スペシャル対談

2005年11月号 (株)アイケイ社長 飯田裕さん


通販会社「アイケイ」の飯田裕(ひろし)さんは、94年高木さんに出会い、そこから経営方針を「売上を追わない。利益はアジアの環境教育に」と転換、そこから会社は大変身しました。
 

「売上を追うことは、もうやめよう」


高木 こんにちは。お元気そうですね。では、まずは出会いから、お願いします。

飯田 出会いは、94年1月の船井総研のワンマンセミナーでした。高木さんの登場はセミナー2日目の昼。お話の内容は、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を覚えました。それから船井総研の仲介で、高木さんとマンツーマンでランチをいただく機会を得ました。ふところから「マイ箸」を取り出して使われる姿に、またショックを受けました。

高木 そこから飯田さんの変化が始まったのですね。

飯田 はい。それまでは、「儲けろ。成績を上げろ」と号令をかける、鬼のような社長でした(笑)。ところが、高木さんのお話をお聞きして、このまま、世界中で、"モア&モア教"(もっともっと売れ!もっともっと儲けろ! という経済至上主義)を続けていったら、破局は避けられないとわかりました。そして、"モア&モア教"の先人を切っている自分が見えて、半年くらい迷いました。「社員を食べさせるには、モア&モアも必要だ、いや、地球ごと共倒れだ」という葛藤の中で、まずはやれることからやっていこうと決めたのです。

高木 それが『地球村』の基本ですね。では、どんなスタートを切ったのですか。

飯田 最初は社内のゴミ分別でした。コピー用紙の裏紙使用も始めました。ところが94年当時は、名古屋市のゴミ回収は、燃えるか、燃えないかの2種類だけ。資源ゴミという分別がなかったのです。社内からも「分別することにどんな意味があるんだ」という声が出ましたが、「そういう時代は来る。やれることをやろう」と話し合い、行政にも掛け合いに行きました。実際に、ゴミの分別回収が始まるまで、社内の環境意識を維持することが大変でした。そして95年1月、社員へ向けての念頭の挨拶で「もう売上を追うことはやめる」と宣言をしたのです。そして仕入先、販売先、その両方に「今後の取引はこの方針に基いてやっていきます」と伝えました。

高木 すばらしい決断でしたね。その時、何歳だったのですか。

飯田 40歳前でした。まず、取り扱う商品の評価基準策定に着手しました。品質や人体への安全性はもちろん、環境への負荷、機械類は修理可能年数、部品の保管年数など、一つひとつ細かく基準を作っていきました。通販業界ではたぶんいちばん厳しい基準だと思います。

高木 どれくらいかかりましたか。

飯田 約10年かけて必要な情報をあちこちから集めました。先日、経営コンサルタントの方に「この評価基準を、コンサルタント会社に依頼して作ったとしたら、制作費は億単位でしょう」と言われました。

高木 そうでしょうね。非常に価値あるものだと思います。その評価基準を決めて、業績は変わりましたか。

飯田 不思議なことに「売上を追わない」と決めてから、業績が伸び始めました。自信と誇りを持って売れる商品を選んだということもありますが、一番変わったのは社員の意識(ハート)だと思います。社員が自信と誇りを持ったのです。お客様にも、仕入先にも、販売先にも、ビジネスではなく、相手の立場に立って考えられるようになっていったのです。

高木 私は「五事を大切に」で伝えていますが、「よく見る、よく聞く、受け止める」を大切にすると、人間関係は劇的に変わります。そういう意識の変化が、社長からみんなに伝わったために、業績が伸びたのでしょう。
 

「アイケイのファンを増やしていこう」


飯田 経営理念も考え直しました。本当に大切なのは、会社の規模、資本金額、社員数でも、株主の数でもありませんし、売上の多さなどもっての外です。むしろ「この会社が好き」と言ってくれるファンが多いことに尽きるのではないでしょうか。「環境に反するものは決して売らない」というポリシーが、周りのみなさまに伝わっていき、ファンが増えていくことを目指す、これを経営理念に決めました。それが、発展の大きなきっかけだったと思います。社員たちも自分のしごとに誇りを持ち、社会貢献をしているという手応えを実感したようでした。

高木 ファンを増やすことは、非常に明確な経営理念ですね。では、全国の生協で配布されている御社の環境良品企画「globe(グローブ)」について話してください。

飯田 globe企画は94年にスタートしました。社員たちも高木さんの講演会で勉強するようになり、そこで知った地球環境の事実を広くお知らせしようと「globe」というカタログを発行し、全国の生協で配布することになりました。高木さんにも毎号寄稿いただいています。生協さんで配ってもらうためには、商品も載せなくてはなりませんので、環境商品を載せるようにしました。すると、その商品が売れるようになり、利益が出てきたのです。

高木 そこでglobe基金の設立ですね。

飯田 そうです。globeでの利益は、globeの趣旨に賛同してくださった企業や個人、つまりファンのみなさまからの寄付だととらえ、そのまま環境のために役立てようと決めたのです。基金は環境教育のために使おうと考えて、東南アジアにふと目を向けると、ほとんどの国が「目指せ、日本」でした。そこで「経済発展よりも大切なものがある。どうか、目指さないで日本」を伝えるために、環境教育校を建て始めました。98年に1校目フィリピンのバギオに、2校目はセブ島ヒンガトモナン、3校目はセブ島サンタ・リタ、4校目はベトナム、フォン・ビ、5校目はベトナム、ビンザン、6校目は中国陝西省楡林(ゆうりん)市、7校目は中国陝西省佳県(ジアシャン)、8校目はインドネシアに建てました。現地で竣工式にも立会い、地元のスタッフたちに週に1~2回環境教育を授業に取り入れてほしいと要望を伝えました。


高木 「経済発展を追わないで下さい」という教育が、その8校で始まっているのですね。すばらしいことだと思います。ネットワーク『地球村』にもご寄付をいただき、ありがとうございます。

飯田 高木さんとの出会いが、globeの始まりです。私どもも、大変感謝しています。
 

「クリーンなビジネスで社会貢献」

高木 では、globe商品について少し教えてください。


飯田 環境によい商品の紹介だけではなく、自社で開発もしています。自社開発のものをいくつかお持ちしました。まずこれは「菊花の里」という蚊取り線香です。除虫菊と木の粉を練り合わせたもので、お香のように優しい香りがします。蚊は除虫菊に含まれているピレスリンという成分を吸って逃げて行き、死ぬことはありません。市販の蚊取り線香のグリーン色は着色料ですし、毒薬が入っていますから蚊を殺します。この商品は安全性の面からもお勧めしたい商品です。それから、この「油パックン」という廃油処理剤は、岐阜県の紙屋さんと相談して「牛乳パック」を利用して開発しました。1個で130mlの廃油を吸収できて可燃ゴミにします。もうひとつ、これは「爽快」という大人用のオムツです。これは世界初の「再生紙のオムツ」です。この商品の開発には、私自身も「爽快」を身に着けてねたまま排泄実験をしました。肌触り、吸収力、フィット感を実際に体感した上でお勧めします。赤ちゃんのオムツは肌に優しいものが売れ、大人のオムツは価格が安いものが売れるという悲しい現実もありますが、ぜひ環境にも優しいオムツを選んでいただきたいと思います。

高木 そうですか。すべて、私個人も関心のあるものばかりです。『地球村』は、すべてのベースはその人の生き方です。この商品は、飯田さんの生き方から生まれた商品なんですね。環境面から、ビジネスを再構築されたこと、本当に素晴らしいです。

飯田 私は環境活動家ではなく、ビジネスマンだと思います。その上で環境との両立を考え、利益を追求しない方針を貫いていきます。2001年12月4日にジャスダック(JASDAQ証券取引所)に上場いたしました。最初の環境企業ではないかと思います。12年前に高木さんに出会い、自分の考え方がきちんと定まったからだと思います。

高木 経営者の意識が変わると、社員が変わり、会社が変わる。アイケイさんはそれを実践されたのですね。

飯田 世の中では「お金にはいいお金も悪いお金もない」と言われますが、私は、どのようなプロセスで得たお金か、クリーンなお金か、ダークなお金か、社会貢献している会社か、環境破壊をしている会社か、それが問題だと思うのです。今後、エコファンド(企業の環境への取り組みが投資尺度になる投資信託)でも問われてくる部分です。アイケイが、これからその一つのモデル企業になれればと考えています。

高木 『地球村』には、市長、医師、農家など職業別のネットワークがあります。経営者ネットワークや経営塾で、情報を共有したり、意識を高め合ったりできるようになるといいですね。ぜひ、経営塾にご参加ください。

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