スペシャル対談

2009年4月号 淀川水系流域委員会委員 宮本博司さん


国土交通省の元キャリアで、現在は同省を退職して一人の住民として淀川水系流域委員会に参加している宮本さん(56)。国を相手に、正々堂々と治水事業の見直しを申し入れています。お金や利権より命や環境が大切だという、当たり前なことを当たり前に伝えていこうと、昨年、政経塾にも参加しました。



■ 住民の声を本気で聞こう!

高木:「淀川にダムは必要か」という重要な問題提起をされている宮本さんをお招きしました。まずは流域委員会の成り立ちからお願いします。どうしてこんなに住民の声が反映できるまともな委員会ができたんですか。

宮本:1997年に河川法の改正があって、「国交省はこれから住民の声を聞く」ということになったんです。それを受けて流域委員会を立ち上げたのがスタートになります。それ以前の国交省は、長良川河口堰などで大反対運動があって叩かれまくっていたわけです。そこで河川法を改正して「もう勝手なことはしません」と、180度方針を転換したのだと、私は本省内にいて理解していました。そこで淀川では国交省主導ではなく、メンバーも学識経験者もオープンに選んでもらって、事務局も民間のシンクタンクで、会議もオープンにやることにしたんです。

高木:だけど、行政主催の「○○委員会」というものは、「住民の声を聞く」というのはポーズであって、実質は、行政側に立つ御用学者や推進に利権のある人たちを選んで、はじめからシナリオも結論も決まっているものでしょう(笑)。

宮本:もちろんそういうものだということはわかっていましたが、河川法の改正で、これからは本当に変わるのだと思ったのです。だから私は本気で住民の声を聞く気でいましたし、「流域委員会が『NO ! 』という結論なら、もうダムは作りません」といって始めたんです。それが新しい河川行政であり、淀川方式だと、マジで考えていました。

高木:すごい! それでどうなったのですか。

宮本:「淀川ではダムの中止まで考えているぞ」ということが伝わって、2007年1月には流域委員会をつぶすという話になりました。その時にはありがたいことにマスコミや住民たちが「おかしいじゃないか ! 」と騒いでくれて、それで国交省もつぶせなくなって、一旦休止にして別な委員会を作って流域委員会を評価させたんです。でもその委員会も「基本的に流域委員会のやり方は正しい」という結論になって、2007年8月に再開したんです。

■ 自分で見て感じて決める!

高木:宮本さんが国交省を辞めることになったいきさつは、その辺りの軋轢からですか?

宮本:28年間国交省の役人をしてきて、辞めるにあたってはいろいろな理由がありました。国交省の中にいても、状況が変わってしまった以上、淀川でやってきたことを続けることはできないなという雰囲気は感じていました。例えば次にどこかの局長になったとしても、自分の本音をいえなくなるだろうという思いはありました。

高木:本音とはどういったことですか。

宮本:私は淀川に関わってから、何十キロも川岸を歩いたりカヌーに乗ったり、川と触れ合ってきました。机の上や頭の中で考えたことではダメだと思うのです。自分で見て感じてショックを受けないと、本当のことはわからない。というのも、28年間河川行政の仕事をしてきましたが、その20年間は、川のことや住民のことが全く見えていませんでした。本省の中でダムを作る部署にいて、書類がマニュアル通りか、基準に合っているかということだけで、テキパキと仕事をこなしてきました。そんな時に、岡山県の苫田ダムに関わりました。そこはダム阻止条例ができた町で、コミュニティや人間関係が壊れていく様子を目の当たりにしたのです。ダムはこんなにも大きな犠牲を払うんだ…そんなことも知らずに、霞ヶ関で書類上のダム計画に○×をつけてきた…住民の痛みや地域の痛みをわからないままに判断してきた…そのことに大きなショックを受けました。「地域の声こそが大切なんだ」という思いを強めたときに、河川法の改正。だから淀川は、自分の思いを実現できるチャンスだと思っていました。

高木:宮本さんのお気持ち、よくわかりました。それが流域委員会の原点なんですね。実際に歩いてみると発見も多かったでしょう ? 

■ 今こそ未来を選択する分岐点

宮本:淀川の堤防は高さが10mくらいで、中は土や砂でできています。現在、洪水のエネルギーを川に集めて一気に流し、堤防で守るというスタイルを取っていますが、肝心の堤防は土でできたもろいもの。こんなものを作らずに、田んぼや湿地帯に水を貯めるべきなんです。エネルギーを川に集中させず、じわーっと分散させるんです。

高木:その通りです。水田や遊水地に分散させることが、昔からの治水方法です。10年や20年に1度の氾濫があっても、それによって農地が蘇るのですからね。

宮本:そうなんです。農業政策と治水と町作りとは一体で考えないといけないもの。でも省庁は縦割りで、計画策定に連携が取れていない。日本の一番の不幸は、地域と離れていて、地域の実情も痛みも全くわからない霞ヶ関が、計画を全部決めていることなんです。

高木:同感です。まったくおかしいですね。地方分権が叫ばれていますが、本当は地方主権。税金も、本来、国から分けてもらうものではなく、地方から国へ分けるべきものです。ダムにしても、国際的にも「ダムは無駄。ODAの対象からも外すべき」という結論が出ているし、ヨーロッパではもはや計画されていない、アメリカではダムの撤去が進んでいる。その点を国交省ではどう考えているんでしょうか。

宮本:日本は洪水も多いし国情が違うと言っています。世界の実情や住民の思いは知識としては入ってきても計画には入ってこない。役所内の会議の基準は、自分たちの組織にとってプラスか、権限が増えるか、予算がつくか、なんです。このおかしさは、役所の内にいると段々わからなくなっていくのです。

高木:なるほど。だから外に出たんですね。

宮本:今は、一人ひとりが自分で見て感じて動いていかなくちゃいけない、その分岐点だと思うんです。『地球村』のみなさんも、ぜひ自分の町はどの堤防で守られていて、どの水を飲んで、使った水がどこへ行くのかを調べてみてほしいと思います。それを知れば、川や地域についての意識が変わると思います。

高木:自分で見て知って感じることで行動は変わります。大切なメッセージありがとうございました。では、世直しの政経塾のメンバーとして今後ともよろしく。



淀川水系流域委員会 http://www.yodoriver.org/