【地球は今...】環境首都 クリチバ市
1992年に開催された地球サミットで、環境都市として表彰され、世界的に有名になったブラジルの地方都市クリチバ。
人と街づくりという視点からクリチバ市を見てみましょう。
※『地球村通信』2001年6月号にスタッフの訪問記を掲載しました。今回の掲載写真は当時のものです。
クリチバ市とは
クリチバ市は、1960年代まで人口40万程度の地方都市でした。
1950年に「今後50年で人口が10倍」になるだろうとの予測から、都市計画の専門家であったレルネル元市長を中心に、「人を大切にする、人が主人公である」街づくりを行いました。
その都市計画の成功によって、現在は、人口175万人(周辺都市も含めると270万人以上)のブラジル南部最大の環境都市になりました。
(街は人の知恵でできた最高のものだから、本来問題が起きるはずがない、いろいろなことを解決できる場である) ジャイメ・レルネル クリチバ元市長
街の中心部が1972年から自動車進入禁止にできたのは?
繁華街の商店主たちは店の前まで自動車が来ることで、店は儲かると考えていました。
しかし、レルネル市長は繁華街を歩行者専用にすることで、より人が集まると考え、道路の舗装をはがし、花壇を置きました。
商店主たちは、花壇が置かれている道路に自動車での強行突破を計画しましたが、計画を知った市は、周辺の小学校から児童を集めて道路上でお絵かきをしてもらい、強行突破を防ぎました。
1ヵ月後、店の売り上げは増加し、市長の判断が正しかったことが立証されました。今では「花通り」と呼ばれる歩行者専用道路として市民の憩いの場所になっています。
メインの道路がバス優先になったのは?
交通渋滞をなくすためには、画期的な公共交通の整備が必要です。
市は、地下鉄を考えましたが予算がなかったため、既存の道路をつないでバス優先のメインルートを設定し、乗り降りの時間を短縮するためにバス専用のプラットホームを設け、さらに市民に乗ってもらうための工夫をプラスしました。
- バス代は1ドル弱、1日中乗り換えても同じ料金
- バスの停留所近くに役所の出張所、病院、スーパーなどを配置し、自動車を使うよりも便利に!郊外へ行くより市街の中心部へ行きやすく!
バス専用レーンには自動車が入れないほどバスを頻繁に運行させ、交通違反は厳しく取り締まりました。
市内の道路では、ブラジルの他の都市のような渋滞がありません。現在でも、バス会社は補助金なしで運営され、輸送量はワシントンの地下鉄よりも多くなっています。
建設費は地下鉄の1/200以下だといわれています。
こんな交通政策も実践!
市民の豊かな暮らしのため、総延長150キロの環境にやさしい自転車専用道路が整備され(参考・日本全国の自転車専用道路は総合計で約1200キロ)、住宅地の環境を守るために、道路の幅を狭め車を走りにくくしたり、道路の中央を公園にしたり、道路を車のためではなく、街の人々の道路に戻しています。
こんな環境政策も実施!
- スラム街の環境改善に向けてゴミを分別回収を行い、分別回収にゴミを持っていくと野菜や卵と交換できるようにし、ゴミの減量、ゴミ回収費の削減、清掃費の削減など大きなメリットを生み出しています。
長期的な政策では、小学校での無償の指導(読み書き)、食事、リサイクルなどの環境教育も実施しています。 - クリチバ市の一人あたりの緑地面積は25年前の90倍で世界第2位(東京の10倍以上)ですが、芝生の管理に羊を使ってコストを削減するというユニークなアイデアを実践したり、一部地域では庭の植木を切るのにも市の許可が必要なところもあります。
- 市の産業であった採石場跡がスラム化するのを防ぐため、環境大学やオペラ劇場を設立し、自然の中でコンサートやセミナーを開催し、街全体としての取り組みで、最も寂れて、荒みやすい所を華やかな場所へ変身させました。
ピンポイントの対策は、大きな影響を市全体に与えています。レルネル元市長は、この都市の再生術を針治療にたとえてます。
重病で死ぬほどになってからでは遅すぎる」 ジャイメ・レルネル クリチバ元市長
人を活かし、自然を活かし、税金を無駄に使うことなく、全ての人が誇りに思えるような持続可能な都市クリチバをジャイメ・レルネル元市長は作り上げました。
日本では、今も住宅地や農地をつぶして道路にし、郊外に巨大スーパーを作るクルマ中心のエネルギー多消費社会を続けています。
クリチバ市の街づくりを知れば知るほど、私たちは間違いを続けているような気がします。
今、私たちの暮らしの中で、本当に作り上げていかなければならないことを考え、できることからはじめましょう。
※参考図書 : 「都市の針治療 -元クリチバ市長の都市再生術-」 丸善株式会社 刊