2010年6月号 NPO法人 大地といのちの会 理事長 吉田俊道さん
吉田さんは、14年前、長崎県諫早市で高木代表の講演を聴いたことをきっかけに、地域『地球村』を立ち上げ、現在はNPO法人「大地といのちの会」の理事長を務めておられます。「生ごみリサイクル元気野菜と元気人間づくり」をテーマに、幼児期の食育プログラムの実践と講演活動を行っています。
■ 虫が寄って来ない有機農業
高木:どうも、お久しぶりですね。私たち、出会ってからどのくらいになりますか。
吉田:初めて講演を聴いたのは14年前です。とにかくショックを受けて、シリーズ講演に通いました。どうしても聴けないテーマはビデオを買って聴きました。「この話をみんなが知れば、世の中変わる ! 」と思って、「吉井町の環境を考える会」というグループを作り、高木さんの講演会を主催したのが10年前です。
高木:当時、吉田さんは公務員でしたね。
吉田:はい。14年前は県職員で農業改良普及の仕事をしていましたが、有機農業を広めたくて公務員を辞めて自分で有機農業を始めました。講演会で高木さんの話に感動した人が大勢いたので、その方々と一緒に何かできないかと考えて、思いついたのが生ゴミを有機肥料に変えることだったんです。
高木:有機農業と生ゴミ減量を結びつけたわけですね。
吉田:そうです。有機農業体験を始めて、虫が食べる野菜と食べない野菜があることがわかりました。虫が最初から来ない野菜があって、それは実に美味しいんです。逆に虫が来るのは不味い野菜。自分で体験してみてそのことがわかって涙が出ました。有機肥料で土が微生物だらけになって、野菜が本当に元気になったら、その野菜は美味しくて、虫もあまり食べなくなる。そんな都合のいい話が現実にあったんです。有機農業の世界は、敵を全滅するまで戦い続けるのではなく、折り合いをつけて、共に自分の役割を生きていく世界だったんです。この感動を日本中の人々に体験して欲しいと思いました。
■ 食が変われば人間も元気に
高木:生ゴミ有機農業はうまくいきましたか。
吉田:それが驚くことに、私より、私が教えた子どもたちのほうがすごい野菜を作るんですよ。鮮度保持能力にもはっきりと違いがあるんです。最初は子どもたちの優しさや意識の違いが野菜を変えているのかと思いましたが、実は生ゴミに力があることがわかりました。皮、ヘタ、芯などはビタミンやミネラルが一番多く、ファイトケミカル(フィトケミカル)が多く含まれているんです。
高木:ファイトケミカルってなんですか。
吉田:植物由来の抗酸化作用を持つ物質のことで、今、非常に注目されています。生ゴミ農業は、まず土にお礼をすることから始まります。「土の中の菌ちゃんがお腹をすかせているから、餌をあげようよ」といって、生ゴミを混ぜます。すると3日後くらいに発熱するわけですよ。すると子どもたちも学校の先生もみんな「熱い、熱い」といって大喜びなんです。「菌ちゃんは1グラムの中に1億くらいいて、みんなで押しくらまんじゅうをしているから熱いんだよ」というと、子どもたちはそのイメージが湧くらしいんです。自分たちの生ごみから始めることで、土にも菌ちゃんにも野菜にも、しっかり心を寄り添わせながら野菜を育てた時に、最初は「食べたくない。食べたらかわいそう」って言うんですよ。そして必死に生きる食べ物たちの生きる力に、つまり地球に自分たちの命が支えられていることを幼児でもわかるんです。この活動は、そんな優しい子どもたちが増えていくことを一番の目的と考えています。地球環境の問題は個々には解決しない、根本的に価値観を変えなくちゃいけないということは、高木さんから叩き込まれていましたから、価値観を変えた人を増やすという目的はぶれませんでした。ゴミ減量というと、生ゴミ収集システムを作ろうとか、集めて野菜を作ろうとか、効率的なアイデアはいろいろあると思います。でもそれでは命の循環を学ぶ教材にはなりませんし、システム化されてどこかで誰かが処理していたら、生ゴミに対するイメージも変わりませんから、それではだめなんです。
■ 菌ちゃんが喜ぶ農業を
高木:活動はどのように広げていますか。
吉田:学校・保育園・幼稚園などで、生ゴミを使って元気な野菜を作ろうという提案を、実演や講演を通して全国に広めています。カラー版のマニュアルもあります。
高木:吉田さんの提案が広まっているわけですね。
吉田:そうなんです。食育のための30日プログラムもあります。旬の野菜たっぷりの味噌汁を食べようとか、しっかり噛んで食べようとか、ジュースの代わりに水かお茶を飲もうとか、8項目からなるプログラムです。これを実行して1ヵ月後にアンケートを取ると、体温が上がっていたり、イライラがなくなって集中力が増したり、夜ぐっすり寝て朝気持ちよく起きられるようなったり、体調に変化が起きているんです。食べ物ってすごい、ありがたいという気持ちが湧いてきます。
高木:そんなに大きな変化が起きてきますか。
吉田:はい。例えば、有機野菜を作って給食に取り入れている保育園では大きな成果が出ました。インフルエンザの感染率に圧倒的違いが出たんです。前年度、前々年度とも、1年間に病気で休んだ日数が1人平均0.7日という園もあるんですよ。
高木:驚異的だね、それは。
吉田:元気野菜を使って調理法を変えれば、勝手に体が元気になっていきますから、病気をしなくなるんです。私は、この体験を幼児期にさせたいんです。子どもは本質を見ています。言葉じゃなく本質をわかってくれるんです。
高木:吉田さんのチャレンジはすばらしいね。昔は几帳面で生真面目な印象があったけど、吉田さん自身も変わりましたね。大事なものを背骨として持っていると思います。
吉田:それについては、高木さんにとても感謝しています。基本が揺るがないようになれたのは高木さんのおかげです。これからは、虫が、弱い野菜に行って強い野菜には行かないことや、子どもたちの体調の変化について、学術的に研究してくれる大学も見つかって、夢が広がっています。
高木:今、ふと思ったんだけど、虫にとっては、弱い野菜の方が消化しやすいとか何か有利な原因があるから行くんだろうね。人間のためではなく、弱い野菜が虫には美味しいってことだろうね。
吉田:そうですね。ハエが腐った魚に群がるように。
高木:そう考えると納得だね。今日は本当にありがとう。この対談を読んだ人が吉田さんとつながっていくことを願っています。
吉田:ありがとうございます。がんばります。
■ NPO法人「大地といのちの会」
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