2009年10月号 (社)日本青年会議所 第58代会頭 安里繁信さん
安里(あさと)さんは、沖縄出身の起業家です。父親の経営する運送業からスタートして、不動産業、物流サービス業、総合広告業、総合流通商社、 自動車関連事業、映像・番組企画制作、マーケティングソリューションなどのグループ企業を抱えて躍進中です。
■ 沖縄で実感する温暖化 ■
高木:今日は来ていただいてありがとう。今は、自分の仕事と青年会議所の会頭としての役割と、どちらにウエイトが置かれているのでしょうか。
安里:今は公職優先です。地元沖縄には月に2、3日帰れるかどうか、というところです。8月は、各国の青年会議所会頭が集まる国際会議に出席するために、ジュネーブに行きました。ところが着いたとたんに盲腸が破裂してしまって…。私は「病は気から」と言ってきた人間ですが、気持ちはいくらはっきりしていても、あの痛みだけはどうにもなりませんでした。
高木:破裂では、手術ですね…。
安里:はい。切って、臓器をきれいに掃除して、抗生物質をもらって、何とか命拾いをしました。
高木:それは何よりでした。では、環境のお話をしましょう。安里さんが環境の問題を考えるようになったきっかけは何ですか。
安里:私は、沖縄で生まれ育っていますから、海遊びが大好きなんです。一時は、海遊びをするために仕事をしていたくらいに。ところが、大好きな海が汚くなっていくプロセスも30年近く見てきました。この頃では、沖縄本島に台風も来なくなったんですよ。
高木:そうでしたか。では、台風はどこに行ったのですか?
安里:温暖化の影響だと思うのですが、発生する場所が変わったのです。沖縄の南東部で発生してそのまま四国に向かうコースと、フィリピン辺りで発生して、台湾、石垣島、九州に行くコースとに分かれて、沖縄本島を避けていくようになりました。台風が来ないのは、嬉しい反面、砂浜がなくなってきていますから危機感も痛切に感じています。
■ サンゴを植えています ■
高木:では、安里さんの環境への取り組みや方向性について教えてもらえますか。
安里:昨年、日本青年会議所の人間力大賞でグランプリを取った金城浩二という男性がいます。36歳、めちゃくちゃかっこいい男で、サンゴを植えています。
「自分たちは『昔の海はもっときれいだった』と爺さんたちに聞かされているけれど、自分の子どもたちには『昔の海はもっと汚かった。でも今はきれいだろう?』と誇れるような海を作りたい」と言うんです。
人間の存在は環境に対して悪であるけれど、それを全て否定してしまっては、今の社会には受け入れられない。そこで、自分にできることとして、サンゴの価値を語りながら一生懸命植えることを始めたんです。その姿に共感を覚えた人たちが全国から集まって、大手の流通企業もお金を出してくれて、「みんなで沖縄の海にサンゴを植えよう」プロジェクトが広がっています。私も時間を作ってはそのプロジェクトに参加しています。
我々企業人は、結局ほとんどが自然破壊に加担しています。私の会社もトラックを走らせていますが、それを環境破壊だからといってやめたら、社員たちはどうやって食べていくのかという話になります。だからといって諦めるのではなく、リアルな現状も肯定しながらできることを始めて、物事を一つずつ正していくこと。それが一日でも半年でも、地球の寿命を延ばすことになると思っています。
高木:これ以上温暖化が進むと、異常気象、豪雨や干ばつで農業が大打撃を受ける。食糧を輸入に依存している日本はどうなるだろう・・・。多くの人に、こうした現実をわかってもらいたい。そして、現状の豊かな生活、便利快適な生活をこのまま続けていいんだろうかと、真剣に考えてもらいたい。世の中には、「知っているけど、現実問題はね…」という人が多いけれど、青年会議所の皆さんには「知っています。だから我々はこんなアクションをしています」と言ってほしいんです。経営者ならば、できることがたくさんあるでしょう。
■ 青年だからできるアクションを ■
安里:私は、電気に税金をかけてほしいと思っています。受益者負担の法則を、より強固にしていくことで行動も変わる。金持ちが電気をたくさん使っているなら、その分、税金を多く負担しなければならないし、少ししか電気を使っていない人も使った分は払う。そしてその税金は、自然を守ることに使う。この考えはいかがでしょうか。
高木:そうですね。必要なことだと思います。電気も、日本とドイツでは仕組みが全然違います。風力発電などの市民発電は、日本の電力会社は売電価格の半額で買い取り、上限あり。ドイツなら売電価格の3倍で買い取り、上限なし。日本では、一般住宅よりも大企業の電気料金が安く設定されているけれど、ドイツでは企業の方が高い。この日本の仕組みを変えなければいけない。
安里:同感です。カーボンオフセットはどうですか。
高木:カーボンオフセットは、本来、排出された二酸化炭素の量を算出して、それをオフセット(相殺)するために、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業を実施するのが趣旨ですが、実際は排出権取引のビジネスが先行しています。1000万トンで200億円くらいが相場で、実際に日本はポーランドやハンガリーから1000万トン買っています。ところが1000万トンを減らすためには、自動車産業なら6兆円の売上減、家電産業なら5兆円の売上減。それがたった200億円で済んでしまう。業界は生産や販売を続け、結果としてCO2が増えます。一方、200億円が渡った国では、環境事業を実施することでCO2が増える場合もある。排出権を売った国も、買った国も、双方CO2を増やす。排出権の売買は、CO2を減らすどころか、増やす場合が多いのです。これは、国家レベルの詐欺だと思います。本気で減らすなら、マインドセットから変えなくちゃいけない。青年会議所は世界ネットワークで、しかも構成しているのは青年たち。環境問題に対するアクションを、ぜひ長期的な計画を持って動いてください。
安里:アクションには、スローガンだけではなく具体的な成果が求められます。そこが課題なんです。
高木:具体的に数字が欲しいなら、ストッコがお勧めです。会社としてどれだけCO2を減らせるか、青年会議所4万社で参加してみたらどうでしょう。
安里:資料をいただけますか。リアリティのあることならぜひ取り組みたいです。
高木:ストッコは近々、バージョンアップしますので、ぜひ参加してください。期待しています。
■ 社団法人 日本青年会議所
http://www.jaycee.or.jp/
■ シンバホールディングス株式会社
http://symba.jp/