スペシャル対談

2008年8月号 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン事務局長 渋谷弘延さん

1919年イギリスで生まれた「セーブ・ザ・チルドレン(以下SC)」は、世界に28のSC団体があり、活動地域は120カ国を超えています。
SCジャパンは1986年に発足し、95年に外務省の認可を受けました。子どもたちの人間としての権利を守るために、教育と復興事業を精力的に行っています。


■ 世界を網羅するSCネットワーク

高木:こんにちは。お会いするのは3回目になりますね。今日は、中国とミャンマーへ募金させて
いただきます。どうぞお役立てください。

渋谷:ありがとうございます。中国では、我々のメンバーであるSC-UK(英)に、中国政府から
正式な依頼がありまして、学校が壊れて行けなくなった子どもたちのために、学ぶ場を作る
活動を行っています。ミャンマーは外国の支援の受け入れが難しい国ですが、SCは以前
から支援を行っておりましたので、被災直後から救援ができました。

高木:なるほど ! 実績があったからできたことですね。ではまず、SCの活動の趣旨や
歴史について教えていただけますか。

渋谷:1919年にイギリスで創設されました。第一次世界大戦後、戦争の影響を受けて
大変な思いをしている子どもたちを救おうという目的で始まったのです。名称はそのまま
セーブ・ザ・チルドレンになりました。イギリスではアン王女が総裁を務めておられます。
SCジャパンは23年前に、大阪JC(青年会議所)が主体となって発足しました。
SCは連盟制になっていて、同じSCという名称をつけて活動するパートナーが28カ国に
あって、活動地域は120カ国以上に及び、ほぼ世界中を網羅しています。

高木:SCという名の団体が、それぞれが独立して主体的に活動しているということですか。

渋谷:そうです。しかし最近は、連盟のパートナーシップを強化すべきということで、途上国
にそれぞれ事務所を持って活動しているSCを、統合することも行っています。
ミャンマーの場合、SCジャパン、SC-UK、SC-US(米)、などが事務所を構えて活動して
いましたので、3年前に、SC in ミャンマーとして事務所を統合しました。その統合の結果、
現地の職員が500人、事務所が30カ所になりました。

高木:えっ ! 今回のサイクロン被災の前に、それだけのスタッフが既にミャンマーにいたのですか。

渋谷:そうなんです。だから我々は素早い対応ができました。素早いといえば、今回のミャンマー
では画期的なことに、外務省からの拠出金が3日後に出たんです。日本は緊急といわれる
場合でも、1、2カ月後調査をしてからというのが通例なので異例のことでした。災害の場合は、
最初の2、3日が非常に重要なんです。そこで動かないと、後遺症が残るんです。

高木:私たちも、緊急支援は最初の1、2日(初動)が大事ですから、その時期に活動が出来る
団体を支援し、協働しています。募金も、貯まってから渡すというのでは遅いので、先に拠出
してから募金を始めるのです。

渋谷:ありがたいです。それが本当に大切です。我々も即座に動きます。途上国では、学校が
地域社会の中心地になりますから、我々はまず学校を建てると同時に井戸を掘って、きれいな
水が手に入るようにします。そこで、親たちに教育の大切さと基礎的な保健衛生について教え
ます。つまり学校が保健所であり、公民館であり、役場でもあるのです。『地球村』さんからいた
だいた貴重なご支援ご寄付も、学校建設など、いま必要なことに有意義に使わせていただきます。


■ 環境調和社会を最終ゴールに

高木:日本やアメリカなどは、一人当たりのGDPが約4万ドル、400万円以上ですね。
でもその100分の1にも満たない貧しい国がたくさんある。現在は、みんなさらに豊かに
なろうとしていますが、地球の許容量を考えたらそれは不可能です。人類のゴールは
一等船客ではなく、二等船客だと思います。まず一等船客が生活レベルを2分の1、
そしてさらに10分の1に下げることしかないと思いますが、SCの活動のゴールはどこに
あるのでしょう。

渋谷:基本的に人間は幸せを求めています。幸せとは、貧しくとも食べるものがあって、
両親がいて、満たされていること。それが子どもにとってのハッピーだと思います。
それがSCのゴールです。

高木:たしかに、それがハッピーです。それが、なぜ実現できていないかといえば、豊かな国の
豊かな人々が、あまりにも無茶な贅沢をしているからではないでしょうか。

渋谷:そう、それは私の持論でもあります。江戸時代は封建制度ではありましたが、庶民社会は
すばらしい民主社会だったと思います。お互いに助け合う共同社会でもありました。

高木:江戸時代は、自給自足を基本とした環境調和社会でしたね。ということは、ゴールは
自然と調和して自給自足できる社会ではないでしょうか。渋谷さんが、そうお考えだと聞いて
安心しました。共に環境調和社会を目指していただきたいと思います。だから学校も、そこで
子どもたちにどんな価値観が教えられるかを考えなくてはならないと思います。日本では戦後、
「アメリカは豊かだ。追いつき追いこそう」ということが教育されました。その価値観を転換しないと
いけない。『地球村』の活動は、価値観の転換なんです。地球環境や国の安全、世界の平和を
考えると、自給自足の環境調和社会を実現しなければなりません。

渋谷:もちろん、そうなんですが、そのような改革は非常に難しい、壁は本当に厚い…。
政界や財界のリーダーたちと、飲み会ではこういう会話ができるんですよ。しかしその人たちは
翌朝、自分の職場に戻って「じゃあ私も」ということは絶対にしません。

高木:残念ながら、そのとおりです。でも、すでに環境先進国では、価値観の転換、方向転換が
始まっています。食料は自給自足に近づいています。環境税の導入、環境対策で二酸化炭素の削減が
進んでいます。しかし、日本は環境税も導入しないし、いまだに自動車道路を増やそうとしています。

渋谷:日本人は切羽詰らないと動かないという体質があると思います。その場その場で対策を打ち、
抜本的な解決をしてこなかった。ただ嬉しいことに、しっかりした若い人たちが現れています。
彼らに活躍できる機会を与えることが、いずれ社会に何らかの形で影響を与えていくと考えています。

高木:それは楽しみですね。ただ、そのためには、おとながもっと本気で変わらないといけません。
20世紀、私たちは物質的豊かさを追い求めすぎました。21世紀は、方向転換が求められています。
共通の未来(自給自足、自然調和、環境調和)の実現をめざして、共にがんばってまいりましょう。今日はどうもありがとうございました。

■セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
http://www.savechildren.or.jp/

 次号の対談ゲストは、『地球村』理事、中井弘和さん
 静岡大学名誉教授(元副学長)です。お楽しみに !


●この連載『スペシャル対談』を改めてお読みいただきたいと、
『地球村通信』に好評連載中の“スペシャル対談”コーナーが、
本になりました!11人のゲストとの対談を掲載しています。