スペシャル対談

2008年6月号 上勝町長 笠松和市さん

 
徳島県上勝町は、人口2000人、高齢者比率48%の小さな町です。この町が今、持続可能な町をめざして、さまざまなチャレンジに取り組み、日本中の注目を集めています。「地球環境を考える自治体サミット」のメンバーでもある笠松町長に、環境にかける熱い想いを伺いました。

■ 2020年にはゴミゼロに !
 
高木:今日はようこそおいでくださいました。上勝町は、環境の町づくりのためにユニークな政策をたくさん実行されています。先日、私も訪問させていただきましたが、「ゼロ・ウェイスト政策」や「はっぱビジネス」など、上勝町のチャレンジは、これからの環境行政に夢と希望を与えるものだと思います。今日はその辺をご紹介ください。

笠松:上勝町では、昭和30年には6500人いた人口が、今では2000人。推定では2030年には922人になると言われています。高齢化もかなり進んでいます。いえ、高齢化はまだいいのです。元気なお年寄りが夢を持って暮らしている町ですから。怖いのは少子化です。
そこで町が主体となって、第3セクターで会社を5社立ち上げ、若者の雇用の場を確保しています。町内の観光運営を行う「かみかついっきゅう」、しいたけ栽培の「上勝バイオ」、町内産木材加工の「もくさん」、国土調査の「ウインズ」、そしてはっぱビジネスで一躍有名になった「いろどり」。これら5社は、町の一大産業であり、環境面でも大きな役割を果たしています。

高木:そしてゴミ政策では「ゼロ・ウェイスト宣言」。「削減」ではなく、「ゼロ !」という目標を宣言されたことは、本当にすばらしいと思います。実現に向けて、どのような取り組みをされていますか。

笠松:2020年までに焼却と埋め立てゴミをゼロにすることを目標に、いかにゴミを燃やさず資源化するかが私たちの課題です。今、町内のゴミは34分別。生ゴミはほぼ100%、コンポスト(生ゴミを堆肥にする容器)や乾燥式生ごみ処理機で処理しています。温泉や料理屋など業者系の生ゴミは、大型の生ゴミ処理機で堆肥化し、欲しい人が有効に利用しています。まだまだ使える衣服やオモチャは、町内の「くるくるショップ」に置いて、必要な人が持って帰ります。

高木:品物は、無料で持ち帰れるのですか。

笠松:無料でもいいし、協力費として50円や100円、自由な金額をお支払いいただいてかまわないという仕組みです。

高木:それはいいですね。昔は子ども服など、ご近所の子供のお下がり(お古)が普通でした。

■ 真・善・美の観点から物事を。

笠松:
さらにゴミを少なくするには、企業にゴミを出さない売り方(デポジット制度)を始めてもらいたい。資源回収法を作って、企業は消費者が不要になった製品を有価で回収しなければならないことを定め、違反に対して厳しい罰則を設けることが必要だと思います。
日本は、ゴミ処理費用に年間約2兆円をかけていますが、その2兆円を、資源が循環する技術開発や仕組み作りのためにいかせばいいのに…と私は思うんです。例えば政府は、ゴミ発電を推進し助成金を出しています。
しかしこの発電法は、ゴミを資源化しようという流れとは正反対のもの。発電機をフル稼動させるためには「ゴミが足りん。分別なんかいらんから、もっとゴミを出せ !」となります。私はこれを、「循環型社会」ではなく
「悪循環型社会」と呼んでいます。


高木:循環型社会とは、上勝町の「くるくるショップ」のような仕組みですね。

笠松:そうなんです。新しいものを買わず、再利用や再々利用すればいいんだという、心の変革が必要だと思います。そして、全国の至るところに、「くるくるショップ」を作って、資源として循環させていくのです。この方がゴミ発電より美しいとは思いませんか?
私は「真・善・美」といっているのですが、政府が行っている政策は、「真実なのか、善いことなのか、美しいことなのか」という観点で見ていくことが大切だと思います。国のやっていることは、間違いに思えることがたくさんあります。


高木:そうですね。日本では、ダム、空港、原子力、自動車道路など、「長期的、総合的」という視点で問題があるものが多いですね。

■問題解決はみんなの知恵で !

笠松:
上勝町は現在、65歳以上の高齢者比率48%ですが、町内には、50%を超えている限界集落が幾つかあります。限界集落について、政府が進めているのは、「集落の再編」です。「不便なところはつぶして、便利なところへ出てこい」という発想です。しかし私は、「集落の再生」がしたいのです。
たとえば、上勝町はインターネットの光ファイバー普及率が86%です。つまり情報に関しては、東京も大阪も上勝町も一緒なのです。ですから、上勝町で暮らしながら、森林の管理、農地の管理をすすめ、さらに店舗を持たずにインターネット販売で経済活動もできるのです。
人が住まないと、地域は衰退して荒廃していきます。その場所に住むことが大切なのです。上勝町では、若い人たちがⅠターンや Uターンで入ってきて、いかに自分たちの地域をよくするかを「いっきゅう運動会(とんちの一休さんから命名)」で話し合い、問題解決をしています。地域が主体となって、住民がやる気を出して、「こんな集落にしたい」と願って動き出したときに、変化は起きます。集落の再生は可能なのです。


高木:住む人自身が変化を起こすのですね。

笠松:その通りです。現在、上勝町には年間約4000人の視察・見学者が来ています。ゴミゼロの取り組み、はっぱビジネスの「いろどり」、「いっきゅう運動会」での地域づくりなどを見て帰られます。

高木:4000人とはすごい。上勝町が全国に知恵と勇気を発信しているのですね。

笠松:私たちが全国のみなさんにお伝えしたいのは、ぜひ知恵を寄せ合って、ゴミを資源に変えることを始めて欲しいということです。例えば小学校単位で「くるくるショップ」をやっていただいたら、ゴミの減量と同時に、心の環境教育になると思います。

高木:上勝町の挑戦について、町長さんのご著書に詳しくまとめられたそうですが。

笠松:はい。ぜひ本を読んでください。そしてよければ、上勝町にもいらしてください。

■上勝町HP   http://www.kamikatsu.jp/
■6月発刊予定
「持続可能な町は小さく美しい―上勝町の挑戦―」
   学芸出版社   笠松和市・佐藤由美 共著 

●この連載『スペシャル対談』を改めてお読みいただきたいと、
これまでの対談から11名のゲストとの対談集『高木善之対談』
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