スペシャル対談

2007年3月号 ナマケモノ倶楽部世話人 辻 信一さん

明治学院大学教授で、NGO「ナマケモノ倶楽部」世話人の辻さんは、「100万人のキャンドルナイト」「ハチドリ計画」など、さまざまな環境・文化運動の仕掛け人です。これから、ますます日本をスローでシンプルにしていくお2人の初顔合わせとなりました。 (写真右が辻氏)


がんばらないナマケモノになろう !


高木 こんにちは。私が辻さんを初めて知ったのは、3年前の「100万人のキャンドルナイト」の時でした。「ナマケモノ倶楽部」というネーミングがユニークだったので、「よくわかった人が名付けたのだろうな」と思いました。私の基本理念は「非対立」、つまり「反対運動をしない、抗議要求をしない、主義主張をしない、戦わない」というスタンスです。これは反対運動よりも大きな変化を生み出します。「キャンドルナイト」も「ハチドリ計画」も手法が緩やかで、「非対立」と通じるものがありますね。

そうですね。その「非対立」には、非常に共感を覚えます。ガンジーの言葉で「Be the change(あなたが起こそうと思っているその変化に、あなた自身がなりなさい)」というのがあるのです。そういう考え方にも通じますね。反戦と非戦の差もそうですしね。

高木 そうそう、反戦から非戦へ、反原発から脱原発へ。対立そのものをなくそうという考え方が「非対立」なんです。

全く同感です。

高木 辻さんの「ナマケモノ」という考え方も一緒なのですね。

そうです。僕は中南米エクアドルで、植林活動のお手伝いをしていたのですが、そのとき出会った動物がナマケモノなんです。私が現地で感じたことなんですが、先進国の人間が、先進国の時間をそのまま持ち込んでものすごい勢いで動く。それは現地の人たちにはとても違和感のあることなんです。先進国の人間が森林保護に忙しく活動するよりも、生き方をエコロジカルにして、スローダウンすれば人も自然もみんながホッとするんです。植林も大事だし、活動や運動も大事かもしれないけれど、まず何より自分の生き方が問われているんだという気付きを、動物のナマケモノにたとえています。

高木 先進国の人間は、便利快適よりも自然な社会を取り戻すことが大事でしょうね。ところで、エクアドルには、どんな思いで行かれたのですか。

「マングローブ植林行動計画」というグループのリーダーの向後元彦(こうごもとひこ)さんが、僕に「エクアドルに遊びに行かない ?」とか「エクアドルはお酒がおいしいよ」という話を持ってくるんです。彼の独特の言い方なんですけれど、彼は「正義」という言葉が嫌いなんです。運動家たちは、「我々は人のためにやってやっているんだ」という言い方をしてしまいがちです。誰も頼んでいないのに、「やってやっている」と思い込んだり、そういう人に限って「やってやったのに」と逆恨みしたりする。「そうじゃないだろう、結局は自分が楽しいからやっているんじゃないのか」と向後さんは言うわけです。94年からエクアドル、ベトナム、ビルマにも行きマングローブの再生活動に関わりました。このときに得た気付きが、ナマケケモノ倶楽部を始める下地になっていると思います。

高木 なるほど、私たちには共通点がありますね。私も「企業や行政とぶつからないで、どうやったらうまくやっていけますか」と訊かれることがあるのですが、そういうときは失敗の秘訣をお教えします。まず正義感です、危機感、使命感から主義主張をして、自分が正しいと言い張ること。それをすれば確実に失敗するでしょうね。逆に「僕はこれが楽しいからやっているんだけどね」というスタンスなら仲間が増えるでしょう。例えば、マイ箸もね、「これで森林を守ろう !」というよりも、「マイ箸の方がおいしいですよ」と言った方が、「どれ、ちょっと見せて」となるんです。

そうですね。僕もそう思います。99悪いところのある人でも、企業であっても、いいところを一つでも見つけてそこを語る。結局、それが一番効果的な批判になると思います。

ファースト快楽から、スロー快楽へ !


それと今、高木さんのお話を伺っていて、非常に共感を覚えたのだけど、「楽しいからやっているんだ」ということを、僕は「スロー快楽主義」という言葉にしているのです。どうも不幸なことに、環境や平和のことをやっていることが、いつの間にか非常に禁欲的で、辛くて、貧しくて、淋しいことのようなイメージができてしまった。若者たちの大多数はそう思っているんです。

高木 「辛くて淋しいことだけど、一緒にやりませんか ? 」と言われたら、私でも「嫌だ」と言いますよ(笑)。

僕、人間というのは根本的に快楽のために生きていると思うんですよ。だとすれば、禁欲的で反人間的なところへ行かなければ、社会を変えられないとしたら大変なことになる。何とかこのイメージをひっくり返したいと思っています。楽しいこと、美しいこと、おいしいこと、安らぎを覚えること、それをやっていけば、きっと環境にもいいことになるし、世の中にもいいことになる。今までメディアが宣伝してきたファーストな快楽主義というのかな、それに対して、僕は、スローな快楽主義を広めていきたいんです。僕は、その意味で、環境運動というのは同時に文化運動だと思うんです。僕たちの暮らしをより楽しく、より美しくする文化運動。先ほどの箸の話なんか、まさにそうですが、せっかく作ったものを一瞬だけ使って捨ててしまうなんて、僕の美意識が許さないというか、格好の悪いことだと思うんですよ。マイ箸のほうが断然おしゃれ。それがスロー快楽主義なんです。

高木 その辺のところも、私たちは同じ出発点で、めざすところも一緒だと思いますね。キャンドルナイトも、辛く苦しくないところが受けたと思いますしね。

キャンドルナイトも最初は反対運動から始まったんです。ブッシュ政権が成立して、京都議定書から離脱するとか、新しいエネルギー政策を出すとか、これはとんでもないことになるぞと、カナダあたりの連中が騒いで、夏至の日に電気を消そうと言い出した。僕ら「ナマケモノ倶楽部」は、何かを怠けるのが好きですから「このアクションはおもしろいぞ」と思ったわけです。そのうちに、「大地を守る会」やそれぞれの分野で影響力のある人たちが集まってきました。そのときも「何かに反対するんじゃなくて、ただただ夏至と冬至に2時間電気を消してスローな夜を過ごそう。他のことは一切言わないようにしよう」と考えたんですよ。最初の年に、「100万人の…」と大風呂敷を広げましたが、その年に300万人だったかな。それから500万人、昨年は700万人ですよ。どうやって数えるのかわからないけれど、環境省がそう言うんです。そして、次々とメールやファックスで「感動しました」「ありがとうございました」「妻と初めてゆっくり会話ができました」「子どもと初めて同じことができました」というメッセージをもらいました。最初は、それを読んでうれしかったんだけれど、段々暗い気持ちになりました。この人たち、普段はどういう暮らしをしているのだろうか、そういう暮らしに、自分たちを追い詰めてきたんじゃないかと。

高木 ファーストな生活の中で、会話もなくしていたんですね。電気を消すことで、初めて家族の時間を取り戻せたんですね。

そうらしいんです。キャンドルナイトは、単なる省エネ運動じゃなくて、そこで戻ってくる時間や人とのつながり、空間だと思うんです。最初の年に「感動しました。また来年もよろしくお願いします」といわれて、「おいおい ! そんなによかったんなら、今晩またやればいいし、毎晩やってもいいんだよ」って。

高木 あはは…本当にその通りですね。

私は、私にできることをしているだけ


高木 「ハチドリ計画」も、そういう自由なイメージで広がってきている気がしますが。

ハチドリの話は、先住民の方からかなり前に聞いていたんですけどそれを忘れていたんです。9・11の後に、たまたまお招きする機会がありまして、僕の家でもう一度聞いたんです。世界が絶望と憎しみで引き裂かれているときにこの話を聞いて、強烈に胸に響きました。本のイラストは、カナダ先住民のマイケル・ニコルに描いてもらったのですが、彼は「ともすると、ハチドリを英雄にして、ハチドリを笑った動物を悪者にして、善悪の物語に仕上げる傾向があるけれど、それだったら同じことじゃないか」と言いました。「森林伐採が行われたとき、最初は白人たちと対立していた。でも考えてみると森がなくなったらみんなが困るじゃないかというところから、対立をやめて話し合いに転じたら、みんな仲間になれた。ハチドリのスピリットというのは、そういうことじゃないか」と彼に聞かされましてね。しかも、あの話は「私は、私にできることをしているだけ」で終わっちゃうじゃないですか。この結論がないということが、一番大事なメッセージじゃないかと思うんです。それで僕はあえて自分を「環境運動家」と呼ぶようにしているんですよ。運動家なんて言葉はあまり言いたくないですけれど、結果ではなく行動していること自体が大事だという意味で使っています。高木さんはどうですか ?

高木 私も全く同じことを思っていますが、運動家ではなく「環境がよくなることを望んでいる生活人です」とか「種まきをする人です」という表現をしています。環境も平和も、結局人々の生き方から来ているわけですから、「人間本来の基本OSに沿った生き方をしよう」ということを、広めていくのが私の役割だと思っています。人間をコンピュータと考えれば説明しやすいのですが、本来は基本OSで動くはずが、そこへ「金儲けのための破壊ソフト」や「新しいビジネスソフト」など、次々と基本OSに矛盾するソフトをインストールして、フリーズしたり、クラッシュしたりしているのが、現在のおかしな状況なのです。例えば「ふるさとの自然を守りたい」という基本OSをクラッシュさせないと、開発や進歩、経済拡大はできないのです。でも、そうした古いエセ・サクセスストーリーは既に破綻しているんですよ。

そういうことを、どこかに書かれていますか ?

高木 これから書きます。

本当に同感だなあ。巨大な破壊物語はすでに終わっていますよ。若い人たちは、直感的に僕らの世代よりもそのことに気付いていて、新しい物語に踏み出そうとしています。今日、お会いできてよかったなあ。今までもいろいろな形でつながってきましたが、お会いしてすごく力づけられました。

高木 こちらこそ。これからも大いに協力しあいましょう。

●ナマケモノ倶楽部
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