スペシャル対談

2009年9月号 (有)クロフネカンパニー代表取締役 中村文昭さん

三重県伊勢市でクロフネカンパニーを経営する中村文昭さんは、『お金でなく、人のご縁ででっかく生きろ ! 』『人生の「師匠」をつくれ ! 』『非常識力』などの著書や、自分の経験を生かした講演で大人気です。北海道で若者たちが農業に従事する「耕せ・にっぽん」も話題です。


■ 頼まれごとは試されごと

高木:久しぶりだね。私たちの出会いは、2006年のてんつくマンのイベントでしたね。

中村:そうです。名古屋のてんつく映画の3周年感謝祭にゲストで招かれて、その時が最初です。

高木:ところで、中村さんの本業は何ですか。

中村「クロフネカンパニー」というレストランを三重県の伊勢でやっていて、それが本業なんですが、今は、講演の時間が大きなウエイトを占めています。

高木:年間300回と聞いたけれど。

中村:そうなんです。僕の若いときの師匠の口癖に「頼まれごとは試されごと」というのがありまして、できないことはそもそも頼まれないのだから、面倒くさいと思わずに、「相手の予測を上回る結果を出して喜ばせてやれ」と育てられました。今から11年前に、大阪の経営者の皆さんから講演を頼まれたときも「やったことないし、恥ずかしいし、経営者の前で俺みたいな若造が…」と思ったんです。でも師匠に「おまえはできない理由を並べ立てる天才や」とよく叱られたことを思い出しました。「断ってはあかん。喜ばす気持ちで引き受けよう」と、40人を前に話したのが講演の始まりで、そのときの録音カセットがダビングされて出回って、見ず知らずの人から電話が掛かってくるようになったんです。「中村さんは、頼まれごとは断らないんですよね」って。そこから講演を引き受けるようになって、今に至っています。

■ 感動が最高の営業マン

高木:
プロフィールには高校卒業してすぐに上京とあったけど、どんな高校生だったんですか?

中村:謹慎処分ばっかりくらっている3年間でした。お調子モノで隣の大学へ女子更衣室覗きに行ったり、しょうもないことばかりしていましたし、勉強は全然やらなかったですね。「できすぎ君」と呼ばれる優秀な兄貴がいて、僕のことは近所のおばちゃんが「残念な弟」って言ってたくらいです。

高木:その残念な人が、今、みんなに勇気と希望を与えているなんて感動的だね。

中村:いや、もうまさかですよ。謹慎処分ばっかりくらっていたのに講師をしたり、読書感想文も書いたことなかったのに本を出したり…。

高木:クロフネの経営者でもあるしね。ところで、クロフネはどんなレストランですか?

中村:宣伝広告費をかけずに、お客さんがしゃべらずにはいられないような感動を提供しようというレストランです。レストランウエディングも「お金がないからレストランでやるのかな」と思って来店した人が、「こんなステキな結婚式があるんだ ! 」と感動してくれたら、当然人に話しますよね。すると最高の営業マンが毎日生まれることになります。広告費はいらないから、新郎新婦さんやお客さんが喜んでくれることに費用を使えるんです。

高木:すごいね。店舗を増やす予定は ?

中村:東京や大阪に出店しては…というお話もいただくんですが、大きい会社を作りたいと思ったことはないんです。店舗が増えてマニュアルで人を動かすようになりたくないんです。

高木:なるほど。その方針は変えない方がいいね。

■ スイッチを、オフからオンへ

高木:最後は「耕せ・にっぽん」について聞かせてください。農地は買えたの、借りているの ?

中村:今は借りています。今年、農業生産法人を取りましたので、来年は買います。

高木:それはよかった ! 農地は余っているし、自給率は低いし、みんなで耕せばいいのに、日本ではまだ、農地は簡単には買えない。ここがややこしいね。現在、農業従事者は約300万人で6割が高齢者。そして農業では300万人分の人手が足りないと言われている。一方で日本全体の余剰労働人口も300万人なんだから、うまくやれば、農業は再生できるはずなんだ。仮に300万人が農業を始めるために1人100万円助成すると3兆円、200万円なら6兆円。現在の公共事業のバラまきを考えたら、わずかなお金なのにね。ところで「耕せ・にっぽん」は今、何人くらい ?

中村:住み込みで13人です。

高木:すごいね。どんな暮らしをしているの ?

中村:不登校や引きこもり、リストカッター、ニートと言われた子たちが集まっています。そこで一番大きいのは、一緒に住み込みで食事の世話をしてくれているまりちゃんの存在です。まりちゃんは生まれながらの先天性脳性まひで重度の身体障がい者なんです。言葉もうまくしゃべれないし、体も不自由なんですが、毎回2升のご飯を炊いて、おいしいものを作ってくれるんです。まりちゃんが一生懸命にご飯を作ってくれている姿を見たら、誰もわがままを言わなくなります。ご飯も一粒も残さないし、好き嫌いも言いません。自分たちでルールを作って早起きして、掃除して、畑で汗を流して、夜は全員で反省会ですよ。「家では朝なかなか起きないんです」とか「うちの子は少食で~」とか、親はいろいろ言いますけれど、そんなの全部ウソですよ。あの姿をビデオに撮って送ってあげたいくらいですよ。どんなにキビキビ働いているか、どんなにモリモリ食べているか。

高木:それは本当にすばらしいなあ。聞いているだけで感動するよ。

中村:僕も「人間ってすごい。おまえらすごい」って思います。この子たちを「情熱大陸」でも「NHKスペシャル」でも何でもいいから取り上げてほしいって思うんです。全国の引きこもっている子たちに「過去には辛いことがいっぱいあったけど、農業でこんなに楽しくやってるよ。僕たち変われたんだよ」って、メッセージを発信できると思うんです。「耕せ・にっぽん」は、自分たちが食べるためにやっているんじゃなくて、にっぽんを元気にするためにやっているんです。この社会でスイッチがオフになってしまった人も、スイッチオンになるようにと !

高木:ああ、その気持ち、よくわかるよ。私が望んでいることもまさにそこなんだ。オフからオンへ ! 辛い人生から楽しい人生へ ! それは、映画や本にまとめたりしてもいいね。応援する。今日は本当に元気が出る話をありがとう。ぜひまた会いましょう。

■リビングカフェ クロフネ
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