スペシャル対談

2006年12月号 NGO「MAKE THE HEAVEN」代表 てんつくマンさん

ドキュメンタリー映画『107+1~天国はつくるもの~』で、『地球村』のアフガニスタン支援と縁があったてんつくマン(軌保博光さん)は、現在、香川県小豆島などで「MAKE THE HEAVEN」の活動を展開中。そもそも、てんつくマン誕生には、高木さんの影響が!? (写真右がてんつくマン氏 ※対談本文中はTM)


てんつくマンでええんちゃうかー !


高木 こんにちは。まずは、活動のきっかけを聞かせてもらえますか。

TM 僕は吉本興業でお笑いをやっていたんですが、ある時、映画『マルコムX』を見て感動して、舞台でマルコムXの芝居をしたんです。すると吉本の人に呼び出されて「お前はお笑いやから、お笑いだけしとったらええんや」と言われて、「お笑いだとやったらあかんことがあるんやったら、軌保博光に戻ろう」と思って吉本を辞めました。その時、「映画を作ろう。映画やったら好きなことができる」と思ったんです。

高木 それは何歳のとき?

TM 26歳です。それからは映画の世界に入って、役者としてやっていましたが、「やっぱり自分でメッセージを発信したいなあ」と思いまして。自分で脚本を書いて映画を作るには資金が必要です。そこで、路上に座って言葉を書き始めました。ある日、お客さんが「私に向けて言葉を書いて」と言ってくれて、その人のおかげで、インスピレーションで言葉を書くっていうのを始めたら、マスコミが取材してくれて、「本を出版しませんか」「個展をしませんか」という声もかかるようになって、気がつけば映画の資金6000万円が集まっていました。

高木 すごいね!ついに映画が作れるようになったんだね。

TM はい。資金ができて、もう一度、「何のために映画を作りたいんかなあ」と思ったときに、「この映画を観てくれた人が動き出して、世の中がちょっとでも変わるような、そんな映画にしたい」と思ったんです。タイトルだけは先に決まっていたんです。それが、「107+1天国はつくるもの」です。

高木 「107+1」ってどういう意味?

TM 僕は煩悩の数としてつけたのですが、ある人から「108は元素の数と一緒だね。水素と酸素が出会ったら水が生まれるように、いろんな人が出会っていったら、天国だって作れるよという意味が込められているんじゃないの。深いタイトルだね」と言われて、「すごーい!それいただきます!」ってことで、それからは元素の数という言い方をしています。そこで、いよいよ高木さんに出会うんですが、最初は本屋さんだったと思います。高木さんの地球環境の本が目に付いて読んでみたら、「この世は、全然、天国じゃないやんかー!」ということが書いてありました。「こりゃ、えらいこっちゃー!」と思って、すぐに通販でビデオを買いました。それを見て、さらに驚き、「これは生で聴きに行こう」と東京の講演会に出かけました。そこですごく衝撃を受けて、「僕が作るのはドキュメンタリーや!」と決めたんです。高木さんから衝撃の現状を聴いてしまった以上、環境というキーワードを入れたドキュメンタリー映画しかないと。

高木 じゃあ、いいタイミングで出会ったんだ。よかったね。

TM いや~、本当によかったと思います。高木さんが教えてくれた情報を、科学の知識もない僕がそのまま伝えても伝わらないだろうなあと考えました。でも僕のように何だか分からないけれど、感覚で「地球がおかしいなあ。何かしたいなあ」と考えている人もいっぱいいるはず。そういう連中が動き出すようなドキュメンタリー映画であって、環境を難しくなく伝えるにはどうしたらいいだろうかと考えたときに、「エンターテイメントやぁ~!」と思ったんです。

高木 本当におもしろいなあ~。君の発想は。

TM 僕が軌保博光じゃなく、何かキャラクターになろうと思って、天国はつくるものだから「てんつくマンでええんちゃうかー!」ということで、てんつくマンが誕生しました。

楽しく動いて、気がついたら環境 !


高木 あはは…。君が話していることは、おもしろい上にとても大切なことですよ。私の講演を聴いたり、本を読んだりして「えらいこっちゃー」とそのまま私の言葉を断片的に伝え始めると、伝わらないどころか、かえって周りの人を引かせてしまうことがあります。「高木さんはこう言っている」「高木さんのデータでは…」と、一生懸命話せば話すほどマイナスになる。君は、「自分で何ができるか」と考えたところが、すばらしいなと思います。

TM いやあ、やっぱり僕の友だちは、僕のバックボーンを知っていますからね。アホなことも、勉強していないことも知られていますから、急に「環境が!」と言い始めても伝わりませんよ。ただ僕には、高木さんがこれまでに伝えられている層とは、ちょっと違う層に伝えられるかなと思ったんです。

高木 それも、とても大事なことだね。

TM 僕は、この映画を作るとき、高木さんの講演からすごく大きな影響をもらったんですが、もう一人影響を受けたのが、20年前に琵琶湖を手でつないだ人なんです。

高木 えっ!・・・琵琶湖は周囲235キロだから20万人以上だよね。

TM そうなんです。その人は、重度の障害者施設を作る資金1億円を集めなくちゃいけなくて、手をつなぐ参加費1000円を集めたんです。テレビ中継もされて「うわー、つながったー!」って喜んで、参加者は最後にゴミを拾って帰ったそうです。その仕掛け人の方に、「気がつけば環境。気がつけば福祉ってところを狙ったらどうや?」っていわれたんです。それを聞いて、「そっか。楽しいことをやって伝えるために、僕がいるんだ」と思いました。

高木 なるほど!それが君の役割だね!さて、映画はどのくらいの期間で撮ったんですか。

TM 資金集めに7年半、撮影は半年間。2003年に完成しました。アフガンの子どもたちにマフラーを届けるとき、現地で受け取ってくれるNGOがなかなか見つからなくて、そんなとき『地球村』にはものすごくお世話になりました。僕らは、「とにかくアフガンに行けば、誰かと出会って、どこかに届けられるやろう」くらいの計画だったもので…。

高木 本当に君は無茶だなあ・・・(笑)。でも、その行動力が若者たちに受けるし、無茶をしないとできないこともあるからね。無茶をしない人は、アフガンにマフラーを届けようとは思わないだろうね。沖縄から鹿児島まで舟を漕ごうなんてことも考えないだろうね。

TM あれも900キロの海路ですからね。「ええ加減にせえよ」というくらい綱渡り人生なんです。プロジェクトも、ちょっと頼りないリーダーを、みんなが危機感を感じて盛り上げていくということになっていますし。

高木 おもしろいね。ふつう企業のプロジェクトは、優秀なリーダーを決めて、リーダーがチームメンバーを集めるし、それが成功のコツなのに、君は正反対をして成功しているんだね。

TM そうですね。今、僕には有限会社クラブサンクチュアリと、NGO「MAKE THE HEAVEN」があるんですけれど、会社でそれをやるとうまくいかないんですよ。お金が関わってくると、ピタッとアイデアが止まる。ボランティアだからうまくいく方法なんだろうなあと思いますね。

動けば変わる ! 未来が変わる !


高木 では次に、現在の活動を教えてもらえますか。

TM 実は、映画を作ったときにはっきりと分かったのは、「僕は映画を作りたいわけじゃなかった」ということなんです。

高木 ははは、おもしろいなあ~君は。

TM 何が嬉しかったのかというと、人が成長していく姿を見ることや、ゴミを拾うと目の前からゴミがなくなるんだという当たり前のことだったんです。ゴミを捨てる人を注意するよりも、ゴミを拾う人を増やせばいいんだ。注意して「うるさい!」というエネルギーを受け取るより、そっちがいいんだと思ったんです。

高木 実によく分かるよ。拾う人は、捨てられなくなるからね。

TM 拾えばきれいになる、みんなにも喜んでもらえるってことを知って、映画ができたという喜びも確かにあったんですけれど、世の中が変わっていくこととか、問題がクリアできることとか、そういうことが面白いなあと思うようになりました。こうして、すばらしい世の中を作っていくことが、楽しいなあと。ただ、すばらしい世の中を作りましょうといっても、どんなものなのか伝わらないものなので、ハッピーなサンプルの村を作って、それを見てもらうのがいいなあと思いました。「ちょっとうちの村を見ていって」って言って、「どうぞ、パクってください」って言ったら、次の人が真似て、アレンジしてもっとすばらしい村を作ったら、それがいつの間にか、日本中に広がるなあと!

高木 それがSTEP村なんだね。どこまでできたの。

TM 7年契約で借りて、今、建物を修復しているところです。最初はぼろぼろの建物だったんですが、みんなで壁を塗っているうちに愛着が湧いてきました。昔、段々畑だったところもあるので、これから開墾して畑や田んぼを作ろうと思っています。

高木 常時、何人くらいいるの?

TM 20人くらいです。

高木 食糧もいるし、現金収入もいるし、お米はどうしているの?

TM 米はくれる人がいるんですよ。お寿司屋さんで古米をわけてくれる方が現れて。あとは「ちびさん本」が、毎月売上を上げてくれているので助かっています。

高木 他に、海外プロジェクトがあったね。

TM 中国の植林に、毎年行っています。参加者は、すごいモチベーションの高さなんですよ。昨年は中国の人によって30万個の穴が用意されていて、そこに苗を植えていったんですが、今年は自分たちで掘るところからやったんです。砂嵐の中、マスクとゴーグルですごいテンションで楽しそうに掘り続けて、現地の人がほんまにびっくりしていました。

高木 何月ごろ行っているの。

TM 4月です。ほんま、みんなマゾばっかりです。前回は、1日だけ休みをとって観光をしたらすごい怒られたんです。「観光はいらん。もっと木を植えたかった」っていう苦情のアンケートがいっぱい来て、「おまえら、どれだけ木を植えたいねん!」って思って、今年は3日間きっちりと植林だけをしました。後はカンボジアの支援をしていて、こちらからツアーで行ったり、孤児院の子どもたちに来てもらったりしています。この孤児院のお父さんは36歳、お母さんは25歳。この2人は子どもができなくて、「それなら孤児院を作ろう」といって24人の子どもたちを育てています。2人が動いたことで子どもたちの運命も変わった。2人の選択がたくさんの人を笑顔にすることを、本当に見せてもらったんです。これをたくさんの人に伝えたいなあと思っています。これからも、子どもたちの成長を見ながら、伝えていきたいと思っています。

高木 うん、いいね。『地球村』と、何か合同のプロジェクトやろうか?

TM ほんまですか。やりましょう!

高木 年間計画を後で教えてください。

TM 自分が動くことが、今だけではなく、これから何十年、何百年、何千年も、遠い未来まで変えていく可能性があるということを、僕も忘れないし、こうして『地球村通信』を読まれている仲間たちも忘れないで欲しいなあと思っています。

高木 よく分かりますよ。その志を持って、一緒にプロジェクトを考えていきましょう。まずは、1月のジョイントイベントよろしくね。

■ MAKE THE HEAVEN ~地球に笑顔を増やすNGO~
http://maketheheaven.com/