スペシャル対談

2010年2月号 ラリグラス・ジャパン代表 長谷川まり子さん

紀行ライターとして活躍していた長谷川まり子さんは、取材を通してインドとネパールの越境人身売買問題に直面。この問題を放ってはおけないと、国際協力NGOラリグラス・ジャパンに携わり、現地に経済支援を続けています。『地球村』とも、パートナーシップ関係を結ぶことになりました。


■ 見過ごせない人身売買問題

高木:こんにちは。出会いは昨年9月でしたね。あなたの著書『少女売買』を読んで、協働できるのではと、連絡を取らせていただきました。

長谷川:ありがとうございます。お目にかかってお話をさせていただき、私どもが支援しているインドのリカバリーセンターへご支援いただくことになって、とても感謝しています。

高木:それでは、あなたが活動を始めたきっかけを教えてもらえますか。

長谷川:現在、私は主にノンフィクションを執筆していますが、以前は紀行ライターとして活動していました。旅行好きが高じて、主にインドやネパール、中国、東南アジアの紀行文を書いていたのです。それでインドに通うようになって、貧困問題をいろいろ知っていくんです。赤線地帯に、明らかにインド人じゃない女の子がいる…この子たちはどこから来たんだろう…と調べていくうちに、ネパールからの越境人身売買問題があることがわかって、それからネパールへ取材に行きました。すると、見過ごすわけにはいかない状況に出会い、この問題を記事に書いて終わることなんかできない…。それで動き始めて今に至っています。

高木:なるほど。ライターとしての関心や範疇では収まらなくなったのですね。

長谷川:そうです。もう取材ができなくなっていきました。女の子たちに質問もできないし、写真も撮れなくなりました。

高木:その気持ちわかります。それで日本からの支援を、現地に届ける活動を始めたわけですね。ラリグラス・ジャパンは、あなたが作ったのですか。

長谷川:いいえ。母体となる団体があったんです。元々は、ネパールの識字教育を支援している団体でした。そこへ私が、現地で人身売買の問題に取り組んでいる団体マイティネパール(以下マイティと表記)を紹介して、その支援活動を行うようになって、2000年に前任者から代表を引き継ぎました。

■ 誘拐されて売られる少女たち

高木:マイティはネパールの団体なんですね ?

長谷川:そうです。私が人身売買の問題に出会ったのは、96年にマイティを訪問したことがきっかけです。代表者はアヌラダさんという女性で、93年に設立されました。最初は、自宅に売春宿から救出された少女たちを保護していたんです。というのも、救出されて帰ってきても、娼婦として働かされていたという事実と、HIV感染者(少女たちの約7割が感染)という二重の差別があって、田舎に帰ることができないんです。また、売られたときあまりに幼すぎて、自分のふるさとがわからない子もいました。

高木:保護されていたのは何歳くらいの子ですか。

長谷川:皆10代です。最年少は13歳、彼女は7歳で売られた子でした。その子もHIVに感染していました。「彼女たちのふるさとを見ないで、どんな記事を書くつもりなの」といわれて、人身売買のメッカといわれる山間部の貧農地帯に行きました。そこでは、女の子がいる家は、ほとんど誰もが失踪しているんです。みんな誘拐なんです。

高木:それじゃ、人身売買のメッカじゃなくて、誘拐のメッカじゃありませんか!

長谷川:その通りです。親がお金をもらっているわけじゃなくて、連れていかれてしまうんです。親は子どもが帰ってこないのにどうしていいかわからず、警察にも届けず、神隠しだと思っているんです。そこでマイティは、人身売買という犯罪があること、誰かに声をかけられても付いていってはいけないこと、そういった啓蒙活動を始めたんです。あとは保護された少女たちが自立していけるように職業訓練。それとHIV感染の女性たちのためにホスピスの運営。大きく分けるとこの3つの活動をしています。

■ 日本人ができる経済支援を

高木:あなたが支援しているもう一つの団体、インドのレスキューファンデーション(以下レスキューと表記)もマイティと同じような活動ですか?

長谷川:レスキューは、拠点はムンバイにあって、マイティとも連携しています。94年の設立で、代表はトリベニさんという女性。彼女は元ジャーナリストで、人身売買の被害者がインドの売春宿で働かされている事実を記事にしました。それを彼女の夫が読んで、救出活動を始めたんです。ところが、夫が2005年に交通事故で亡くなってしまい、彼女は夫の遺志を継ぎ、救出活動を始めました。マイティと同じ活動もしているんですけれど、特に力を入れているのは売春宿からの救出です。

高木:たまたまBSで、レスキューのドキュメンタリー番組を見ました。ぜひここを支援したいと思っていたら、その番組の取材ディレクターが長谷川さんでしたね。

長谷川:はい、活字よりも映像の方が波及効果が高いので、この番組を企画制作させていただきました。救出活動には、本当にお金がかかります。売春宿に客を装って入ったり、ポン引きから情報を得たり、警察に賄賂を渡したり、領収書がもらえないお金も必要です。それとインドには、HIV感染者のためのホスピスがなかったので、昨年4月にリカバリーセンターを建てました。ここの運営費が年間500万円くらいかかります。私たちは「ゆうちょボランティア貯金」に申請していますが足りません。ぜひ、これにご支援をお願いします。

高木:わかりました。最後にメッセージをどうぞ。

長谷川:これだけ貨幣価値の違う日本にいて、私たちができる最も効果的な方法は、経済支援だと思います。支援によってリカバリーセンターがうまく機能していけば、素晴らしい成功モデルになります。抗HIV薬の提供もスタートして効果が現れてきました。入所している女の子たちには、心の支えや生きがいが必要なので、ビーズ製品を作ってもらっています。それを私たちが買い上げて、日本で販売しています。委託販売やイベントでの販売になりますが、見かけたらぜひ購入ください。

高木:わかりました。経済的な支援ですね。がっちり手を組んでいきましょう。

■ラリグラス・ジャパン
http://www.laligurans.org

■『少女売買』 長谷川まり子著  光文社刊
年間7千人ものネパール人少女が、人身売買され、その半数以上がHIVに感染し、死と向かい合っている…筆者が性被害者たちと共に歩んだ10年間の全記録。