スペシャル対談

2009年8月号  発明家・非電化工房主宰 藤村靖之さん

那須に「非電化工房」を構える環境発明家の藤村靖之さんは、電気を使わなくても便利快適な生活は程ほどに実現できることを提案されています。

実は、大阪大学の出身で、学生運動をして、30年前に生き方を根本から変えて、音楽一家でと、高木さんとは共通点も多く、那須のアトリエで話が弾みました。


■ オール非電化住宅の提案

高木:初めまして。とてもすばらしい所ですね。どのくらいの広さがあるのですか。

藤村:3000坪くらいです。最初は千葉の房総半島辺りを考えていたんです。都会に近くて交通の便がよく、人が訪れやすい場所を探していたんです。家内と一緒に、長野、山梨、群馬も見て歩きましたが、この土地を見た瞬間にインスピレーションが湧きました。特に、この池と高低差を見たとき「重力エレベータが作れそうだ! 」と思って、ここに決めました。

高木:重力エレベータですか ! すぐお聞きしたいですが・・・、まずは、こちらでは、どんな生活を送っていらっしゃいますか。

藤村:メインテーマはオール非電化住宅です。非電化冷蔵庫は既に作ってあるんだけど、戸外に置かなくちゃ冷えないんです。でもせっかく家ごと建てるんだから、室内に非電化冷蔵室が作れる。イメージとしては、台所は思いっきり広くて、北側にドア、そのドアを開けて階段を下りると半地下の冷蔵室がある。北側を向いていることで冷蔵室になるんですね。

高木:自然に冷えるワイナリーもできますね。

藤村:そうなんです。そして洗濯室は南側に作ります。明るく広々とした部屋で、南側の屋根に乗った太陽熱温水器のお湯で洗うんです。

高木:なるほど、お湯で洗えばきれいになる…。

藤村:太陽熱温水器なら電気はいらないし、洗剤も使わないで済む。汚れを取るには、温水と圧力を利用します。電気洗濯機って、すすぎのために水を4分の3使っているんです。つまり75%の節水になる。多少の労力と手間がかかるけど、南側の明るいすてきな部屋なら家事も楽しいでしょう ? そういう構想と技術はもうできているので、それを組み立てて、オール非電化住宅として提案したいと思っています。私のねらいは、新しい機械や技術じゃなくて、新しいライフスタイル。こういうライフスタイルと、今までのライフスタイルと、どっちが楽しそうかな ? ということを実際に見てほしいんです。

高木:楽しい生活の方を選んだら、実はエコロジーで環境にもいい。そういうねらいですね。

藤村:そうです。私は講演会では「非電化っていうのは、妃殿下じゃないよ。電気を否定する否電化でもないよ。秘伝化して金儲けするものでもないよ」と、おやじギャグ3連発で笑いを取るのですが、冗談じゃなくノウハウは100%タダで提供します。できればお父さんが日曜大工でやってほしいし、小さな町工場で作ってほしい。先進国の大企業にしか生産できない物、ではない物を提案していきます。

高木:楽しくて、わかりやすい伝え方ですね。

■ ハイテクの呪いを解こう

高木:こちらには、母屋のほかに、北欧のコテージやモンゴルのゲルが建っていますね。

藤村:どちらも現地から輸入して建てました。木造のコテージはキットを組み立てるだけのもので、「ムーミンハウス」と名付けました。私はトーベ・ヤンソンさんの「ムーミン」が大好きでして、あの物語は自然と平和と家族愛がテーマで、それって私たちが言ってることと一緒でしょう ? それを子どもも大人もわかるように童話にしたのが「ムーミン」なんです。そして、トーベ・ヤンソンさんの哲学を代弁しているのがスナフキン。家を持たない旅人で、ムーミンが俗世間に感化されそうになると、優しく諭して、今ある幸せに気づかせてくれる。

高木:藤村先生は、スナフキンのように優しく気づかせる人を目指しておられるのでしょうか。

藤村:ああ、そうなれるとうれしいですね。

高木:モンゴルは支援に行かれているそうですが。

藤村:非電化冷蔵庫や馬力発電(馬に発電機とバッテリーを引かせて発電する装置)の技術提供に、もう何度も行っています。彼らは主として肉食なんですが、とても優しくてシャイでね。遊牧生活の中で、非電化製品は非常に喜ばれています。馬力発電もばかにできませんよ。テレビが十分映りましたからね。

高木:それは喜ばれたでしょうね。

藤村:アフリカなら、太陽熱で水を殺菌できるし、パラボラの反射板があれば煮炊きもできる。別に電気に頼らなくてもそこそこ便利な生活ができるんです。私は発明家として、非電化の方が、シンプルで、スローで、しかも楽しいよって伝えて、ハイテク文化の呪縛から解き放っていきたいと思っているんです。

高木:価値観の転換ですね。私がワークショップでしていることとよく似ています。私も、正解・不正解とか、こうあらねばならないとか、人間は進歩すべきとか、そういう不自然なトラワレを外すことから始めているんです。それにしても藤村先生は、私と同じ大学の3年先輩で、学生運動の最も盛んな時代、私と同じように国家権力と戦い、音楽が生活の一部で、30年前に生き方が変わって、…本当によく似ているなあと思います。そして、非電化工房の提案も、全面的に賛成です。大切なことは、ハイブリッド車や燃料電池ではないんです。ハイテクじゃなくローテクがすばらしいんだと、私も言いたいです。

藤村:実は、非電化掃除機も完成して、アースデイで発表するんです。「ホウキじゃ気がすまない。どうしても掃除機的なものがほしい」っていう人のために作りましたけどね。本当は、ホウキとチリトリの方が断然すばらしくてね(笑)。人間に必要な発明は、もうすでに出揃っている気がしています。

高木:同感です。ぜひオール非電化住宅を完成させて、多くの人にそのことを伝えてください。

藤村:毎月アトリエ見学会を開催していますので、ホームページから申し込んでください。

高木:今日は本当にありがとうございました。

■ 非電化工房
   http://www.hidenka.net/