【巻頭言】 「アバター」
話題の映画『アバター』を観ました。一言でいえば、よかった。おすすめです。
3D(立体映像)で、吹き替えも字幕もあります。
「アバター」というのは「自分の分身」という意味です。
この映画を観たとき、『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』と似ていると思いました。
しかし、もっと似ていると思ったのは、『断絶への航海』(早川書店)でした。この本は、以前、『地球村』の推薦図書として紹介していました。私の一番好きな本(ベスト10)の1冊です。
今回は、映画『アバター』ではなく、『断絶への航海』について紹介したいと思います。
『断絶への航海』は、未来社会について見事に描いています。この本は1982年刊(日本語訳は1984年刊)。著者はジェイムズ・P・ホーガン。
20××年、人類は滅亡寸前の地球から光速宇宙船(3万人)で脱出し、居住可能な星を探して宇宙を放浪する。放浪の果てに、居住可能な惑星ケイロンにたどり着く。
その星には、高い文明世界があった。はるか昔、実験的に飛び立った人類が先に到着し、すでに理想の社会、『地球村』を実現していたのだった。
ケイロンにはお金がなかった。
その結果、所有がなかった。ビジネスは存在しなかった。
その結果、みんなが平等であり、上下はなかった。長と名のつく人はいなかった。
だから支配も、命令もなかった。みんなに必要なことを、みんなで話し合い、みんなで協力して実現した。みんなが家族のようだったが、みんなが自立しているから、みんなが自分の責任で自主的に動いていた。
その結果、ケイロンには、地球のような法律や憲法がなかった。警察も刑務所も裁判所も必要がなかった。地球のような学校も、教育も、試験も、通知簿もなかった。
人が人を教えるということも、人が人を評価することも、人が人を裁くこともなかった。
ここまでで、この世界のことがイメージできましたか。
この世界をイメージすることは、未来のビジョンには、とても大切なことです。
「それは夢物語、ありえない」と思ったとしたら、なぜ、そう思うのか。
それこそが、現代の社会の解決すべき問題点なのではないだろうか。
この小説は、そのことを気付かせてくれます。
ケイロンの世界にやってきた地球人たちは、「お金のいらない国」に迷い込んだ現代人のように、はじめはショックを受け、戸惑い、驚きます。
スーパーには何でも豊富に置いてあるが、すべて無料。
食べ物も、洋服も、すべて無料。
ケイロン人は、突然やってきた3万人もの地球人のために、立派な住宅を提供してくれたがそれもすべて無料。それに対する支払いも労働も、なにも請求しなかった。
次のような会話が何度も交わされます。
地球人「本当に、ただですか」「何も支払わなくていいんですか」
ケイロン人「もちろん」
地球人「なぜ、そんなことが可能なんですか」
ケイロン人「???」
地球人「働かなくてもいいんですか」
ケイロン人「働きたくなければ、それでもいいよ。でも、それで満足できますか」
地球人「???」
地球人「どうして軍隊がないのですか」
ケイロン人「なぜ、要るのですか」
地球人「自分たちを守るために」
ケイロン人「何から守るのですか」
地球人「???」
地球人「どうして政府がないのですか」
ケイロン人「どうして政府がいるのですか」
地球人「社会秩序を守るために」
ケイロン人「何から守るのですか」
地球人「???」
ケイロンでは、「他人より豊かになろう」という必要がない。
みんなの幸せを妨げるものに対しては、みんなで協力して問題を解決する。
その世界に馴れたころ、ケイロンの世界を乗っ取ろうとする地球人グループが現れた。
地球人には軍隊もあるし、武器もある。それを統括する政府もある。
ケイロン人には高度な文明、科学力はあるが、軍隊も政府もない。
組織も命令系統もない。戦えば勝てる可能性は十分にある。
移民した地球人の中で議論が始まった。せっかく友好的で、理想的な社会を攻撃し、乗っ取り、支配することに多くの地球人は反対だったが、地球人政府は「攻撃」の決定をした。
戦うことを知らないケイロン人に、地球人の軍隊が襲いかかった。
はじめは、攻撃は成功し、破壊し、征服していった。
しかし・・・・戦況は大きく変わり始める。
軍隊もない、組織もない、命令系統もないケイロン人が、本気で戦い始めると・・・(続く)
このあと、どうなると思いますか。
関心のある方は、ぜひ、本をお読みください。