スペシャル対談

2007年2月号 NGO風人ネットワーク 南ぬ風人(ばいぬかじびとう)まーちゃんさん

風人(かじぴとぅ:自然と共に生きる人)という思いから、オリジナル曲や島唄を唄い、みんなが楽しめる「風人の祭」を全国各地で開催しているまーちゃん(本名:山下正雄さん)。以前、「地球村通信」で、まーちゃんの曲「大地へ帰ろう」が紹介され大反響をまきおこしました。(写真右がまーちゃん)


沖縄から平和のメッセージを伝えたい


高木 やっと君に会えてうれしいなあ。99年にね、『地球村』事務局のスタッフが、君の曲「大地に帰ろう」に惚れ込んで紹介してくれて、その手話ダンスは『地球村』の全国の仲間に広がっていきました。そのころ地域で活動していた人は、みんなまーちゃんのことを知っているんですよ。では、これまでの活動を教えてもらえますか。

まーちゃん(以下まー)僕は沖縄の西表島の出身ですが、18歳のときに大学入学をきっかけにして大阪に出て来ました。歌い始めたのは20歳のときです。

高木 最初はどんな風に?

まー 僕が歌いだした理由は、二つあります。一つは西表島の開発を止めたい、自然を守りたいということ。もう一つは、沖縄から基地をなくしたいということ。この2つのメッセージを表現するために、20歳の青年に何ができるかというと、それは歌うことだと思ったんです。反対運動ではなく、沖縄のメッセージを、歌に託して伝えていこうと思ったんです。

高木 なるほど。そのきっかけは何だったの?

まー 小学生の頃、大好きな砂浜が、国の公共工事で防波堤にされたんです。ある日、砂浜が掘り起こされて、ダンプカーで砂を持って行きました。その後に、大きな石が投げ込まれて、防波堤にされた、コンクリートの塊に変えられたというのが、ずっと心に残っていました。小学2年から5、6年生にかけての出来事です。それまで釣れていた魚が、だんだん釣れなくなっていく。サンゴ礁もどんどん壊れていく。そういう子どもの頃の経験があるんです。

高木 それは衝撃的な体験だねえ。

まー 昔からの島の暮らしが、時代の波に飲まれて、成り立たなくなっていく様子が、自分の手に取るように分かったんです。なので20歳で歌いだす前から、僕の中では方向性ができていたんです。

高木 じゃあ、その後のことを話してください。

まー 大阪にも沖縄の人がたくさんいて、沖縄料理店もありますから、そういうお店に行って歌ったりとか、米軍基地反対の集会があると、デモ行進の先頭に立って歩いたりしました。「反対 ! 反対 !」というデモ行進じゃなくて、三線(さんしん)を弾いたり、エイサーという太鼓を鳴らしたりして「陽気に歩こうじゃないか」と先頭に立ったんです。そのうちに、沖縄の平和運動の活動をされている方たちとつながってきました。今でもそういう集会があって、声がかかれば、スケジュールが空いている限り駆けつけて、三線を弾いています。

「大地へ帰ろう」は、おりて来た!


高木 「大地へ帰ろう」は、オリジナル ?

まー オリジナルです。

高木 この曲は、事務局の女性スタッフたちが「すてきな歌があるので見てください」っていってね、クリスマスパーティーで踊ってくれたんだけど、それが本当にとてもすてきでね。歌詞もすばらしかったので、『地球村通信』の巻頭言(2000年 10月)で紹介したら、全国に広まったよ。

まー ありがとうございました。たしかにあの頃、『地球村』でご紹介していただいたおかげで、全国で『地球村』のみなさんがライブに来てくださるようになりました。

高木 あの歌詞は、とてもいいね。どうやって書いたの ?

まー あの曲、あの歌詞は基本的に、「おりて来た」って感じなんです。僕の作詞は、島の長老とか、島の習慣とか、お祭りとか、自分の体に染み込んでいるものを表現しているだけで、あんまり頭で考えていないんです。サビの部分で「♪風になり、鳥になり、自由に踊りましょう♪」というところは、「人間が、本来の生きている姿に戻ればいいだけなんだよ」というシンプルなメッセージを語り出したら、自然に生まれてきたんです。つまりあれは、歌ではなくて語りなんです。「♪土と話をしてたのはそんな昔のことじゃない♪」も、人間の暮らしは昔も今も同じことで、自然の中にあるんです。そこから、ちょっと外れてしまったのなら「そこに戻ればいいんだよ」という思いなんです。実際に、西表島には、田んぼを作り、自給自足に近い暮らしがまだ残っています。それを、僕らが平和の心を持って守っていけたら、と思っています。ちょうど、同じ頃に作った「宝物」という曲があるんですが、こちらは「♪花の咲く大地に生まれてよかった。鳥の鳴く星に生まれてよかった♪」という歌詞を「この星に生まれたことに感謝したい」という気持ちで書きました。西表島の山の神様が与えた、一つのメッセージだと思うんです。僕は、体を通してそれを表現している感じなんです。

高木 すばらしい。それは君に与えられた大事な使命なんだろうね。

まー 僕が島で、昔ながらの農業をやったり、海人(ウミンチュ)をやったりしてもいいけれど、それだけでは自然を守れないと思ったんです。どんどん外へ向かってアピールというか、メッセージを投げていかないと、時代の波は押し寄せて、20年後、僕の子どもたちの時代には、西表島すら東京と同じようになってしまうかもしれない危機感を持ったんです。そこに、僕が僕の歌を歌う理由があるんです。

高木 しっかりした考えを持っているね。その通りだと思うよ。

まー 島で、昔ながらの生活をしてきた長老たちは高齢化しています。長老たちの知恵や歌を、生きている間に、直接会って話を聴いたり、歌を聴いて覚えようと思って、2ヵ月に1回のペースで島に帰っています。

日本から世界へお祭りを広げたい !


高木 子どもの頃から、歌が好きだったの ?

まー 僕には、歌や踊りは当たり前っていうか、それは生活なんです。島では、歌うことや踊ることが人間の日常の動作だと思って育ってきたので、人間って本来は、みんな音楽が好きなんだと思っているんです。音楽はもっと楽しくて、もっと大切なんだよ、ということを広げていきたいんです。それが「祭り」を作ることだと思って、「風人ネットワーク」を全国各地で展開しているんです。

高木 それについて、もっと話して。

まー 僕のアーティストネームは、島の方言で「ぱいぬかじぴとぅ」と読みます。「風人」という言葉に、自然の中でみんなが思いやりを持って生きようというメッセージを込めて、全国で「風人の祭」を展開しているんです。

高木 あなたが全国で主催するの ?

まー 全国各地に地元の実行委員会があって、それを結ぶために「風人ネットワーク」というのがあるんです。10月下旬に大阪で行われたお祭りが一番大きくて1500人の人が踊りました。和太鼓、津軽三味線、それからゲストとしてアフリカの太鼓も登場しました。みんなが無料で参加できるようにしました。

高木 無料というと ?

まー お祭りには150~200万円くらいの費用がかかるのですが、認知度が上がってきたので、協賛してくれる人もたくさんいるだろうと見越して、無料にしてみたんです。

高木 へえ、それで無事に協賛金は集まったんだね。

まー はい、何とか集まりました。これは本当におもしろいお祭りなんですよ。僕はできるだけ庶民を巻き込んでお祭りしようと思っています。実行委員会は、いろいろな人が参加しているんです。『地球村』の方もたくさんいらっしゃいます。

高木 『地球村』の仲間は、みんなまーちゃんが好きだからなあ。じゃあ、このお祭り以外の活動は ?

まー 全国23ヵ所のお祭りと、もちろんライブ活動もしています。結構忙しいです。小学校や保育園に呼ばれることもあって、僕の演奏に合わせて、小さいお子さんたちが踊りだすと、一緒にお母さんたちも踊りだして、それを見ているおじいちゃんやおばあちゃんもニコニコ笑顔になるという感じです。

高木 いいねえ。それは、まーちゃん自身が伝わっているんだよ。今のあなたから伝わってくる、このエネルギーやパッションは、本当にすばらしいと思う。

まー そう言っていただくとうれしいです。僕は今、日本中でこのお祭りを開催しているんですけど、できればいつか世界中でお祭りをやりたいというビジョンがあるんです。国が開催する民族の音楽の祭りというのは結構あるんですけれど、民衆が主導して行う音楽祭っていうのは意外と無いんですよ。

高木 海外は、例えばどこで?

まー まずはアジアです。それから、アメリカにメッセージを発信したいです。これまでも、カナダでネイティブアメリカンと交流したり、ロシアでアイヌのイベントなどに出演したり、内モンゴルにも行って演奏したりと、いろいろやってきたんですけれど、言葉の壁を越えて音楽が伝わり、最後にはみんなが踊るんです。この経験から、三線一本で世界中どこにでも行けるという、大きな自信になりました。

高木 そうだね。音楽を通して、平和な世界を願う君自身が伝わるんだから、どこでも大丈夫だと思うよ。

まー 沖縄から世界へ、平和のメッセージを発信したいんです。これからも、そのためのお祭りを作っていこうと思っています。

高木 よーし ! そういうことなら、私も応援するよ ! 何かできることや、頼みたいことがあったら相談してね。

まー ありがとうございます。『地球村』のみなさんと仲良くつながって、「風人の祭」に高木さんにもゲストで出ていただきたいと思っています。

高木 OK ! スケジュールさえ合えば、行きますよ。今度の2月25日のうちのお祭りには、まーちゃんが来てくれるんだよね。

まー ええ ! 楽しみにしています。

高木 じゃあ、よろしくね ! うちのお祭りは、冊子『ありがとう』が10万部になる記念の感謝祭で、無料のイベントなんだ。ゲストにまーちゃんが来てくれるので、みんな大喜びだよ !

まー 『地球村』感謝祭で「大地に帰ろう」の大合唱をしましょうよ。僕が三線弾いて、一緒に歌いましょう、踊りましょう。

高木 いいね。 盛り上げよう♪

■ 南ぬ風人まーちゃん
http://www.painukaji.com/