スペシャル対談

2008年10月号 向山塗料(株)相談役  向山邦史さん

 山梨県の向山塗料(株)は、ネットワーク『地球村』の企業会員です。
15年前に、当時社長であった向山相談役は高木代表と出会い、地球に
優しい経営を目指し、大幅な経費削減と売上減少に取り組みました。
二人の出会いは、山梨県の学校プールに紫外線防止テントを設置する
など大きな成果も収めました。


■ 紫外線防止テントは非対立で

高木:こんにちは。今日はよろしくお願いいたします。向山さんとは、長いお付き合いになりますね。

向山:15年ほど前、私が精神的にかなり悩んでいた時期にお会いしました。

高木:八ヶ岳で行われた経営セミナーで。

向山:すばらしい講師の方がたくさんおられましたが、私にとって人生を変えるほどのインパクトをいただいたのは高木さんだけでした。

高木:以来、甲府に度々お招きいただいて、10回くらい連続で講演させていただきました。その一つの成果として、甲府の小学校プールに紫外線防止のテントができて、それが山梨県全体に広がって、すばらしい成果が出ました。今でも講演の中で、成功例としてお話させていただいています。

向山:あの時、高木さんの講演を聴いた仲間たちと一緒に「山梨フロン研究会」を作りまして、4ヵ月で7万人の署名を集め、「プールサイドにテントを設置してほしい」「樹木を増やしてほしい」という請願書を県に提出したんです。でも県はすぐには動いてくれませんでした。そこで幼稚園や小学校に、「山梨フロン研究会」の主婦たちが出向いて、校長先生に直接お願いしたんです。それから1、2年のうちにテントが設置されていきました。

高木:よかったですね。よく動かれましたね。

向山:高木さんのおっしゃる「非対立」で動いたからだと思います。「だめだー ! いけなーい !」と叫んでいては変わらなかったでしょうね。



■ マイナス成長を会社の目標に

高木:向山さんの経営されている会社の変化についてお話いただけますか。

向山:以前の私は、売上を上げて会社を上場させようと思っていたので、社員の尻をひっぱたくことばかりやっていました。社員は辞めていく、補充しなくちゃいけないから職安に行く、新たに社員教育もしなくちゃならない、もうぐじゃぐじゃでした。社員の幸せなんて考えてなかったし、自分もおかしくなっていきました。しかし、高木さんのお話を聞いてから、目指すはGNPではなくGNH(国民総ハピネス)、社員が幸せにならないことには、会社の経営をしても意味がないことに気がつきました。そして、永続可能な地球環境と会社をどうやって作るかを考える中で、売上を毎年減らしていくという計画を発表しました。

高木:すばらしい ! 売上はどうなりましたか。

向山:ピーク時は13億くらい、今は8億くらい。倒産しないで売上を下げるには経費を下げていくしかありません。そこで1998年に、ISO14001を社員の力で取得したんです。早い時期だったので、自分たちで徹底的に勉強しなければなりませんでした。その結果、社員全員に、省エネや経費節減の意思統一ができたんです。苦労した分、いいことがありましたよ。

高木:みなさんの給料はどうなっていますか。

向山:給料は上げています。上げないと社員もやっていけません。そして社員一人ひとりが自給自足できることが幸せですから、会社の近くに300坪くらい土地を借りて、そこを社員用の畑にしています。

高木:いいですね ! 他には何か ?

向山:CO2削減には、「ガソリンをどうするか」が一番大きいです。そこで、5年前からBDF(バイオディーゼル燃料)を製造するようになりました。豆腐屋さんや学校給食センターから天ぷら油をもらって、毎月8千リットルくらい作っています。現状は、廃油を加工しなければなりません。廃油をろ過するだけで使える方式の車に変えようという計画も進めています。さらに、菜の花やひまわりを咲かせて、油を絞って天ぷら油として使用し、それを車に使う。そういうことを地元でやっていかないと、車も動かせなくなる時代が来ると思っています。世間とは、ちょっとずれているんですかね(笑)。

高木:いいえ、原油の高騰で、すでに漁船、ハウス農家、トラック運送など、深刻な問題ですよ。



■ 自給自足のシステム構築を

高木:では最後に、向山さんの運営されている「五風十雨(ごふうじゅうう)農場」について教えていただけますか。

向山:五風十雨とは、「5日に1度風が吹き、10日に1度雨が降る」という意味で、気候が安定した状態の五穀豊穣の平和な世界なんです。環境が悪くなっていかないようにこの名前をつけさせていただきました。将来、私が暮らしていけるところはしっかり確保しておきたいですし、私だけでなく周りの20~30人くらいの人たちとコミュニティを作って暮らしたいという意識がずっとありまして、土地を買ったり借りたり準備をしてきました。本格的に農場を始めて4年目になります。田んぼが1町歩、畑が1町歩、開墾地が1町歩あって、米は50俵取れます。菜の花、さつまいも、雑穀も作っていて、小麦、大豆も始めました。いろんなものを自給自足していかないことには、日本は動きが取れなくなります。中でも、エネルギーと食糧です。

高木:その通りです。テレビや自動車を売って、そのお金で食糧を買おうという時代は終わるでしょう。道路財源が60兆円あるのなら、道路を作るのではなく、それを農業に生かし、自給自足に近づけることが最善であり、もっとも必要なことです。

向山:マスコミも、「昔の社会には戻れない」とか、「経済成長が必要」とか、決め付けて書くでしょう。実際に売上は下げられるし、問題も起こらないし、それが必要なのですけどね。困ったものですね。

高木:全く同感です。世間では、「車は必要だよね、やめられないよね」ってよく言われるけど、私はやめました。これから、オイルショック、フードショック、マネーショックが起きて、人間を目覚めさせると思います。その時のために、食糧やエネルギーの自給自足循環システムを作って、命をつなぐモデルを『地球村』で作っておきたいですね。

向山:拍手です !! ぜひやりましょう !

高木:今日は本当にありがとうございました。


■向山塗料株式会社
http://www.1611mp.jp
■五風十雨農場
http://www.eco-phoenix.com/Gofuujyuuu

●この連載『スペシャル対談』を改めてお読みいただきたいと、
これまでの対談から11名のゲストとの対談集『高木善之対談』
を発刊しました。