スペシャル対談

2010年11月号 奈良県生駒市市長 山下真さん


山下さんは、東京大学文学部を卒業後、朝日新聞社に勤務、同社を退職して京都大学法学部に編入し、弁護士となりました。その後、市民運動のリーダーとなり、37歳で生駒市長選にダブルスコアで勝利し、現在2期目。「関西一魅力的な住宅都市」「環境No.1都市生駒」を目指して邁進する若き市長です。



■社会問題に関わる人生を

高木:今日はようこそ。私が山下さんの名前を初めて聞いたのは、有村京子さん(生駒市議、地球村通信10月号スペシャル対談に登場)からです。平成17年頃、「今度、反対派の代表が市長選に出るねん」「勝算はどうや?」「うーん、難しいと思う。でも戦うんや」という話だったのに、「勝った~! ダブルスコアや~!」と報告をもらって驚いたことを思い出します。

山下:実は、それ以前に講演会でお会いしているんです。平成15年に講演を聴きに行って、有村さんが高木さんに引き合わせてくれました。

高木:そうでしたか。講演はいかがでしたか。

山下:高木さんのお話はインパクトがありました。学生時代から環境問題には興味があっていろいろ勉強もしてきたのですが、それでもショックでした。

高木:学生時代というと東大生の頃ですか。環境に興味を持ったのは、何かきっかけがあるのですか。

山下:友だちの影響なんです。そういう問題に興味がある友人がいて、議論したり、本を借りて読んだりしました。僕自身も、元々パブリックなことには関心があって新聞社に入ったのですが、商業ジャーナリズムの限界も感じていまして、サラリーマンも向いていないように思って退職しました。

高木:京大法学部に入り直して、弁護士を目指したんでしたね。

山下:そうです。弁護士なら、自分で稼いで、自分の裁量で、人権や環境などのいろいろな社会問題に仕事として関われるし、生涯を通じてやりたいことができるんじゃないかと考えたんです。

高木:なるほど。それはよい選択でしたね。





■やはり首長を変えるしかない


高木:では市長選に出た経緯を聞かせてください。弁護士として独立したばかりだったと聞きましたが。

山下:大阪で司法修習をして、そのまま就職しました。大阪には行政監視運動と情報公開を行う「見張り番」という市民グループがあって、そこの顧問弁護団に入ったんです。その時に、「今度市長選がある。争点は高山第2工区開発計画。対抗馬として名乗りをあげたい人がいるので、政策作りに関わってほしい」と誘われたことがきっかけでした。

高木:高山第2工区とは?

山下:正式には「関西文化学術研究都市高山地区第2工区」といいます。そこの開発計画が持ち上がっていたのですが、採算面や環境保全の観点から事業の撤回を市民側が求めていたんです。しかし、対抗馬として立つ予定だった人が出馬を降りて、共産党候補が負けて、推進派の前市長が3期目の再選をしました。「選挙が終わったからといって高山第2工区の問題をこのままにしてはおけない」と、僕と有村さんたちとで会を立ち上げ、勉強会、チラシ配り、現地調査会などを開催していきました。

地方自治法の中に直接請求という制度があり、有権者の50分の1以上の署名があれば条例案を直接議会に提案できるので、平成15年8月に「高山第2工区を住民投票で決めるための条例を制定しよう」という署名を呼びかけました。生駒は有権者約9万人だから目標人数は1800人だったのですが、結局1万6000人、つまり有権者の6分の1の署名が集まったのです。しかしその請求は、議会で一蹴され無力感を味わいました。

高木:そこで、ついに山下さんの立候補ですか。

山下:その頃から、「やはり首長を変えないと事態は変えられない」というのが、我々の共通認識になりました。しかし僕は、自分の弁護士事務所を開設したばかりで、弁護士の仕事にやりがいも感じていました。弁護士1人と事務員2人を雇っていましたので勝手なこともできず、できれば他の人に立って欲しかったのですが、最終的には「僕なら落ちてもまた仕事が続けられる」と思って決断しました。
 


■環境市民が社会を動かす


高木:市長としての取り組みを教えてください。

山下:まずは争点だった高山第2工区です。公約通りに、平成18年2月、事業主体であった独立行政法人都市再生機構(UR)に「生駒市としては協力しません」と伝えました。平成19年7月にURは、正式に事業の中止を発表しました。

高木:それはよかったですね。

山下:でもURが所有している288haの土地をどうするかという後処理問題があります。平成20年5月に、今度は奈良県が事業主体となって、大学と優良企業の誘致を中心とする計画を打診されました。「話し合いのテーブルについていただけますか」ということだったので、『1.周囲の自然と調和した形での開発』であり、『2.将来の税収入につながるような目玉事業』があり、『3.市の費用負担ができる範囲』であること、この3つほどの条件を提示して協議のテーブルにつきました。

高木:難しい問題ですね。他に、山下さんの改革を教えてください。

山下:生駒を環境都市にしていこうと、ゴミの削減、「もったいない陶器市」の開催などに取り組んでいます。ゴミゼロを目指して、生ゴミの堆肥化もやりたいと思っています。

高木:食糧自給率への取り組みはいかがですか。

山下:休耕田や休耕畑を、市が農家から借りて、農業をやってみたい市民に無料で貸し出す事業を始めています。市が間に入ることで、お互い安心して貸し借りができ、我々の予想以上に利用者が増えています。また、雨水タンク設置の補助も行いました。受付初日で予算額を上回る申し込みがあるくらい、関心が高い事業です。

高木:環境政策としては、食糧自給率アップ、エネルギー削減、ゴミ削減、この3つが柱になると思います。生駒が環境都市になるよう頑張ってください。

山下:はい。ドイツのフライブルクのように、「環境といえば生駒市」といわれるようになりたいと思っています。それは一人の力ではなく、環境市民が増えて、市を支えて、社会を変えていくのだと思います。『地球村』のみなさんも、それぞれの地域で粘り強く活動して、地元の自治体を動かしてください。

高木:その通りですね。『地球村』の仲間が、山下さんのよう市民派として立候補してもらいたいです。


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