スペシャル対談

2008年9月号 静岡大学名誉教授  中井弘和さん


静岡大学名誉教授(元副学長)で、ネットワーク『地球村』の理事でもある中井弘和先生は、棚田で無農薬・無肥料の自然農法に取り組む「清沢塾」の塾長でもあります。
将来、日本の農家を直撃するかもしれない、自家採種禁止の法案が進行していることなど、非常に重要な話題が出ました。



■ 21世紀は『地球村』の世紀に

高木:『地球村』の総会ではお世話になりました。毎年、素敵なスピーチをありがとうございます。まずは、『地球村』との出会いからお話しいただけますでしょうか。

中井: 1994~1995年頃でしょうか、「高木さんという面白い人がいる」という噂を耳にして、その後、静岡で初めて講演会に参加しました。衝撃でした。誰もが目にしているはずの新聞記事を資料に、地球環境や生き方について解き明かしていく、その迫力に圧倒されました。驚きの連続でした。
そして、忘れられない出来事があるのですが、1997年9月6日、大阪のワンデイセミナーに向かう新幹線の中で、「マザー・テレサ死去」のニュースを知ったのです。実は、私はその9月28日にマザー・テレサに面会に行くことになっていたのです。だから死去の知らせに愕然としました・・・ものすごく気落ちしてワンデイセミナーに参加したのですが、お話を聴いているうちに、不思議なことにどんどん心が癒されていき、講演が終わったときにはすっかり元気になっていました。高木さんの言葉には、命というか、生命力を感じるんです。

高木:うれしいことです。ありがとうございます。では、講演を聴かれて、その後、変化はございましたか。

中井:いろいろな意味で影響を受けました。まず大学での学問のありようを根本から見直そうと考えるようになりました。その結果のひとつとして、文部省に2年も3年も交渉して、農学部の中に人間環境科学科を創設したのです(定年後、廃止されました)。私は、21世紀のビジョンは、高木さんのおっしゃる『地球村』(環境調和社会)以外にありえないし、それでなければ生存していけないと考えています。そのためにも、大学もそのビジョンに向かって教育し、研究していかなければならないと思って、人間環境科学科を立ち上げたのです。しかし、9・11のテロ以降、世界全体がおかしくなってしまいました。そのことを、とても残念に思っています。

高木:同感です。残念なことですね。では、その後のご活躍について教えていただけますか。

中井:私自身、将来は農業をやりたいという夢があって、土地を求めてあちこち回りました。そこで気付いたのが里山の荒廃です。静岡近辺の棚田は、ほとんどが放置され、棚田があることもわからないような状態になっていました。そこでもう一度棚田を修復し、稲作を始めて今年で9年目になります。清沢塾といいまして、私が塾長をしています。

高木:ほう ! すばらしいことですね ! 先生が主宰されているのですか。

中井:そうです。人手が入ることによって自然が生き返ることも発見しました。ホタルも帰ってきまして、今では隠れたホタルの名所です。

高木:それはすごい !

中井:除草剤も農薬も全く使わずに稲作をしているのです。3年前からは、富士宮でも自然農法の田んぼを、行政との共同プロジェクトで行っています。地元の中学校の総合学習で、稲を植えたり草取りをしたり。最初は「農薬を使わないなんてとんでもない。草を生やされたらかなわない」と反対の声もあったのですが、子どもたちが楽しそうに田んぼに入って稲作りをしている様子に、親たちも近づいてきてくれるようになりました。


■ 自家採種禁止に向かう日本

高木:静岡の棚田と、富士宮で自然農法の田んぼと、他にはどんなことをされていますか。

中井:農場に、週3日通っています。ここでは、自然農法に合う稲の品種づくりをやっています。秋田、福島、石川、鳥取、岡山の農家に、こちらで交配した種を預けて、その土地に合う品種を農家の方の目で選んでもらおうという研究です。

高木:農家の方との共同研究ですね。

中井:そうです。本来の品種改良とは、国や企業の仕事ではなく、実際に土と作物に触れている農家の方が、よりよい種を採りながら、自分の土地に合う品種や農法を自ら見つけていくものだと思うのです。いつも稲を見ている農家の方が一番稲のことを知っているのですから。私は、品種改良そのものに、農家が直接関わり、勉強し、話し合いながら研究を進めていく、そういうことをやろうとしています。

高木:それはすばらしいことです。今年の総会で、種の特許の関係で農家が自由に自家採種できなくなるかもしれないというお話を先生から伺って、いろいろ調べてみましたが、これは重大な問題ですね。

中井:1978年に種苗法が日本に初めてできまして、23品目は自家採種しちゃいけないということになっていたのですが、2007年、禁止品種がいきなり80品目以上に増えました。

高木:自家採種禁止の理由は何でしょうか。

中井:種苗企業の知的財産権を守るということです。種を買って栽培して食べる分には良いのですが、次の代にはまた種を買いなさいということです。違反した場合は最高300万円の罰金、3年の懲役だそうです。

高木:驚きです。禁止品種はこれからも増えるのですか。何かできる対策はないものでしょうか。

中井:何かしないといけません。私は農家の方と一緒に種を作っていますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。自家採種の禁止が進めば、品種の多様性は失われていくと思います。こういう事実を知って「それはおかしい !」というアピールを、農家の方と一緒に起こしていかなければならないと思います。そもそも農家が、次の世代の命(種)に責任を持てない状態になっていることが問題で、それによってどういう
ことが起こるのかということを、国民一人ひとりに知ってもらうことが重要だと思います。

高木:私も、この法律の危険性をアピールしていきます。先生は自然農法を実践されながら、自治体ともつながっておられます。ぜひ国にも提言していただきたいと思います。

中井:私も『地球村』に関わりながら、自分の使命を果たしたいと思います。

高木:食糧問題は、今後世界的に大きな問題になります。私も、日本の食糧のこと、農業のこと、採種の問題を注目していきます。きょうは本当にありがとうございました。今後のご活躍をお祈りします。