地球は今

【地球は今...】生物多様性の恩恵

来年、2010年10月に名古屋で「生物多様性条約締約国会議(COP10)」が開催されます。
なぜ生物多様性条約が必要なのでしょう?私たちの生活にどんな関係があるのでしょうか?
「生態系と生物多様性の経済学 中間報告」(欧州委員会)という報告書が昨年、公表されました。この中間報告には、私たちの知っておくべきことがたくさん書かれています。この中間報告を元に生物多様性について見てみましょう。
 


●私たちが受ける生物多様性の恩恵

地球上には様々な種の生物が生きており、それぞれがお互いに影響し合って生きています。多くの生物種がいること、同じ生物種でも個体ごとに異なる遺伝子をもっていること、環境によって複雑で多様な生態系をつくっていることなど、地球が46億年という長い年月をかけ、多様で変化に富んだ自然生態系をつくりました。
この生物の多様性のおかげで、食料や水、木材などの供給、気候の調整や自然災害からの防御、さらにクスリの原料など、私たちの暮らしの全ては、地球の生態系から利益(サービス)を受けて成り立っています。ところが今その生態系が破壊されているのです。


●生態系破壊の現状  国際連合食糧農業機関(FAO)報告、国連ミレニアム報告など

地球の生態系の約6割が過去50年間に劣化しました。その根本原因は人間の影響です。人為的原因(人類学的)による種の絶滅の速度は、自然な絶滅速度の1000倍速いと推定されています。人口増加や土地利用の変化、経済活動の拡大、地球規模の気候変動などの要因により、今後さらに悪化することが予測されています。
・過去300年間に、地球上の森林地帯は約40%縮小。25カ国において森林が完全に消滅し、29カ国で90%以上が消滅。減少は今も加速しつつあります。
・1900年以降、世界は50%以上の湿地を失いました。特に20世紀後半以降は、熱帯地域や亜熱帯地域の湿地が他の土地利用へ転換され激減。
・多くのサンゴ礁は、熱帯雨林と同じように貴重で生物多様性に富んでいますが、その30%が漁業、汚染、病気、サンゴの白化により深刻な状況にあります。
・過去20年間で35%のマングローブが消滅しました。養殖場への転換、過剰伐採、暴風雨などにより80%も消滅した国もあります。


 ●私たちの食料にも影響が

・主要農作物の需要拡大に伴い、森林地帯が農地に変わり、自然生態系が改変されています。アマゾンの熱帯雨林は1967年ごろに比べて20%消失し、伐採された森林の70%が牧草地へと転換されています(FAO 2006)。
⇒ 広大な牧草地を必要とする肉の消費が、世界の森林破壊の大きな原因となっています
・世界の貧しい人々10億人以上が、動物性たんぱく質の摂取源を漁業に頼っています。しかし、野生の海洋漁業資源の4分の1がすでに過剰利用され枯渇が起こっています(FAO 2007)。

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あまり知られていない、生物多様性と現代の保健医療のつながり

・かぜ薬などの、薬の約半数に自然の中にある成分が使われている
・現在使用可能な抗がん剤の42%に自然の中にある成分が使われている
・中国では、5,000種以上の植物が漢方薬として治療目的で使われている
・世界人口の4分の3が伝統的な自然の薬に頼っている
・アメリカで遺伝子資源に由来する薬の売上げは最大1,500億ドル(約16兆円)

薬用植物を含む世界の植物種のうち70%が絶滅の危機にあり、
私たちは、未知の病気に対する特効薬を今、失っている可能性も考えられるのです
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●「GDP増大=幸せ」という考え方は根本的なあやまり

私たちがGDPを豊かさや政治経済活動の基準としている限り、人類にとって必要な生物多様性を守ることは不可能といえます。
発展途上国は、数十億人が衣食住など基本的ニーズを豊かな生態系に依存しているため、生物多様性が失われることで甚大な被害を被ります。もちろん先進国も大きな影響を受けます。しかし、その損失は、GDPの指標としては表れません。例えばハリケーンカトリーナやアジアの津波といった大災害が発生した後には、建物や農地の破壊、生物の消失など、人々の生活は貧しくなりましたが、救助や復興のため逆にGDPは増大しました。GDPは、人類にとって必要な生物多様性を守ることとは関係のない指標と言えます。

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生態系の価値(マダガスカルのマソアラ国立公園が破壊されなかった場合に、
これだけの価値を生み出すという試算)

・医療用(生薬や製薬になる可能性のある多様な植物の価値) : 約160万ドル
・土壌浸食を防ぐ                               : 約 40万ドル
・CO2を吸収、気候変動による影響の軽減             : 約1億500万ドル
・希少生物を観察するための観光資源                : 約520万ドル
・近隣に住む人の衣食住などに必要なものを提供            : 約430万ドル

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●GDPを越えて

進歩、豊かさ、福祉とは何かを定量化、政治経済の意思決定に反映することを目的に、2007年11月国際会議「GDPを越えて」(欧州委員会、ローマクラブなど)が開催されました。
 ・GDPでは、森林伐採、児童労働などの問題を評価できない
 ・GDP以外の政策決定に利用する環境指標などを開発し、運用していく予定

日本でもこうした考え方を取り入れていく必要があります。
来年、名古屋で開催される「生物多様性条約締約国会議」について、
私たち一人ひとりが関心をもつようにしましょう。



※ 引用文献:
「生態系と生物多様性の経済学 中間報告」日本語版 (財)日本生態系協会
http://www.ecosys.or.jp/eco-japan/teeb/teeb_page.html