2010年9月号 グリーンピース・ジャパン事務局長 星川淳さん
鹿児島県屋久島在住、作家で翻訳家の星川淳さんがグリーンピース・ジャパンの事務局長に就任したのは2005年12月のこと。
以来、何かと協力関係を結んできた二人は、改めて互いの価値観を共有し、今後の協働アクションの可能性を語り合いました。
■ もう一つの世界は可能だ
星川:僕は10代のはじめごろから翻訳物のSFにのめりこみました。SFっていうのは、人類文明を外から見るとか未来から見るとか、超客観性を持っているので、僕もそういった目を早くから身に着けることができました。団塊の世代の末端ぐらいに生まれて、学生運動の終わりの頃、大学生になりましたが、大学は2年でやめて、自分自身の学びを追及する道に入りました。その頃から、もう一つの世界は可能だということに気づいていて、自分の人生をそれにかける覚悟はできていたんです。未来に続く道を見て歩こうと世界を旅しました。
高木:その頃まだ20代の前半の若者でしょう?各地で稼ぎながら旅をしたのですか。
星川:僕が恵まれていたのは、インドでバグワン・シュリ・ラジニーシ(和尚/オショウ)さんに出会い、彼から直接教えを聞けたことです。ラジニーシさんの講和を翻訳して、最初の本『存在の詩』を出版しました。その後もラジニーシさんの本を8冊くらい出して、それがかなり日本でブームになりました。多少印税が入ってくるようになったので、それで20代の時は好きなことができたんです。
高木:インドには長く?
星川:足掛け5年、正味2年くらい彼の元で過ごしました。でも僕は、個人崇拝が好きじゃないので、70年代の終わりに一区切りをつけてアメリカへ渡り、もう一度大学に入り直したあと、カリフォルニア北部の山の中で電気、ガス、水道、何もない自然生活を実践しました。夏は50℃、冬は2メートルの雪に閉ざされる緩やかなコミュニティ、ティピやゲル(前者はアメリカ先住民、後者はモンゴルの移動式住居)を立てて1年暮らしました。
高木:1年間四季を通して暮らすと、いろいろな気づきがあったでしょうね。
星川:さまざまな学びの場を体験してきましたが、そこでの1年が一番力になりました。そこで妻と出会って、日本でも自然と密着した暮らしがしたいと、屋久島に82年に移り住んだんです。
■ 屋久島から長い出張で東京へ
高木:グリーンピースとのつながりはどこから?
星川:グリーンピースとは長いんですよ。そもそもカナダで設立されたのが1971年。初期の創設者たちとは同世代で、73年にグリーンピースの活動を模索していたカナダ人と日本人のカップルが来日し、その二人と友だちになって活動を手助けした時期もありました。89年に日本支部ができてからは、サポーター(寄付会員)を続けてきました。2005年に日本人の事務局長を探しているというので、何人かの方を紹介したのですが決まらず、そのうち「星川さんやりませんか」ということになったのです。屋久島から書くものを通して社会と関わるというスタイルが自分には合っていると思っていましたが、殻を破ってみようかと引き受けました。
高木:屋久島の家はどうなっているんですか。
星川:家も農園もそのままで、気分としては長い出張に出たつもりです。
高木:そうでしたか。私の場合は、大学時代の学生運動以外は順調なもので、大学を出て大手企業に就職、仕事も順調、音楽も順調。しかし33歳で大きな交通事故に遭って、人生観、価値観が劇的に変わりました。自分の納得する生き方をしようと決意しました。社会復帰して、環境、政治、経済などの現状を学び、農業など多くの経験をして、約10年間の準備期間を経て91年に『地球村』を設立、いまに至ります。
星川:存じています。精力的に動かれていますね。
高木:私は、グリーンコンシューマを増やすことで、社会を変えたいのです。事実を知らせることで、本気で動く市民を増やしたい、そう思っています。
■ 連携・協力しましょう!
高木:グリーンピースが今、力を入れている活動を教えてください。
星川:一番大きなテーマは気候変動とエネルギー問題です。次に海洋問題、核問題、森林、遺伝子組み換え、有害物質。今、グリーンピース・ジャパンとして準備しているのは、日本の沿岸と近海の漁業問題です。海は砂漠化し、魚がいなくなっているんです。原因は過剰漁業であり、気候変動や海の汚染もあります。持続可能な漁業をめざすガイドブックを作っているところです。
高木:それは楽しみです。グリーンピースと『地球村』とは協力関係が組めそうですね。一緒に作戦を考えて、「みんながやっているよ!」という流れを作れば、みんなが動きます。
星川:まったくその通りです。日本のNGO同士、連携が大事だと思います。
高木:今までも星川さんたちグリーンピース・ジャパンが提案されているアクションは、『地球村』の仲間の皆さんにお知らせしています。例の鯨裁判もウォッチしていますし、これからも連携しましょう。
星川:その「クジラ肉裁判」は非常におもしろいですよ。2年間、日本の司法を見てきて、一種の秘境だなあと思うんです。もちろん悪い意味で。国営事業の不正を世間に知らせようとして証拠を持ち出したことが罰せられようとしているのですが、公共の利益のために活動すると、法律の枠をはみ出すこともある。そんな場合、厳罰に処すべきではない、政府に対する監視活動を萎縮させてはならないというのが、国際人権法の考え方です。国連の人権理事会も「日本政府が間違っている」と声明を出してくれています。メディアはなかなか取り上げませんが…。
高木:こういう場合、ほとんどにおいて国家は間違っていますからね。
星川:ははは…、そうですね。ヨーロッパでは国家に賠償させる判決も出ているんです。
高木:それはすごい!日本の司法がどう動くか楽しみにウォッチします。これからも一緒にやりましょう。
■グリーンピース・ジャパン
http://www.greenpeace.or.jp/
■クジラ肉裁判
http://www.greenpeace.or.jp/t2/