2010年1月号 ナチュラル・ステップ・ジャパン代表 高見幸子さん
スウェーデン生まれの環境教育団体「ナチュラル・ステップ」は、持続可能な社会を維持する「4つのシステム条件」を提示し、環境対策プログラムのコンサルティングを世界規模で実施しています。今回は、高見幸子さんを迎え、北欧の先進的な環境意識と取り組みを聞きました。
■ 持続可能な未来が明確に ■
高木:こんにちは。まずはナチュラル・ステップ(以下NSと表記)について教えてもらえますか。
高見:NSは、20年前にスウェーデンの小児ガンのお医者さんが始めた環境団体で、世界11ヵ国にオフィスがあり、日本では10年前からです。最初の活動は1989年、スウェーデンの全世帯に、環境はどのように考えていくべきかという冊子とカセットテープを配ったことです。
高木:全世帯に?
高見:はい。スウェーデンの人口は900万人くらいですから、ちょうど大阪府と同じくらいですね。
高木:それを3人で割ると300万世帯くらいかな。それでも全世帯とはすばらしい!スウェーデンの環境意識の高さはどうして生まれたのでしょう。
高見:スウェーデンでは、1972年に地球サミットが開催されました。その頃は酸性雨がひどく、環境はグローバルな問題で、自分の国だけでは解決できないことを理解したんです。その後、1988年にアザラシの大量死が起きて、国民の環境への関心が一気に高まり、環境党が国会に入りました。
高木:環境党は今でも?
高見:若い人にすごく人気がありまして、今年のEU議会の議員選挙のときは10%とっていました。
高木:NSの主な活動は、シンクタンクやコンサルタントと考えればいいでしょうか。
高見:その両方です。持続可能な社会の定義を作って、その原則から離反しないように企業は経営を行い、自治体はプランを立てる、そのサポートをしています。スウェーデンの工科大学にはNSのマスターコースがあって、そこで持続可能な社会について科学者が研究しているので、シンクタンク的な役割もあります。その研究結果を持って自治体や企業が実際に使っていくにはどうしたらいいかアドバイスしていきますので、コンサルタント的にも活動しています。考え方としては、バックキャスティングを使っています。理想とする持続可能な社会の条件を定義して、そこへ向かうには何をすべきかを、未来から現在を振り返りながら組み立てていく手法です。
高木:なるほど。私はそれをチャートと呼んでいます。目的(ゴール)、目標(ルート)、現状の課題(タスク)の3つです。最終的な目的が明確なら、何をすべきか迷いませんね。同じ考え方です。
■ 絶望から希望の活動へ ■
高木:ところで、高見さんが環境問題に関わるようになった原点を教えてもらえますか。
高見:私の原点はアフリカ象です。1974年にスウェーデン人と結婚して向こうで暮らし始めたのですが、1985年にアフリカ象が絶滅に瀕しているというニュースを読みました。スウェーデンのメディアは非常に強烈で、生々しい写真を載せるんです。象牙を取るために殺されている象の姿を見て、これは何も知らずに象牙のハンコを使っている日本人に知らせなくちゃと思いました。友人たちと「アフリカ象を守る会」を立ち上げました。募金活動をして、親をなくした子象を育てているケニアの団体に寄付することを始めたんです。ところが、やればやるほど絶望を感じるんです。貧富の差がなくならないことには問題は解決しない。悶々としているときにNSに出会いました。持続可能性の問題の全てを解決しないことには、アフリカ象も守れないんだとわかりました。
高木:まったく同感です。根本を解決しないことには何も解決しません。私もそれに気付いて、この活動を始めたのです。
高見:そうでしたか。同じですね。NSは特に企業に向けて活動していたので、広めたいと思いました。環境に一番負荷を与えているのが企業なら、その企業に変わってもらいたいと思ったんです。象を守る会のときは絶望していた私が、絶望しなくなったのです。将来あるべき姿、動物も人間も調和して暮らせる未来が自分の中にできたからです。何をしてもダメだというなら絶望しますが、こうすれば持続可能な未来が作れるとわかっているので、希望ができたんです。あとはどれだけ早く社会を変えられるかということだけです。社会を変えるということで、一番大きな問題は政治家に持続可能な社会の構築のためのリーダーシップがないことです。
■ 市民のネットワーク作りを ■
高木:日本の現在の政治状況はご存知ですか。
高見:半世紀ぶりに政権交代が起きたことはよかったと思います。でも、ヨーロッパと日本では差があります。ヨーロッパでは、よりよい政治家を選び、政治家にリーダーシップをとってもらうことで、社会が大きく変わることを知っているので、常に政治家に働きかけています。これを日本人もやっていくべきだと思います。技術もあるし、科学者や高木さんも、これからどうしたらいいかを明確におっしゃっているわけですから、あとはリーダーシップがとれる人を私たちが選んでいくだけです。
高木:日本では、まだ環境政策がチグハグです。高速道路の無料化、ガソリンの暫定税率廃止、エコカー減税、エコ家電や太陽光発電の助成金など、スウェーデンから見たらおかしな政策でしょう?
高見:そうですね。日本の場合、電力会社が保護されているように思います。一番効果的な対策は、電力とガス会社が再生可能なエネルギーに切り替えることです。電力会社が燃料を変えれば大きな効果があります。ソーラーも個人がつける必要はないと思います。電力会社がやるべきことを個人に負担させるのはおかしいです。スウェーデンで私は、再生可能なエネルギー源しか使っていない会社から風力発電の電力を買っているのですが、もし電力が足りなくなれば、風車を建てるのは電力会社の仕事です。
高木:それは非常に大事な考え方ですね。
高見:スウェーデンでは、エココミューンといって、それらのなかに化石燃料ゼロを目指している自治体があります。エココミューンは、全自治体290のうち70あります。化石燃料ゼロを宣言したエココミューンでは、暖房は木質バイオマス、公共交通は無料、車両燃料はエタノール、将来的には化石燃料をゼロにするというのです。
高木:70なら、全体の4分の1。それだけの自治体が、環境に熱心なのはすばらしい!
高見:ですから、日本もあきらめないでほしいんです。状況は決してよくなってはいません。リーダーが持続可能を理解していないなら、理解している人を選びましょう。政治家や企業で、大きな決定権を持っている人たちが変わるように、市民がネットワークを組み、一緒に発言していきましょう。
高木:そうですね。大きな影響力が持てるように、一緒に動きましょう。今日はありがとうございました。
■ナチュラル・ステップ
http://www.naturalstep.org/ja/japan