2009年5月号 イースクエア代表取締役会長 木内孝さん
元三菱電機アメリカ会長の木内さんは、サラワクの熱帯雨林を訪れて、自然環境を破壊する人間の愚かさを実感。以来、1995年アメリカで設立された「フューチャー500」の理事長を務め、2000年に持続可能な社会を作る企業支援や人材育成を手掛ける「イースクエア社」をピーダーセン氏と設立するなど、多方面でご活躍されています。
■熱帯雨林で目が覚める!
高木 お久しぶりです。今日は、楽しい対談を楽しみにしています。出会って5年くらいでしょうか。
木内 イースクエアが9年目ですから、高木さんと出会ったのは8年くらい前になります。
高木 早いものですね。ではまず、木内さんが、地球環境の活動に入られたきっかけをお聞かせください。
木内 会社勤めをしていた時に、タスマニアやサワラクの熱帯雨林を訪れてショックを受けたのです。なにしろ、熱帯雨林をクリアカットで丸坊主にしているんだから。熱帯雨林は、もともと素晴らしい生態系で、理想的な循環社会だったのに、それを私たちが、すごいスピードで、すごいスケールで切り倒しているのです。これは大変なことだと気付いて、ワシントンDCで開かれた熱帯雨林保護団体の集まりに参加したら、「あなたの会社は、世界中で最も悪いイメージの会社だよ。よくぞ我々の集まりに来たね」と言われて、これまたショックを受けました。
高木 環境活動家からは、森林破壊では三菱商事、三菱マテリアルは悪いイメージがあるでしょうね。三菱電機は別会社ですが、海外では同じ会社のように見られるのでしょうね。
木内 そうなんです。そこで「20分私に話をさせて」と頼んで、「2ヵ月前にサワラクへ行って目が覚めた。みなさんと戦う意志はない。むしろみなさんと一緒に熱帯雨林を守りたい。熱帯雨林のものは買わないなど世論作りをしたい」と話しをしました。すると、みんな立ち上がって大拍手。活動家たちから、この日本人は真剣だと認めてもらえたんだと思います。それが私のスタートでした。
高木 それは素晴らしい。でも、それには本社の許可が必要ではありませんか。私も大企業にいたからよくわかりますが、現地は勝手には動けない。
木内 よくぞ聞いてくださった ! 本社の許可というのはね、「これからこういうことをしてもいいですか」とお伺いを出すと、必ずNOって言ってくる。「これはこうしちゃったよ」って過去形でいうと何も言ってこない。これは大事なことです。
高木 ははは、よくわかってますね ! そうなんですよ。本社は責任を取りたくない。問題が起こった時、「現地が勝手にやったこと」と責任逃れができる方がいいのです。さすがです。痛快ですね !
間違いの元は経済活動
木内 それにしても、これだけ哲学者や賢人がいて、どうして世の中こんなことになるんだろう。人間は、経済や私利私欲、利己主義で突っ走るとおかしなことをするものだって、どうして見抜けないんだろう。自然は無駄なものは作らない。だから自然にはゴミがない。バランスが取れている。そのことは38億年の検証を経て確認できていることなのに。
高木 根本は経済(物欲)でしょうね。科学がいくら素晴らしくても、その使い方が間違っているから、世の中おかしくなっていくのでしょうね。人は自然界から学べばいいのです。自然界からしか学べない。自然への感謝と畏怖を忘れたらだめなんです。
木内 まさにその通り。それなのに原子力容認派に移る人もいるし、これまで環境の分野で尊敬していた人も・・・。スウェーデンも・・・。もう愕然とするね。
高木 えっ! それは知りませんでした。確かめてみますが、経済との折り合いで、間違うのでしょうね。
木内 その通り!でも、正しいメッセージはどうしたら伝わるんだろう、誰の口を通せば伝わるんだろう。私は、日本では皇室ではないかと思っています。来日中のチャールズ皇太子と会う機会があって「一番の問題は日本人の無関心だ。しかし、国民はロイヤルファミリーの言葉には耳を傾ける。あなたからロイヤルファミリーに、環境の話を国民に話すよう頼んでください」と言ったのです。チャールズ皇太子は帰るときわざわざ「あなたの言ったこと忘れないからね」と言いに来てくれました。
経済大国から幸福大国へ
高木 ところでイースクエアは、どんなことをメインに活動されていますか?
木内 企業や団体のパートナーとして「何ができるのか」ってことをしています。これからはGDPが上昇した、景気が上向いた・・・と云った経済の展開に関心が集まる時代から、「社会の発展」が優先される21世紀になります。今まで親しんできた損か得か、儲かるか儲からないかと云った利己主義的な判断基準に頼っていた間に、あらゆる物が商品化し、貨幣が世界を駆け巡りながら増殖し、人間の心を食い荒らす経済が生まれ、そして破綻しました。その破綻から何を導き出すかが問われています。
高木 なるほど。私も同じ考えです。
木内 考えと言えばね、世界中から何でもいいから質問を集めて、その中から大事な質問を100選んで、それに100人の賢人を呼んできて3分で答えさせるっていう、世界最大のラウンドテーブルがドイツであったの。その時の質問の一つが、「時間を節約する目的で、発明すればするほどストレスが溜まる社会になるのはなぜですか」っていうのがあったのです。
高木 なるほど。私は、その原因はGNPだと思います。GNPを上げれば上げる程、稼ぐための仕事が必要になるし、時間も必要になる。ストレスもたまる。のんびり過ごすには、GNPゼロがいいんです。
木内 そうなんですね。一生懸命運動して健康でいるとGNPはビクともしない。ひとたび病気になってお医者さんに掛ってお薬だ、入院だとなるとトタンに指標が上がる。しかも上がるとみんなが喜ぶ。
高木 そう、人を殺しても、戦争しても、火事になっても、大地震でも、ガンになってもGNPは上がる。
木内 みーんな上げる要因なんですね。
高木 GNPにはマイナスがない。無駄なこと、愚かなことをやればやるほど上がる。
木内 GNPという考えを止めないといけないね。
高木 そうですね。だからブータンは、GNH(国民総幸福)をめざしたし、今、心ある人はそう思っています。
木内 本当ですね。それを伝えたい。
高木 私たちの方向性は同じですね。これからもぜひお会いする機会を増やし、本当の豊かさ、真の幸せを一緒に考え、社会を変えましょう。
■株式会社イースクエア
http://www.e-squareinc.com/