スペシャル対談

2011年2月号 ドキュメンタリー映画監督 鎌仲ひとみさん

3本のドキュメンタリー映画『ヒバクシャ 世界の終わりに(2003年)』『六ヶ所村ラプソディー(2006年)』『ミツバチの羽音と地球の回転(2010年)』を発表し、エネルギーと核の問題を撮り続けてきた鎌仲ひとみ監督。原子力発電ではなく他にもっと豊かで幸せな選択があること、地域のエネルギーを自給自足させること、小規模コミュニティの自立など、目指す方向は『地球村』と一緒です。

■日本の家族は病んでいる

高木:私が鎌仲さんのお名前を耳にするようになったのは『ラプソディー』の頃です。『地球村』の仲間たちが自主上映会をするようになって、私も映画を拝見しました。明確な反対や抗議要求という視点ではなく、客観的に問題を伝えようとしている点が印象的でした。そこが『地球村』の理念と共通するので、『地球村』の方々の鎌仲作品上映率は高いと思います。

鎌仲:そうなんです。全国各地で上映していただく中で、高木さんのお名前が本当によく出るんです。以前から、高木さんとはつながっているなあという感覚を持っていました。

高木:鎌仲さんがこうしたテーマで作品を撮るようになった経緯をお話しください。

鎌仲:91年からカナダとニューヨークで映像のプロになるために修業をしていたんです。95年に帰国してその時に阪神大震災が起きて、神戸にボランティアに行きました。アレルギーを持った子どもたちが避難所で食べるものがないというので、アレルギー対応食を届けるボランティアでした。そこで震災の医療記録を作りたいという岩波映画のプロデューサーから声がかかって、帰国第一作の映像を撮りました。その作品が科学技術省長官賞をとって、NHK教育テレビで放送されました。そこからNHKとつながりができて、企画を持ち込むようになりました。避難所で、日本の家族は壊れているんじゃないかと感じることがあって、そこからAC(アダルトチルドレン)などをテーマに番組を作らせていただきました。

高木:ACは急増していますね。いまや日本中の家族が壊れているんじゃないでしょうか。

鎌仲:そうです。これはヤバいなと思いました。

■不自然さが心を病む要因

高木:実はACもPTSD(心的外傷後ストレス障害)も、ものすごく増えていて、WHO(世界保健機構)の発表では、日本の場合、52%の人が心を病んでいるということです。

鎌仲:ええー! 半分以上じゃないですか。

高木:厚生省の発表では300万人、しかし潜在的な人数は20倍くらいになり、6000万人。日本人の半数は病んでいることになります。どうしてこんなに増えてしまったと思いますか。

鎌仲:私は2つ要因があると思います。1つは戦争が終わった後、お父さんたちの心のケアをしなかったこと。人を殺したり、戦友を失ったり、非人間的な体験をしてものすごく傷ついていたはずなのに、戦後は何事もなかったかのように、物質的反映を目指しなさいといわれた。その人たちは、自分を愛したり、子どもに愛情を伝えたりできず、悪循環が起きたのではないかと思うんです。あと1つは、ありとあらゆる化学物質、放射能も含めてあらゆるものが私たちの体内になだれ込んできた。その2つの相乗効果じゃないかなと思っています。

高木:「答えは常に7つある」というアメリカ先住民の言葉があります。7つというのはセブンではなく、たくさんという意味です。鎌仲さんが言われた2つも入ると思いますが、私は第一は、この社会が不自然だということです。自然界の動物にACはいないけれど、動物園では、交尾できない、出産できない、子育てできないなど、動物もACになります。それは食べ物をとったり、住処や水を探したり、生きる苦労をしていないからだと思うのです。生きる努力をしないとDNAが働かない。DNAが働かないと、生きる力がわいてこない。ACは不自然な社会ほど多いのでしょう。不自然な社会は物質社会。

鎌仲:物質社会・・・物質レベルの高さ・・・

高木:不自然な社会で、不自然な物に囲まれている国ほど病的に。52%という数値は、日本は世界一不自然ということになります。

■持続可能なコミュニティを

鎌仲:そういう意味では、祝島のおじいちゃん、おばあちゃんたちは、自然の中で暮らしています。

高木:まさに自然と不自然との対立だね。私は、鎌仲さんの作品は、自然と不自然の対立を描いているんじゃないかと思っています。これからも自然か不自然かを意識して作っていってくださいね。

鎌仲:ぜひそうしたいと思っています。不自然さの究極はお金ですよね。祝島に提示された漁業保証金は総額10億8000万円。一見すごい金額だと思うけれど、この反対運動を展開している28年間で割って計算してみたんです。すると漁師さん一人当たり、年間50万円だったんです。億っていわれると迷うけれど、50万円といわれるとスケールが戻ってきて、目の前の海を見たときに、50万円より、海の方が大事だよなあって気付くんです。

高木:もちろん、豊かな海を失う方がはるかに犠牲が大きいよ。長崎の諫早問題では、豊かな海が選択されてよかったね。昔、諫早では『地球村』の人たちが「焼け石に水作戦」をやったんですよ。毎週毎週、堤防の内側に潮水をバケツリレーするという非対立のアクションを続けたんです。

鎌仲:あ、それ、いいですねー。何か祝島でもできるアイデアはありませんか。

高木:現地を見てみないとイメージがわかないけど、反対運動そのものでないほうがいいですね。熱気球大会とか、凧揚げ大会とか…。

鎌仲:熱気球!いいですね!上空から海や湾を見るんですよ。
いかに豊かな自然かということを。

高木:それを映画にしてください。私が30年続けてきた活動は、『地球村』、つまり小規模で自立型、地域調和型の社会の実現です。食べ物、エネルギーなどが地域で循環できるコミュニティを作ることなんです。祝島ではそれが可能だと思います。

鎌仲:祝島が原発を押し返すことができたら、ものすごい成功例になります。高木さんと思いは同じだと感じました。2月に東京でロードショーがあるんですが、応援いただけますか。

高木:いいですよ。


映画『ミツバチの羽音と地球の回転』
http://888earth.net/
2月19日(土)より渋谷ユーロスペースにて、未来を作るロードショー!
土日 ①10:00 ②12:40 ③15:50 ④18:30
平日 ①10:30 ②13:10 ③15:50 ④18:30
※毎週土日は鎌仲監督のトーク有り
※毎週月曜日の10:30の回は、聴覚障害者の方にもご覧
いただけるよう「日本語字幕付」上映。
ユーロスペース(渋谷・文化村前交差点左折)
Tel:03-3461-0211
http://www.eurospace.co.jp


映画『ミツバチの羽音と地球の回転』より