スペシャル対談

2009年12月号 環境問題実践家 鈴木 武さん

今回の対談は、高木代表と同じく「松下電器」出身の環境プランナー鈴木武さん。松下通信工業 (以下、松下通信と表記) 在職中に、社内のゴミを99%資源化に成功し、さらに松下グループ全体のゴミの98%資源化を推進しました。退職後は、横浜市や築地市場のゴミ削減運動にも関わる「元気おじさん」です。


■ 人生のスイッチが切り替わる ■

高木:こんばんは。まずは私たちの出会いから、お願いします。何回くらいお会いしたでしょうね。

鈴木:100回以上です。高木さんにお会いして、私の人生のスイッチが切り替わってしまいました。私が強烈な印象として覚えている出会いは1993年12月2日です。その前日に環境部署に配属になったばかりでした。「大阪に環境に熱心な人がいる」と耳にしておりましたので、お電話を差し上げ、五反田でお目にかかりました。私のそれまで会った中で最も強烈な印象でした。キリスト様かお釈迦様か、それくらいのショックを受けました。そして翌年の12月3日、高木さんの講演で、『地球の秘密』の坪田愛華ちゃんのお話を聴きまして、ハートを射抜かれたんです。高木さんとの出会い、坪田愛華ちゃんとの出会い、この2つが私の原点です。その時、「美しい地球を子どもたちに」という思いを持って、大きなチャレンジをしようと、スイッチが入りました。それ以来、思いは一切ブレていないんです。

高木:そこから、社内のゴミゼロに取り組まれたわけですね。

鈴木:そうです。当時、世の中では、廃棄物は焼却か埋め立てでした。「生産が増えれば、廃棄物も増え、処理費用も増えるのが当たり前」という常識があり、削減の動きはありませんでした。そこで、それにチャレンジしようとして1995年、上司に「廃棄物を担当させてほしい」とお願いに行ったんです。大会社なので担当窓口を変えるというのは大変なことです。特にゴミ処理は莫大なお金が絡む業務ですから、正直、危険な取り組みでもありました。


■ 社内ゴミを99%資源化へ ■

高木:ゴミ問題は、業者の利権が絡み、談合、接待、癒着など、いろいろ問題があって危険もありますが、どのようにして問題をクリアしたのですか。

鈴木:それが、高木さんの「非対立」がキーワードでした。ゴミ問題は利権が絡みますから、危険な業務です。相手と対立すると争いになりますから、相手と共に問題解決を考えていきました。「ゴミは資源である」と、みんなの意識を変えていくことをやりました。

高木:そうそう。そのことは、鈴木さんの本で読みましたよ。ゴミ箱を床ではなく机の上に置くとか、ゴミ置き場を「資源置き場」にして、花を飾ってきれいにするとか、おもしろいアイデアがたくさんありましたね。

鈴木:ありがとうございます。私には権限も予算もありませんから、少しずつ思いついたことを実践していったら、結果がついてきたんです。ゴミ箱も置く場所を変えてみたら、使う人の気持ちが変わることがわかりました。名刺も、床に落ちていたら紙くず、机の上にあったら名刺、壁に飾ってあったら大切な方に頂戴した「お名刺」になります。ゴミ箱も机の上に置くことによって、「大切に入れる」「資源として戻す」という意識改革につながることを学びました。

高木:その結果、社内のゴミはどれくらい資源化したのですか。

鈴木:99%です。

高木:まさか! 本当ですか! どうやって?

鈴木:ゴミを細かく分別して、紙は製紙会社、鉄は製鉄所というように再資源化を進めることで、ゴミとして直接、焼却や埋め立てに回すものは99%なくなりました。テレビや新聞にも取り上げられるようになり、全国から数百の企業や学校関係者が見学に訪れるようになりました。1998年には、全松下グループ本社の社長が視察に来られることになって、松下通信は大騒ぎになりましたよ。そして翌年1月の全松下グループの経営方針発表会で、松下通信のゴミゼロの取り組みが取り上げられ、「ゴミゼロ」が全松下グループに広がり、私が退社する2002年には98%の資源化が達成できました。うれしいことに、ゴミゼロの取り組みは電器業界にも波及していきました。高木さんに点けられた火が奇跡を起こしたんです。


■ 『環境立国』日本を目指そう ■

高木:そう言ってもらうのは、とてもうれしいです。では、退職後の活動についても話してください。

鈴木:2002年の3月31日で定年退職しました。退職後はゆっくりするはずが、ちょうどその日は中田宏さんが横浜市長に当選した日。中田市長から「横浜の増え続けるゴミを30%減らしたい」というお話をいただき、お手伝いさせてもらうことになりました。公式に横浜市廃棄物減量化・資源化等推進審議会委員という長い名前の委員になりました。環境部の幹部のみなさんに講演をしたり、削減のアイデア集を提出したりしました。

高木:横浜市のG30(ゴミ30%削減)を達成できたのは、やはり分別の徹底ですか。

鈴木:そうです。それまで全く分別をしていなかった横浜市が、「15分別」をしたことと、ゴミ受け入れの適正化、ルールの厳守を行ったことですね。最初の4年で目標の30%を達成し、今では40%を超えました。

高木:それはすごい。では、いまも横浜で活動されているのですか。

鈴木:はい、続けています。それ以外に、退職後に、私の住んでいる目黒区で清掃活動を始めました。最初の年は週に1回50m、翌年は週に2回100mに増やして、現在は毎日1000mを清掃しています。今、清掃と言いましたが、本当は資源回収活動なんです。また築地でも美化活動のお手伝いや講演をさせてもらっています。

高木:じゃあ、いまもフル回転ですね。「ゴミは資源」という鈴木さんの考え方なら、CO2という廃棄物も資源になるアイデアが出るかもしれませんね。

鈴木:これから、日本の叡智は環境のために使い、環境立国として立ち上がるべきだと思っています。日本にはソフトもハードもあるんです。日本の経済成長を背負って立ったおじさんたちもくすぶっていないで、そのパワーを発揮してほしいと思います。私は彼らに火をつけて歩く「元気おじさん」になります。

高木:それはいい ! ぜひ火をつけて回ってください。今日は楽しいお話をありがとうございました。


『一日一センチの改革』 ゴミゼロへの挑戦

 鈴木武 著
 定価:1,575円(税込)
 致知出版社









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