スペシャル対談

2008年3月号 著作・翻訳家 きくちゆみさん

 
千葉県鴨川で自給自足の生活を送りながら、環境問題の根本解決を考え、
『戦  争中毒』『テロリストは誰?』の日本語版制作など、平和の活動にも力を尽くすきくちさん。高木代表とはリオサミット(1992年)の頃からの友人で、持続可能な未来を目指す同志です。一気に話が弾みました。

 

一人でも動けば変わりました

高木 こんにちは。きくちさんに最初に出会ったのは、92年のリオ。あなたは若くて元気なバイリンガルで、会社を辞めてビーチクリーンとモンキーベイの活動をしていましたっけ。その後、ビーチクリーンはどうなっていますか ? たしか生分解性のポリ袋を使ってゴミ拾いをしていましたね。

きくち よく覚えていらっしゃいますね~。ゴミ袋に「地球を平和な美しい星に」と書いて、海岸のゴミを拾ってデータをとり、平和と地球環境をアピールしました。私は代表を降りていますが、クリーンアップ全国事務局が今もがんばっていて、全国で何万人も参加する運動になっています。

高木 すごいね ! モンキーベイの方は ?

きくち こちらは目標としていた「モンキーベイ自然保護区」を作ることができて一段落しています。中米・ベリーズは、ユカタン半島の付け根にあるマヤ文明発祥の地域で、米銀の東京支店に勤めている頃、休みのたびに通いました。きれいな森と珊瑚礁があって、絶滅危惧種がたくさんいて、熱帯林が守られていて、まるでパラダイス。それが何回目かに行ったとき、見渡す限り森が切られていて…。調べてみたら海外資本が入って、リゾート施設を作るための開発でした。私はその頃、米銀に勤めて毎日債券を売り買いしていました。マネーは常にハイリターンを狙います。第三世界の安い土地を買い、海外資本がリゾートをつくって儲ける。自分の儲けも結局美しい自然を破壊するために使われる…。そのつながりがわかってしまったときに、「もうこの仕事はできない」と思ったんです。そんなときにたまたま「ベリーズに自然保護区を作りたい」という人たちに出会って、日本で「モンキーベイ自然保護基金」を立ち上げました。「1エーカー10万円で熱帯林の看護人になりませんか」という呼びかけに賛同する人が徐々に増えてきて、結局3250エーカーの保護区ができました。

高木 それはすごいね。3250エーカーというと、3億円を集めたってこと ?

きくち いいえ、まさか ! 日本で集めたのは合計で1000万円ちょっと。最初、運営に必要なお金を送って土地を管理し、そこからレンジャー(森林保護官)を育て、キャンプや植林ツアーをして、エコツーリズム産業と雇用を生みました。森を守ったおかげで利益が出るという環境と経済が両立するモデルになったんです。それで信頼を得て、残りの土地は政府が信託してきました。モンキーベイの小さな成功は、一人から始めても奇跡を起こせることを教えてくれて、今も私を勇気づけています。

世界中に「平和省」を !

高木 今も日本とアメリカを往復する生活を ?

きくち ここ数年、9ヵ月は日本で農業をして、農閑期の3ヵ月はハワイです。私たちが「ハーモニクスライフ」と呼んでいる千葉での自給的な暮らしは、たった2反の田畑の恵みで成り立っています。これで家族が暮らすのに十分。ところがアメリカ人にとっては、2反(1エーカーの半分)で自給自足ができるなんて信じられない話。そこでハワイに土地を買って、1エーカー以下で自給自足が可能だということを体験できる場を創りたかったのです。結局、土地の値段がものすごく上がって、私たちには手が出なくなってしまったのですが、今もその夢は持っています。

高木 アメリカ人が変われば世界は変わるからね。

きくち そこなんです ! 私は平和活動をしているので、よく「反米」って思われるのですが、アメリカには素晴らしい人がたくさんいて、仲良くしています。政府はひどいけど、アメリカ市民が本気で持続可能な暮らしを始めたら、世界は変わる ! だから持続可能な暮らしの場をハワイにも作りたかったのです。

高木 他にも、アメリカ大統領選や平和省にも関わっていましたね。

きくち 2003年から大統領候補デニス・クシニッチさんを応援しています。彼の公約の一つが「平和省を作る」ことで、選挙運動に関わった人たちが、現在アメリカに平和省を作ろうと動いています。平和省というのは国防省とは違い、非暴力で紛争を解決する専門家を擁する省庁で、国内外の暴力や紛争を鎮め、会話を促進し、平和的に解決する役割を担います。

高木 アメリカでは、どんな状況ですか。

きくち 全米50州に支部があって、州選出の議員さんに働きかけて、平和省創設法案の賛同者を増やしています。日本ではまだ始まったばかりで、どういう平和省が相応しいか、これから話し合うところです。

高木 世界の軍事費の総額は年1兆ドル。戦争のために使うこの莫大な費用を、平和のために使えば、核兵器の撤去、地雷の撤去、貧困、飢餓、途上国の重債務の帳消しなど、すべての問題が一気に解決します。これこそ戦争やテロの根本的な解決なんです。「平和省を作る」というのは重要な解決案として、私も話していきますよ。

きくち ありがとうございます。私の夢は、世界のすべての国に平和省があり、紛争が起きたら各国の平和大臣が集まって話し合いで解決することです。税金を軍事費ではなく、平和や環境を守るために使うのにも、平和省は役に立つでしょう。

高木 すばらしい。私の提言している『地球市民連合』構想は、それにつながる言わば市民平和省なんです。大国の国益で左右される現在の国連ではなく、世界中の市民が国境を越えて手をつないで、本当の解決をしていこうというもので、私はこの構想をいろんな機会に、いろんな方に伝えてきました。市民が動き、市民が声を上げ、お金の流れを変えれば、問題は解決できます。平和省のアイデアも伝えていきますよ。

きくち 市民が国境を越えて手をつなぎ、「環境を守ります、戦争には協力しません」っていうことを、それぞれの暮らしの場から実践していけば良いと思います。国が何といおうと、国連がどう動こうと、自分たちができることから実践していく。私も「地球市民連合」の考え方に心から賛同します。

高木 対立しないこと、腹を立てないこと、主義主張をしないこと、戦わないこと。それを一緒に広めていきましょう。今日は本当にありがとう。

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■平和省プロジェクト
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