巻頭言

【巻頭言】『GNPからGNHへ』

30年以上前、ブータンの若き国王が、大切なことに気づきました。

  『 社会をおかしくしているのはGNP(国民総生産)だ。
   大事なのは、「生産」ではなく「幸福」なのだ。
   私の国では、GNH(国民総幸福)を国家の理念にしよう 』

そして実際にGNHという新しい概念を提唱し、それを実行したのです。
農業を中心とした自給自足経済を基本として、経済拡大や外国資本の流入を避け、
自然環境保護を推進し、国民の幸せの実現を推進しました。
一人あたりのGDPは日本の25分の1ですが、自然は豊か、平和でスローライフの国。
人々は穏やか。「世界一幸せな国」と呼ばれています。

ブータンの若い国王(当時16歳)が30年以上前に気づいたこと。
これが、現在、先進国が直面しているさまざまな問題の本質であり、問題解決の道なのです。
それにも関わらず、先進国はいまだにGNPの拡大を求めています。
国はいまだにGNP拡大を求め、企業は売上拡大を求め、人々はお金を求めています。
先進国はすでにGNPを100倍も拡大し、その結果、環境破壊が進み、
破局が目前に迫っているのです。それなのに、いまだにマネーゲームをしているのです。
 
GNPを上げることは売上を増やすこと。売上を増やすことは消費を増やすこと。
経済拡大は、豊かな者はさらに豊かに、貧しい者はさらに貧しく。
貧富の差が拡大します。
その結果、国と国の関係は悪化、紛争、戦争が起こります。
このままでは破局が避けられません。
 
環境破壊、地球温暖化、資源の枯渇、飢餓貧困、紛争、戦争など、
現状の社会が抱えている問題はすべて、経済拡大(GNP)から生じているのです。
地球環境はイージス艦よりはるかに大きいのです。
ブレーキをかけても、舵を切っても、進路が変わるのは20年先です。
ブータンがやったことは、とても大きな意味があります。
GNPからGNHへ。まちがいなく、これが問題を解くカギです。

★徐々に自給自足を実現する
あと10年から20年で、日本は食料や資源の輸入は困難になります。
徐々に自給自足を実現していくしかないのです。
日本はGDP約500兆円、累積債務は約1000兆円。すでに財政破綻しているのです。
国家破産宣言をして、現状の贅沢を徐々に削減していく。
徐々に自動車や電気製品は使えなくなるから、製造できなくなる。
食料が輸入できなくなるから、工業から農業に転換するしかなくなる。
過去50年で数十倍に肥大したGNPが、徐々に下がり始める。
半分になってもまだまだ。4分の1になってもまだまだ。
10分の1になって、ようやく自給自足の可能性が出てきます。

★グリーンコスト、グリーンGNP
現在のGNPに代わってグリーンGNPを導入。
グリーンGNPとは、グリーンコストを基本とした経済指標です。
グリーンコスト=現在のコスト+資源保全コスト+環境保全コスト。
つまり、ものの値段に、自然の保全コスト、環境保全コストを上乗せする。
資源と環境の保全を義務付ける。現在のような無茶はできなくなる。
経済が環境とつながり、社会は環境と調和するようになる。
人々は(以前の貧しい時代のように)助け合い、支え合うようになります。

★GNPからGNHへ
産業革命から始まった物質文明の誤りを認め、環境調和へ方向転換するのです。
いま必要なことは、一人ひとりの自覚と自立です。
自分の頭で考え、自分の責任で行動することです。
集団催眠のような社会ですが、まず自分が目覚めることです。


「私たちは巨大な自動車がほしいわけではない。
クローゼットから溢れるほどの洋服がほしいわけでもない。
マネーゲームに勝ちたいわけでもない。
私たちは、いきいき生きること、わくわくすること、
自分が役立っているという実感、
みんなが助け合うコミュニティを求めているのだ。
しかし、私たちは間違った方向に進んでしまった。
いまこそ、その誤りに気づき、方向転換をするときだ。
いまこそ、最後のチャンスなのだ」

『成長の限界』 『限界を超えて』 を著したメドウズ博士の言葉です。