巻頭言

【巻頭言】心の中にもベルリンの壁

★国家の壁
昔々、ある国に、ちょっとした垣根ができました。
(それは、子供たちのちょっとしたいたずらだったかもしれません・・・)
人々は、「これは何だろう」と不思議に思いました。垣根の両側で、
人々はお互いに、「自分たちは、こんな壁は作っていない。
きっと向こう側のやつらが作ったのだろう。
きっと敵意を持っているのだろう」と思うようになりました。
その疑いがだんだん大きくなり、もっと高い垣根にしました。
そのうち、「見られるのもいやだから」と塀にしました。
さらに、塀では不安だから壁にしました。さらに、もっと丈夫で頑丈な壁にしました。
それでも不安だから、ついに要塞のような巨大な壁にしました。
巨大な壁を見るたびに、人々は互いに恐怖と憎しみを増大させました。

そして、ついには、その壁の前で抗議の焼身自殺をしたり、
壁越しに爆弾を投げ合ったりしました。その壁がいかに自分たちを苦しめているか、
その壁を作った相手側がいかに悪いか、あちこちで言いふらしました。
そのうわさがまた、お互いの怒りや恐怖を増大させました。
そんなあるとき、子供たちが、いたずらで壁を乗り越えたり、
壁越しにお菓子を投げたり、ターザンごっこをしました。
若者たちがロッククライミングを楽しむようになりました。
壁の上でコンサートをしました。壁の両側の人が楽しむようになりました。
そして、ついに「こんなのいらないね」と言って、みんなが壁を壊しました。

1989年、実際にベルリンの壁は、全世界の人々の目の前で崩壊したのです。
いらないものは崩壊します。みんなの願いは、いつか実現するのです。
あなたの周りにこうした壁はありませんか。
あなたの心の中にこうした壁はありませんか。
壁は、存在を意識すれば意識するほど、存在が大きくなります。
しかし、壁は、存在を気にせず、無い方がいいと意識すれば消えてしまいます。
壁は、本当はないのです。自分の意識が作り出した想念です。

★巨大企業と零細企業、親会社と下請けの間の壁
「巨大企業は、下請けから徹底的に利益を搾り取っているではないか」
「納期に合わせるためにタクシー代、何万円も使ってネジ1本を届けさせられた」
こういう話を聞きますが、本当にそれは仕方が無かったのでしょうか。
それを、「仕方ない」で済ますと、巨大企業と下請けの間の壁は強化されます。

しかし、実はこうしたひどい事例は、親会社の担当者と、
下請けの担当者の力関係や駆け引きで起こるのです。
多くの場合、下請けの判断、譲歩で行われるのです。
「納期に間に合わさないと切られる」という恐怖。
もちろん、それは親会社が日頃、「納期に間に合わないと切る」と言っているのが原因です。

「だったら同じじゃん!」と思われましたか?
いいえ、そうではないのです。解決へのアプローチはここからなのです。

下請けは、親会社の担当者に、
「納期に間に合わすためには、ネジ一本をタクシーで何万円もかけて運ばなければならないのです。
もし、それでもそれが必要ならば、どうぞ費用を負担ください。
でないと、私どもはつぶれてしまいます」と勇気を持って話すことなのです。
それでもだめなら、親会社の担当者の上司に交渉するのです。
それでもだめなら、さらに上司へと。
怖いですか?その恐怖が壁を大きくしているのです。
大丈夫です。親会社のトップは、決してこういう問題を黙殺しません。
そういう勇気、そういう努力が世の中を変えます。

★心の中に多くの壁
今の社会のあらゆるトラブルも、いじめも、環境破壊も、紛争も。
すべて一人ひとりの「ノーを言う勇気」が必要なのです。
そこから変化が始まるのです。
圧倒的多数(サイレントマジョリティ)の勇気が必要なのです。
私は『地球村』を通して、「そこをやっていきましょう、
小さな一歩、小さな勇気を始めましょうよ」と呼びかけているのです。

大河も、最初は小さな一滴、小さな湧き水から。長い道のりも、最初の一歩から。
巨大な森も、最初は小さな木の実の小さな新芽から。
大きな夢も、はじめはちょっとした思いつき、ちょっとしたアイデアから。