スペシャル対談

2007年9月号 チプコ運動の父 サンダルラル・バフグナさん

1992年5月モントリオール会議で、チプコ運動(1970年代のインドで、森林破壊に抵抗するため木に抱きつき、命がけで伐採に反対した運動)のリーダーバフグナ氏は、全世界の巨大ダム建設に反対する基調講演をしました。その会議に出席していた高木さんは、そのスピーチを日本に紹介し、1994年にバフグナ氏を日本に招きました。それ以来、13年ぶりの再会です。


自然を殺すことは発展ではない


高木 初めてお会いしたのが15年前のモントリオール会議でした。あなたのチプコのメッセージに衝撃を受け、翌年、現地ナルマダに調査チームを送りました。本当に巨大ダムの建設が行われ、日本の重機が走り回って自然を破壊していました。そして現場のこのポスターに衝撃を受け、持ち帰りました。

バフグナ おお、このポスターには、こう書いてあります。「1787年の事件で363名が殺された」「もっとも大切なことは森を守ること。一本の木は一人の人の命より尊い」と。

高木 本当に衝撃でした。私は、チプコのメッセージを日本で伝え続けてきました。あの巨大ダムの建設は続行されたのですか。

バフグナ ダムは完成し、森は沈みました。

高木 国連も、巨大ダムはやめるべきだという宣言を出しましたが、残念なことですね。

バフグナ 政治家と企業家が、自然を現金に交換しようとするとき、誰が国連の話を聞くでしょう。自然を殺すことは発展ではない。真の発展とは、もっとも貧しい人たちが豊かになることだ。それは森を殺すことではない。本当の発展とは永久的なものでなければならない。自然は、すべての生き物の必要を満たすことはできるが、一人の人間の限りない欲望を満たすことはできないのです。

高木 あなたのメッセージに感動して、あなたを神戸国際会議「永続可能な社会研究会」にお招きしました。そのとき、あなたが「いま求められているのは、科学者の頭と、詩人の魂と、労働者の肉体だ」とおっしゃったのがとても印象的でした。私は 26年前に交通事故に遭い。1年間、寝たきりでした。そのときに「私は何をしに生まれてきたんだろう。どう生きたらいいんだろう」と、長く考えました。考えて考えて考え抜いて、やっと答えを発見したのです。「みんなの幸せが本当の幸せ」ということを。「みんなが幸せでないと、本当の幸せはありえない」ということを。

バフグナ あなたにはご家族はいますか。

高木 はい、います。以前は、家族のためとか、自分のためとか、会社のためとか、競争して 1位になることを目指していました。だけど、それは違うと気づきました。自分の人生を、そんなものにかけちゃだめだと気づきました。自分のこれからの人生を、みんなの幸せの実現にかけようと決意したのです。

バフグナ夫妻 おお ! ・ ・ ・

バフグナ あなたは、人生の本当の意味を知ったのです。自分が誰であるか、どこから来たのかを知ったのです。

高木 はい。私が知ったのは、次のことです。「すべての命は光の世界からやってきて、みんなの幸せを実現し、光の世界に帰っていく。すべては一つ。すべてはつながっている(ワンネス)」。私は自分が、もし寝たきりのベッドからおりることができたら、もしこの体が自由に使えることができるようになったら、みんなの幸せの実現のために生きようと決意したのです。その決意をすることで、私の体は急速に回復しました。以来、ずっと環境と平和の活動を続けています。26年間、講演活動を続けています。国内はもちろん、国外でも講演をしてきました。

恐れ、怒り、欲望からも自由に


高木 今、私の夢は、『地球市民連合』を実現することです。これは、国境を越えて、宗教やイデオロギーの壁を越えて、すべての市民が手をつなぎ、戦争、環境破壊などすべての悲劇を終結するのです。真の平和の実現です。本当の平和は、政府ではなく、人々が作るものだと思います。60カ国、200団体が賛同しています。賛同いただけますか?

バフグナ はい。もちろん、サインしましょう。

高木 私は、「非対立」という考え方をベースにしています。戦争は「正義感・怒り・恐れ」がベースにあると気づきました。これが対立を生むのだと気づいたのです。そこで、「正義感・怒り・恐れ」を持たず、相手と向き合い、どう解決していくかを徹底して対話していくのです。それが非対立の問題解決方法です。

バフグナ夫妻 それは、すばらしい。

高木 私は20歳の頃、平和運動のリーダーをしていました。私たちのグループは非暴力を貫いていました。ところがデモ行進中に機動隊とぶつかり、大勢の仲間が重軽傷を負いました。私は、なぜ非暴力で血が流れたのかと、すごく苦しみました。その答えがわからず、平和運動から離れました。しかし、あの交通事故で寝たきりのとき、やっと、その答えがわかったのです。心の中に、怒りや「自分が正しい」という思いがあれば、たとえ暴力を振るわなくても、正義感が武器になって相手と戦うのです。だから血が流れた。だから、心の中に怒りや正義感などの「対立」を持たないでおこう。それ以外に平和の実現方法はないと思いました。

バフグナ 非暴力の精神も同じです。どんなことがあっても相手に危害を与えないことです。最後の意思表示は断食です。人間は魂を持っています。魂というのは、一番力強い持ち物。非暴力の戦士にとって、魂は死なない。身体は滅びても、魂は他のものに宿る。魂には、永遠性があるのです。

高木 魂には、よい魂と、悪い魂があるのでしょうか。

バフグナ すべての魂はよいものです。問題は、魂の存在に気づかないで、原因を外側で探そうとすること。そうすると、怒りや憎しみが生まれてしまうのです。

高木 よくわかります。魂を意識していると怒りは生まれない。目の前の現象に心を乱さないで、その奥にある本質(魂)を意識していると、「非対立」は当たり前のことなのですね。

バフグナ そのとおり。魂が主人、肉体は魂の家です。よい魂のためには、家もきれいに保たねばなりません。つねに、自分をただし、恐れ、怒り、欲望から自由になることが大切です。

高木 よくわかります。今日は本当にありがとうございました。今日の記念に「マイ箸」をプレゼントいたします。お持ちください。これも、木を無駄にしない、森を守る運動のひとつです。

バフグナ これはすばらしいですね。国に帰って、このことをみんなに伝えます。ありがとう。