スペシャル対談

2008年7月号 AMDAグループ代表 菅波 茂さん

岡山県に本部を置き、国際支部が29ヵ所。そこからアジア・
アフリカ・中南米へ多国籍医師団を派遣する国際医療NGOの
AMDA(アムダ)は、独自のネットワークを駆使して、今回の
ミャンマーや中国四川省の災害に対しても、いち早く救援の手を差し伸べました。AMDAの迅速な救援活動の秘密に迫ります。



■ たった一人からAMDAのスタート

高木:お忙しいところありがとうございます。

菅波:こちらこそ。中国、ミャンマーの緊急募金、大変ありがとうございました。

高木:どういたしまして。では、AMDAについて、原点を教えていただけますか。

菅波:大学生の頃、アジアを10ヵ月間旅したことがきっかけです。アジアの医療の現状にショックを受け、医療調査チームを出そうと考えたのです。

高木:学生の医療調査チームですか。

菅波:そうです。タイとビルマの国境地帯にあるモン族の村に行ったのがスタートでした。子どもの頃は探検家になりたかったので、「未知との遭遇」を求める探険家スピリッツ+医学が、人道支援という形になったのかもしれません。

高木:私も子供のころ、「夢を追う子」「トムソーヤ」「15少年漂流記」「ロビンソンクルーソー」が大好きでした。AMDAの創設はいつですか。

菅波:1984年です。初めは、毎年国際会議を開催してネットワークを作りました。1992年のロヒンギャ難民のときに初めての救援活動を行いました。


■尊敬と信頼の相互扶助

高木:
AMDAの基本理念をお話ください。

菅波:欧米はクリスチャニズムを共有していて、なぜ相手を助けるのか明確なのですが、「多宗教、多民族、多国家のアジアは、どうして助け合うのですか」と2004年のジュネーブのNGO国際会議で聞かれました。私は「友だちのためにするんだ。友だちがトラブルに巻き込まれたら、これを助けるのはレスポンシビリティ(責務)だ。困難を共に解決する過程で得られた尊敬と信頼によって、宗教や民族を超えて共存共栄できるのだ」と言いました。「どうしたら困難を共にする友だちになれるか」と聞かれたので「私たちは今すぐにでも困難を共にする友だちになれる。でも、もしあなたが逃げ出したなら、尊敬と信頼を共有する機会を失い、友だちでもなくなりますよ」と言いました。助ける側と助けられる側双方に、尊敬と信頼があることが大事で、AMDAは相互扶助による国際的人間関係を重視しています。

高木:なるほど。つまり一方的に与えたり、施したりするのではなく、互いに尊厳をもつということですね。

菅波:5年前、スリランカの支援をすることになったとき、私はスリランカ政府に、なぜ AMDAが来たのかを次のように説明しました。「1951年のサンフランシスコ講和条約で、スリランカ政府は、日本人は我々の隣人だから戦争の賠償金はいらないと言った。それは当時の日本人にとってどれだけ助かったかわからない。おかげで日本は復興した。そして今、あなた方は困っている。だから私たちは来た。将来、日本が困ったときには助けてください」

高木:すごい ! トルコ政府の日本人救出を思い出します。 
※1985年イランイラク戦争において、日本政府の判断の遅れから、日本人200名以上が脱出できずイラク空港で危機に瀕していた時、トルコの民間機2機が飛来、間一髪で日本人全員を救出してくれました。トルコ政府は、「我々は、日本人が困難に陥ったときには全力で助ける。エルトゥールル号事件を忘れていない」と述べました。エルトゥールル号事件とは、1890年トルコの軍艦エルトゥールル号が和歌山沖で嵐に遭い沈没した際、和歌山の村人が全力で救済に当たり、犠牲者は手厚く葬られ、生存者は無事帰国することができたという歴史的事件です。


■ 援助を受ける側にもプライドがある

菅波:そうなんです。AMDAの人道援助の三原則は、
・誰でも他人の役に立ちたい気持ちがある
・この気持ちの前には、国境、民族、宗教、文化等の壁はない
・援助を受ける側にもプライドがある
というものです。この原則を発見したのは1992年のロヒンギャ難民救済のときです。国境なき医師団ですらも、ダッカ空港で1週間足止めされたのですが、AMDAは3時間で入国できました。バングラデシュのNGO登録には、通常3ヵ月かかるのですが、それも1時間で済みました。理由は、AMDAのチームリーダーが東大で外科を学んでいたバングラデシュ人だったからです。自国の医師が自国民を助けるのですから、政府もメディアも大歓迎でした。

高木:よくぞ、そういう采配をされましたね !

菅波:はい、それが助けられる側のプライドなんです。今回のミャンマーのサイクロン被害でも、AMDAは13年前からミャンマーで支援プロジェクトを行ってきて、ミャンマー人の医師やナースがスタッフの中にいるんです。彼らを被災地のヤンゴンに向かわせたので、被災直後から救援活動ができました。四川省でも、1996年の雲南大地震のときからの人間関係があったのと、AMDA台湾が突破口を開いたことで成都に入れました。「医師は中国語ができて、中国の医師免許が必要」という条件もクリアできました。

高木:それはすばらしい ! 国際支部が29ヵ所ある強みですね。これからは、台風、サイクロン、熱波、干ばつ、津波、洪水、自然災害は急増するでしょう。さらに地球高温化で熱膨張が起きて、地震も確実に増えていきます。先生のお仕事は重要で、ますます忙しくなるでしょう。私たちもパートナーシップで応援したいと思います。

菅波:ありがとうございます。ぜひ、『地球村』の力をお借りしたいです。大災害で、不条理の真っ只中にいる人々にまず必要なのは「自分たちは見捨てられていない」という確認なのです。私たちが小さな団体でありながら真っ先に現地に駆けつけるのは、「あなた方は見捨てられていませんよ」というメッセージを伝えるためです。メッセージを伝えたあとに、具体的な支援をすれば良いと思うんです。『地球村』は、ネットワーク力を持っておられるから、町長さん、市長さん、議員さんに、「何か起きたときにはまず、メッセージを発信しましょう」という呼びかけをお願いしたいんです。これはAMDAにはできないことです。

高木:なるほど ! 支援について、とても重要なことに気づかされました。『地球村』としても、支援活動を強化したいと思います。今後のご活躍を祈っております。


■AMDA  http://www.amda.or.jp/

ミャンマー、中国四川省への支援活動について。
『地球村』では、AMDAをはじめ現地で直接支援を
している団体の活動に協力しています。
今後は、復興支援も必要になります。
ぜひ募金にご協力ください。
https://chikyumura.org/donation/


●この連載『スペシャル対談』を改めてお読みいただきたいと、
『地球村通信』に好評連載中の“スペシャル対談”コーナーが、
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