スペシャル対談

2010年5月号 国連UNHCR協会事務局長  高嶋由美子さん

今年1月から、国連UNHCR協会の事務局長に就任した高嶋由美子さんは、英エセックス大学政治学科を卒業、学習院大学大学院在学中に難民支援キャンプを経験し、2002年より正式にUNHCR職員に。この10年間は難民支援のフィールドで働いてきました。

 


■ 日本と世界は教育が違う

高木:こんにちは。事務局長就任おめでとうございます。経歴を拝見しますと、イギリスと日本と両方の大学を出ているんですね。

高嶋:実は、高校もアメリカと日本の両方出ています。アメリカの高校へ行ったとき、一番衝撃的だったのは、教わる歴史の内容が違うということです。特にパールハーバーなどはまるで違っていて・・・。国によってこんなにも価値観が違うことに驚きました。高校を出たとき、「日本とアメリカを見たので、次はヨーロッパが見たい」と親にわがままを言いまして、イギリスの大学に行かせてもらいました。

高木:なるほど、国によって、特に歴史は大きく異なるでしょうね。イギリスはどうでしたか。

高嶋:一番驚いたのは、勉強の仕方が違っていたことです。イギリスでは、日本のように決まった答えはなく、自分で自分の答えを導いていくんです。

高木:ティーチングではなく、コーチングですね。日本は答えを覚えさせる。向こうでは答えを考えさせる。

高嶋:そうです。日本とはまるで違う教育を知って、それまでは知識を持たなくてはならないという前提があったのですが、自分で考えていくことが一番大事だということに気がつきました。そして正しい答えはないんだということ、自分が正しいと思っているだけで、見方によって、見る人によって、事実も変わっていくんだということを、勉強させてもらいました。

高木:大事なことを学びましたね。「すべての答えは7つある」という先住民の教えがあります。7つとは「たくさん」という意味です。そういう考え方ならば、争いにはならないでしょう。考え方もたくさんあるし、意見が違って当たり前ですからね。

高嶋:本当にそうですね。

■ 違いを認め合える社会に

高木:難民支援に関わるようになったのは、いつからですか。

高嶋:学習院大学の大学院に在学中に、国連派遣でスーダン東部に行きました。最初は、自分の中の理想と現実とのギャップにショックを受けました。スーダンに派遣されたときも、国による線引きや、本当にその人たちのことを思ったら何が一番いい解決法なのか、疑問もいろいろあり、生意気な理想論で上司と揉めたこともありました。タイに行ったときはキャンプが2つしかなくて、人々とすごく近しくなりました。すると、それまで「難民」という集団でしか見えなかったのが、やっと「個人」として認識できたのです。そのときに、この仕事が本当におもしろいということに気づきました。

高木:10年間、世界中で支援活動を行ってきて、今あなたが願っていることは何ですか?

高嶋:もちろん難民がいなくなること、その原因がなくなることが一番重要だと思うのですが、それってすごく大きくて、自分には難しく感じています。私ができること、それは何かと考えたら、少しでも多くの人に「自分とは違うからという理由で、差別したり、排除したりしないでください」と伝えることかなと思います。「自分と違うから近寄らない」のではなく、「違いを知ってみよう!」といった発想になるような、そんな活動をしていきたいと思っています。

■ 途上国問題は先進国問題

高木:私は、あなたはもっと大きなことができる人だと期待しています。緒方貞子さんのような大きな影響力を持つ人になれるかもしれません。だからこそ、もっと大きな志を持ってほしいのです。おっしゃるように、根本原因をなくすことが大事です。そのことを常に意識しながら活動していってほしいのです。

高嶋:理想と現実のギャップの中で、自分は本当に何もできていないし、できることって少ないんだなあと感じました。だから、自分が幸せになることでしか周りを幸せにできないし、自分が楽しくて気持ちがいいことをしていれば、それは周りにも広がっていくし、「自分もやってみよう」と思ってくださる人が現れる。そういうことで広げていくことしかできないと思っています。

高木:現地で働くスタッフはそれでいいと思いますが、あなたは国連UNHCR協会(日本)の事務局長ですから、もっとできることがあると思います。難民や貧困の原因は、多くの場合先進国にあります。それがほとんど知られていませんから、それを多くの機会に訴えていくことです。「難民の原因は先進国の豊かさにある。先進国の豊かさを改めない限り、貧しさは解決しない」ということを訴えてもらいたい。タイタニック号がもうすぐ沈むというときに、酒盛りをしている一等船客が日本人であり、先進国なのです。三等船室でボランティアをしているときとは違う立場、違う意識が必要だと思います。私たち一等船客全員が、二等船室に降りていく覚悟が必要です。あなたには、それを説得し促すことができる立場だと期待しています。

高嶋:それはわかります。私たちの生活レベルを下げなければ地球はもたない。でも一般の人に生活レベルを下げろというのは、とても難しいことだと感じてしまいます。
高木:難しい」と言わないでほしいな。私は20年前に気づき、自分自身の生活を変え、毎日一般の人に「できることから始めよう」と訴えています。私の講演を聞いた人は、生活を変えながら、募金をしてくれています。その貴重な募金を、あなたを通して国連UNHCR協会に渡すのだから、「難しい」と言わないで「変えられる」と言ってください。

高嶋:そうですね。もちろん頑張りたいと思うんですけれど、どこまでできるのか。私の力は小さいし・・・。

高木:大丈夫。あなたは優しいし、柔らかな雰囲気で、真実を伝えられる人だと思う。取材もたくさん受けるでしょうから、「気の毒な人たちがいる」という話ではなく、「その原因が豊かな人たちにある」ということ。「難民や貧しさは途上国問題ではなく先進国問題である」ということを、あなたの経験とあなたの言葉で伝えてほしいのです。

高嶋:わかりました。それが伝えられるように、もっと勉強していきます。そして、募金をくださったみなさま、本当にありがとうございました。

高木:これからもどうぞよろしく。また会いましょう。

■国連UNHCR協会
 http://www.japanforunhcr.org/