。エネルギー消費はこの100年間で100倍上がりました。これが、日本の便利快適生活なんです。
三上 日本は、便利さと引き換えに、環境を破壊し、経済を上げてきたということですね。
高木 そうです。ヨーロッパでは、この3月にはCO2をなんと80%も削減しようと再提案しようとしているのです。そうしないと、地球がもたないことを知っているからです。日本は、さっきも言いましたように、地球の1割を消費しています。中国は日本の10倍の人口ですから、中国が日本並みの便利快適生活になれば、地球が丸ごと、もう1個必要になります。
三上 10倍ですから、そうなりますね。
高木 インドも実は、中国以上に人口が増えていますから地球が、もう1個いります。南米も、アフリカも、東南アジアも「もう1個」となるでしょう。このままでは、近いうちに地球が6つくらい必要になります。これは不可能です。だからこそ、便利さも経済成長もCO2排出も、下げなくてはならない。ここが一番大事なことなんです。ヨーロッパでは、CO2の最大の排出源である自動車に、「自動車不要論」が出ています。車の使用を減らすこと、冷暖房を抑えること、三上市長がいわれた順番で努力しているのです。「マイカーが当然」という考えを捨てて、三上市長がおっしゃったアイデア「車をやめて15分は歩こう」というのを、本当にやっていかないといけないんです。日本やアメリカの認識は、あまりにもおかしい。
三上 当たり前を疑う…。まったく。日本とアメリカだけが、CO2削減に熱心でないということは、どういうことですか。
高木 もちろん経済です。経済優先です。環境よりも何よりも。しかし、ヨーロッパでは、経済優先だけが幸せではないという「価値観の転換」が起こったのです。私は、三上市長に2つのことを提案します。1つは「環境市長サミット」に参加されませんか。そしてもう1つは、「ストップ・ザ・温暖化キャンペーン」を行政として取り組み、温暖化対策を積極的にやっていきませんか。
三上 「環境市長サミット」次回はいつ開かれますか。
高木 6月です。開催地は持ち回りなので、次回は山形になります。風力発電やゴミ削減で成果のある町なので、おそらく参考になると思います。
三上 わかりました。参加できるように調整しましょう。
高木 「ストップ・ザ・温暖化キャンペーン」を、行政として取り組み始めたのが、札幌市と枚方市です。日本政府の取り組みよりも、市民の取り組みによってCO2削減を達成しようというこのキャンペーンに、湖西市としてトライしてみませんか。
三上 わかりました。やりたいです。
高木 ぜひ、よろしくお願いします。
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