2006年2月号 (株)アレフ取締役社長 庄司昭夫さん
ハンバーグ専門店「びっくりドンキー」を全国展開する庄司昭夫さん。次世代を考えた経営方針として、アレフ直営牧場やアレフ農場にも挑戦しています。
「安心で健全なおいしさを全国へ」
高木 『地球村』との出会いについて、お話しください。
庄司 4、5年前のことです。『地球村』に興味を持ち、『地球村宣言』を読ませていただき
ました。日本と世界の問題が見事に整理されていて、私が日頃考えていることと共通する価値観を感じ、非常に感銘を受けました。それで、この本の著者である
高木さんにぜひお会いしたいと、対談の場を設けさせていただきました。
高木 ああ、そうでしたか。あの時の対談が最初でしたか。あの対談記事、なんと10ページ以上にわたり、環境のこと、世界の現状のことなどが、詳細にまとめられていましたね。あとで読ませていただいて、驚きました。ずいぶん、理解や関心が深い方だと思いました。
庄司 私は、岩手県盛岡市で商売をスタートさせました。私はジャズをやっておりまして、そ
の時の仲間や先輩から、「店の大小を語るよりも、店の正しさを語れ」、「企業の存在意義は、利益ではなく社会性である」「繁盛店とは、お客様が得をする店
のことである」といった、商売道徳をしっかり教わることができました。ベースとなる考え方を、最初に確立できたことは本当によかったと思っています。商売
を始めた頃、目標は年商100億円でした。しかし、だんだんと目標に近づき、それを達成できた時に、「そうではないな、どれだけお客様に喜んでいただける
か、それが問題だ」と気付きました。今では、はっきりと環境や安心・安全が一番大事だと考えています。若い頃よりも夢は大きくなりまして、すべての日本人
に喜ばれる店にしようと思っています。
高木 それは大きな夢ですね。外食産業は味、安全性、栄養、コスト、店の雰囲気などが問われますから、食材の調査、研究、選択、入手経路、調理、そして売れ残り、食べ残しをどうするかなど、課題がたくさんあり、やりがいがありますね。
庄司 そうです。例えば、現在、狂牛病の問題があるのに、アメリカ産の牛肉輸入が解禁され
ようとしています。全頭検査もしてないのに安全だといっています。これは当てにはならない言葉だと思います。第一、アメリカではベジタリアンが非常に増え
ているといいます。だから、よけいに牛肉問題が政治的問題になるのではないでしょうか。私は、早い時期からニュージーランドの酪農に関心を持ってきまし
た。ニュージーランドでは、牛を放牧して、牧草だけで育てています。つまり問題の肉骨粉は食べさせません。牛は、成長した牧草は食べるけれど、若葉のうち
は食べません。完全に循環型の酪農なのです。牛に胃が4つあるのは、繊維質を消化するためです。牛は牧草で育つべきで、穀物中心のエサを食べさせてはいけ
ないのです。
「アレフ牧場を日本の酪農モデルに」
高木自社牧場をお持ちなのですか?
庄司 1990年から関連会社で牧場経営をしています。私どもは「安心安全」「環境」「文
化」をテーマに掲げていますから、無農薬で、餌を買わずに自給できるニュージーランドスタイルの牧場に挑戦しています。安心できる食材の提供が、お客様に
喜んでいただける第一の条件だと思っています。こうしたやり方が、モデル牧場として確立すれば、そのノウハウを公開したいと思っています。
高木 日本では、そうした自然放牧の畜産は難しく、輸入の穀物飼料、肉骨粉が通常だと言われていますが。
庄司 そこが問題なのです。日本の酪農界には、アメリカから買った餌で育てるのが一番いい
という考え方が根深くあります。そもそも牛は牧草で育つものなのに、アメリカが余った穀類を、冷蔵庫代がもったいないからと、牛に食べさせ始めたんです
ね。日本は牧場が狭く餌が足りなかったので、そのやり方を真似たんです。アメリカのやり方をそのまま、国土も面積も違う日本に持ってきたことが間違いなん
ですよ。現状の家畜の餌は主にトウモロコシですが、トウモロコシを作るのには麦の3倍の水が必要だといわれています。つまりトウモロコシと一緒に、アメリ
カの地下水も輸入しているんです。子孫に残すべき資産を、私たちの世代で使っていいのかという話です。日本の大学の先生は、日本とニュージーランドは違う
とおっしゃいますが、だからといってアメリカの餌を買う方法がいいのか、そこを問いたいのです。ぜひ、アレフ牧場をこれからの酪農モデルとして軌道に乗せ
たいです。
高木 同感です。日本の家畜のエサは、90%以上が輸入の穀物ですが、その量はなんと約4
億人分の穀物です。4億人分の穀物を家畜のエサにして、十分の一の量にして4千万人(国民の3人に1人)が肉を食べているのです。日本人は、世界の飢餓・
貧困の大きな原因となっています。私がつねづね、「肉食を減らしましょう」と呼びかけているのは、このためです。その他には、どんな取り組みを?
庄司 北海道に、不耕起栽培の冬水田んぼを持っています。冬の間も、水を張っておくとプラ
ンクトンや糸ミミズが増えていきます。生物の糞尿は、田植えをする1ヶ月前くらいにはチッソ肥料になりますし、水を張ることで太陽光が届かないので雑草の
繁殖を抑えます。この方法ですと、昔のように、きれいな水の田んぼが戻ってくるのです。
高木 いいですね。まさにビオトープ(自然生態系)ですね。
庄司 田んぼも、自然の生態系の中にあるべきなのです。こうした昔ながらの優れた
農法だと、化学肥料はいりません。昔は、給水も排水も同じドブで行い、ドブにはドジョウがおりました。それが今では、子どもが田んぼで遊ぶことはないし、
生物がすめない灌漑用水路で、化学肥料を入れた米を作っています。そして減反。日本は、食の安全を手放して、少しずつ自分の首を絞めているようなものだと
思いますね。
「環境面の取り組みで真似される店に」
庄司時々大学に呼ばれてお話しさせていくことがあります。そういうときも、「就職先を選
ぶときは、企業の大きさではなく、正しさを見て選びなさい」と話しています。また、農業政策を討議する場所にも呼ばれますので、食の安全の必要性を話して
います。しかし、BSEや遺伝子組み換え作物など、これから取り組まなければならない問題が山積みで、どこから手をつけたらいいかわからないほどです。
高木 今、『地球村』では企業会員さんが増えています。そして「経営塾」を始めました。そ
こで、経営者はどうあるべきかなどを話し合うのですが、一社でできることは一社から。しかし、同業他社が協力することで、もっと大きなアクティビティが生
み出せるのです。外食産業では、ワタミさん、マルシェグループさん、ソルビバさんなど、環境に真剣に取り組んでいる優良な企業会員さんがおられますので、
互いに手をつなげば、すばらしいことが起きると思います。
庄司 そうですね。そうして、素晴しい企業がどんどん増えていけばいいと思います。しか
し、現状の外食産業界は、まだまだ、こうした認識が遅れています。アメリカ産牛肉の輸入再開の大合唱ですから。危険部位の除去といいますが、それだけで安
全といい切るのはおかしいのではないでしょうか。私たちが今進めている酪農や農業のノウハウや、店舗での環境面の取り組みを公開することで、外食産業が変
わっていけばいいと考えています。これまで外食産業は、チェーンストアの運営方法などをアメリカから学んできました。これからは、日本の文化や伝統を大事
にした方法で、真似される側、学ばれる側になりたいと思います。
高木 業界でも大手のアレフさんがそうおっしゃるのですから、期待しています。いい企業はグリーンコンシューマが応援しますから、それがわかるような取り組みをお願いします。
庄司 例えば、店で使う割り箸は、まずはユーカリに、それから竹に変えました。私どもの竹
箸は、桂林周辺のタケノコ林でタケノコを育てるために間伐された成竹を利用しています。店で使う紙類は、すべて再生紙を使っています。それに一番ユニーク
なことは、店舗の作り方なんです。フランチャイズだからといって、建物を同じ規格品にして、ゼロから建てるのは無駄じゃないですか。ですから他でうまくい
かなくなった店舗を、そのまま利用してリフォームするのです。そのやり方でオープンさせてきましたから、全国にいろいろなスタイルの店舗があります。「規
格化をしないであるものを生かすこと」それがアレフの標準規格なのです。
高木 たしかに。先日、びっくりドンキーのお店を見て、本当にビックリしました。天井に三輪車がぶら下がっていたり、映画「ウォーターワールド」の要塞のようなお店でした。ところで、CO2削減の取り組みは?
庄司 私たちは、地球温暖化の原因にもなっている焼却ゴミを減らそうと、自社の生ゴミリサ
イクル100%を目指しています。そもそも生ゴミというものは存在しませんね。生ゴミ処理機を使えば、エネルギーや資源になるのです。他に、地中熱を利用
したヒートポンプシステムの導入も進めています。レストラン全体のエネルギー使用量は、1年目で1割、2年目でさらに1割削減でき、今3年目に入ったとこ
ろです。
高木 減らしたところからのスタートは、さらに努力がいるでしょうが、ぜひ「ストップ・ザ・温暖化キャンペーン」へ、お店としての登録も検討してください。
庄司 前向きに検討したいと思います。それに限らず出来ることは一緒にやっていきましょう。農協にも、行政にも、学者さんにも、素晴しい人たちが出始めていて、世の中をよくしようとしています。これからだと思います。
高木 ありがとうございました。今後のご活躍を期待しています。それから、『地球村』の「経営塾」などにもぜひ、ご参加ください。宜しくお願いします。
■株式会社アレフ
http://www.aleph-inc.co.jp/