スペシャル対談

2007年4月号 (株)本物研究所代表取締役社長 佐野浩一さん

兵庫県の私立中高一貫教育校で英語教師として13年間従事。2001年に(株)船井事務所に入社、船井幸雄さんの直轄プロジェクトチーム会長特命室で、人づくり研修『人財塾』の体系化に尽力。 2003年に(株)本物研究所を設立し、代表取締役に就任…という経歴の佐野浩一さんは、あらゆる「本物」を発掘し、広く啓発・普及を行う達人です。(写真右が佐野氏)


「非対立」「五事」…衝撃を受けました


高木 お久しぶりです。まずは、『地球村』との出会いをお聞かせ願えますか。

佐野 高木先生のお名前を初めて知ったのは、13年くらい前になります。船井先生の本で「食事をしない。睡眠をとらない」と紹介されているのを読んで、すごい人だと感じていました。

高木 ま、まさか・・・(笑) 講演を聴かれたのはいつ頃ですか。

佐野 2001年に教員をやめて船井総研で仕事をさせてもらうようになって1~2年目、全社講習会の講師として高木先生がおいでになりました。その時、初めてお話を伺いました。

高木 いかがでしたか。

佐野 びっくりしました !「人の役に立ちたい」という気持ちがありながら具体的に行動していない自分が、非常に具体的に現実的に行動されている高木先生に触れてびっくりし、いつかは同じ場所に参加したいと考えました。まずは、『地球村』の入会申し込みをさせていただきました。それからは講演会に参加し、書物はほとんど全部読ませていただいております。

高木 嬉しいです。『地球村』に出会って、変化はありましたか。

佐野 最初は「マイ箸」に取り組みました。社員全員に2膳ずつ持たせていますし、家族も全員持っています。お店でも、「それ、マイ箸ですか ?」といった会話から、環境の話や高木先生のお話になることがあります。今ではコミュニケーションツールの一つにもなっています。

高木 なるほど、そこが入り口ですね。

佐野 あとは、「非対立」という考え方に感動しました。教員時代にも、好きな人と苦手な人と区別する自分がいて、船井先生にも、「いろいろな風を受けてみなさい」とよく言われました。高木先生から「非対立」というお話を伺って、あらゆる人と向き合うこと、正面から関わっていくことが大切なのだと気付きました。経営の上でも、相手の人間性を尊重していかなければならないのだというプロセスを持てたことが大きかったですね。あとは「五事」です。この「五事」という言葉は、私にとって一生忘れられない言葉になりました。

高木 「五事 (よく見る、よく聴く、受け止める、わかる、変わる)」を意識するだけで、大きく変わるでしょう?

佐野 その通りです。教員時代、「何でわからないんだ」「何でそんなことをするんだ」と、そんな言葉ばかりを投げかけていました。けれど「わからなくて当たり前。だからこそ一生懸命に伝えていかなければならないんだ」と、今、会社で毎日話しています。わからなくて当たり前だから、腹も立たない。わかってもらえたら感謝の念が湧いてくる。「五事」と出会い、自分を育ててもらったという気持ちです。

高木 よく見て、よく聴いて、受け止めれば、わかるのです。そして、わかれば、変わるのです。

佐野 すごい言葉ですね。「わかると変わるはセットで起きる。わかるというのは分かれるという意味。過去の自分との決別である。だからわかったかどうかは行動でわかる」と高木先生から教えていただいたとき、雷に打たれたような衝撃でした。実はうちの社員全員で復唱している言葉がいくつかあるのですが、その一つが「わかったかどうかは行動のみから判断されることを理解しています」というものです。僕は高木先生のコピーみたいなことを、日々現場で話させていただいてもらっています。

高木 うれしいことです。「わかっているけどできない」とか「一応わかったんだけど…」というのは、わかっていないし、伝わっていない。伝わるのは「思い」であって、言葉や文字ではないんです。言葉に乗せた思いや、命をかけた行動が伝わるんです。

佐野 そこは、授業も生徒指導も会社経営も、全部一緒だと思います。結局は、心を動かすことができないと何も生まれない。「思い」をのせることが大事だと、常々強く感じています。

実は、教えない授業をやっていました


高木 ところで今、教育再生が話題ですが、教育についてはどのように思っておられますか。

佐野 教員というのは、どこまでが標準だとかここまでやれば及第点だとか、ある意味ゴールが見えない仕事なので、ものすごく難しい仕事だと思います。「教育」というのは「教え育てる」と書きますけれど、私はその字が嫌いで、「共に育つ」の「共育」という字をあてていました。その字の通り、子どもたちから教えられることが、ものすごくたくさんありましたねえ。

高木 同感です。「教育」は、「おとなが、子どもを、教え育てる」という意味ですから、主役(主語)であるはずの子どもが目的語になっています。そこで私は、主役が主語である「学育」(子どもが学び育つ)や「学問」(子どもが学び問う)の方がいいと思いますね。子どもって、よく「どうして?」と問いかけてきますね。その時に「こうなのだ、ああなのだ」と教えるのが教育です。大切なのは、答えを教えるのではなく、「どうしてだと思う?」と問い返してあげることだと思います。そのことによって自ら学ぶことができるんです。つまり、問うことと学ぶことはセットなんです。今の教育は、大人が問題も答えも教え、その答えも「覚えろ」という。これでは、子どもは、考えるチャンスを奪われます。これではだめです。子どもは受身になってしまいます。

佐野 なるほど…私も、同じ思いがあります。教員時代に、どれだけ一生懸命教えても分からない子は分からないということで、すごく悩んだことがあったんです。だったら教える授業はやめようと、教えない授業をスタートさせました。課題を与えて、それぞれ自分たちで考えて発表させるというスタイルに変えたんです。私は、50分間の授業中に5分と話さないこともありました。「この授業で受験に対応できますか?」というご批判もありましたし、生徒から「こんな授業にはついていけません」と言われたこともありました。でも一番対立した子は、卒業してから「先生、ありがとうございました」とわざわざお礼をいいに来てくれました。そのときは嬉しくて涙が出ました。

高木 教えないことで、自ら学ぶことができたのですね。

佐野 そうなんです。そして教員時代に断片的に考えたり、体験したりしてきたことが、高木先生の書物を読んだときに、「こういうことだったんだ ! わかったぞ ! 腑に落ちたぞ ! 」とつながりました。ありがとうございます。

狂ったソフトがいらない社会に


高木 大切なお話、DNAについてお話します。DNAには、長い歴史の中で刻まれた膨大な情報があります。その生物種にとって、生きるために必要な知恵すべてを含んでいます。言うならば、「基本ソフト」です。ライオンもキリンもシマウマも、みんな基本ソフトに従って生きています。すべての生物は子孫を残すために必要なことをしますが、草食動物は草を食べ尽くしたり、肉食動物が他の動物を食べ尽くしたりしません。自分の子孫を残すことと、他の生物が子孫を残すことがつながっていること。みんなが生きているから自分も生きていけること。すべての命がつながっていること。すべてがつながっていることを知ってるのです。どんな生物も基本ソフトに反することはしません。しかし、先進国の人間だけが、「もっと出世 ! もっと金持ちに ! もっと便利に ! もっと楽に !」という不自然、反自然な生き方をしようとしているのです。基本ソフトに反する生き方をしているのです。

佐野 人間だけが、不自然なことをしているというわけですね。

高木 自然の中に暮らす人々はおかしくありません。彼らは「自然と調和」という基本ソフトに従って生きています。しかし、先進国の教育は、基本ソフトに反すること、例えば「競争に勝つためには、○○しなくてはならない」「金儲けのためには、森を切り開き、山を崩し、海を埋め立て、畑を売り飛ばす」という狂ったソフトをインストールするのです。基本ソフトと矛盾するソフトをインストールされるとパソコンはどうなりますか。フリーズしたり誤作動します。それが反抗期です。フリーズを脱するには、2つの方法があります。基本ソフトを止めて不自然ソフトだけで生きるか、基本ソフトを守るために社会からドロップアウトして、引きこもるかです。前者は「いい子」と呼ばれ、後者は「引きこもり、不良、悪い子」と呼ばれます。

佐野 そのとおりですね。どうしたら狂ったソフトを取り除くことができるのでしょうか。

高木 この社会の目的そのものが、「経済拡大、物質的な豊かさの追求」という不自然であり、狂っているのですから、狂ったソフトをすぐに取り除くことはできません。まずは、社会の目的や仕組みを変えるしかないのです。例えば、スウェーデンでは所得に対して税負担率が50%(日本の税率は約20%)ですが、誰も高いとは思っていない。それは、医療と福祉と教育が無料だからです。老後の不安、病気の不安、子育ての不安がなければ、「もっとお金を貯めなくては」と必死になることはないでしょう ?さらに、もっと税率を上げて、食費も交通費も被服費も無料にすればいいと考える人も増えてきました。理想は税率100%で、すべて無料にすることです。

佐野 おお、これは、すごい発想ですね。日本は、消費税を上げるっていうだけでえらいことになります。全く考え方が違うんですね。

高木 スウェーデン、ドイツはガソリンに高額の環境税を設けるなど、すでに環境調和社会の実現に向けて動き出しています。

佐野 すばらしいですね。国のめざすべき新しい姿が見えてきますね。とりあえず私たちは、この不自然な社会の中で、これからの子どもたちのために自分たちができることを始めようと、妻(※)と2人でNPOをスタートさせました。

高木 どんな活動ですか。

佐野 「NPO・あたみこどもにこにこくらぶ」といいます。妻も元教師ですし、子どもが大好きですから、子どもたちに未来をつないでいきたいという思いからNPOを立ち上げ、ザンビアの孤児たちの支援などを行っています。

高木 では、まずは「子どもメーリングリスト」を始められてはいかがですか。子どもたちに、「解決のためには、どうしたらいいと思う?」と問うてみたらどうでしょう。

佐野 それはおもしろいですね ! 子どもたちの感性や発想ってすばらしいですから、びっくりするようなアイデアが出てくるかもしれませんね。今日もまた、対談の中でたくさん勉強させていただきました。本当にありがとうございました。

高木 またぜひお話ししましょう。ありがとうございました。

※船井ゆかりさん(作家: 著書に「神様、ママを見つけたよ!」「もっといいことが起こる今日のヒント」「船井家の子育て法」など)

■株式会社本物研究所
http://www.honmono-ken.com/
■NPO・あたみこどもにこにこくらぶ
http://koichi51.blog52.fc2.com/