巻頭言

【巻頭言】アマゾンに行きました

私がアマゾンに初めて行ったのは、1992年リオ地球サミットの時でした。
その時は、マナウスから入り、奥地の先住民を訪ね、衝撃的な体験を通して、多くの気付きを得ました。
今回は、アマゾンの熱帯雨林保護のための視察でベレンに行き、3つの活動を見てきました。徒然なるままにつづってみます。

★アマゾンについて
・アマゾンの熱帯雨林の面積約300万平方キロ(日本の8倍)。
・ただし、その60%はブラジル、他はボリビアなどにまたがる。
・アマゾン川の長さは約6992キロ、河口の川幅は300~500キロ。
・アマゾン川の流域面積は700万平方キロ。
・アマゾン川の水量は、世界の川の水量の半分を占める。
などなど、想像を超える数字である。

★ブラジルについて
・国土面積は850万平方キロで日本の22.5倍、世界5位。
・人口は1億9千万人で世界5位。GDP(国内総生産)も世界5位。
・さらに、2014年サッカーワールドカップ開催国、2016年オリンピック開催国に選ばれるなど国際的な地位、注目度が上がっている。
・ブラジルは、BRICs (ブリックス※)と呼ばれ、経済発展が著しく世界で最も注目される4カ国の一つでもある。
※ブリックスとは、ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の4カ国の頭文字からなる総称。

★日本から一番遠い国
ブラジルは地球の裏側、おまけにアマゾンに直行便はありませんから、アマゾンに行くには、行きも帰りも飛行機を4回乗り継いで2日ずつかかりました。往復5万キロ。地球一周4万キロだから、それ以上でした。
なんといっても、機内に長時間拘束されるのは苦痛でした。

★ブラジルの第一印象
国として若く、人々には元気があり、南国特有の陽気さがある。
物価は意外と高く、実感としては日本と同じくらい。
食べ物はおいしく、肉が中心、野菜、果物も豊富、肥満体の人が多い。
都会も田舎も開発が進み、日本の高度経済成長期のように、自動車が増え、どんどん豊かになり、今後どうなるのだろうと不安になった。
大都市の人口は、サンパウロ1100万人、リオ800万人、アマゾンの大都市のベレンは200万人、マナウスでも170万人・・・今後、そら恐ろしい・・・
★アマゾニア森林保護植林協会
現地の日系人が中心となって「植林運動(オーナー制)」を行っていて、すでに150ヘクタールの予定地の120ヘクタールの植林ができていました。
会長の長坂さん(70歳)が毎年来日、精力的に講演、賛同者や募金を募っておられます。チーク、マホガニーなどが整然と植林されていました。
詳しくはサイトをご覧ください。
 http://www.sl-world.co.jp/topix.html

★「アマゾン群馬の森」
約20年前、ベレンにわずかに残された原生林(400ヘクタール)が売りに出された際、原生林が消失するのを保護するために、在北伯群馬県人会の有志が働きかけて、日本とブラジルでの募金で買い取ったものです。当時の3000万円は大変だったと思いますが、今にして思えば、坪25円という安値です。
さらに別に100ヘクタールの土地を買い取り、植林して自然林を再生する活動を続けています。群馬県の補助金やJICA(国際協力機構)のODAから助成金が出ていましたが、経済事情などで最近、その助成金も打ち切りになり、運営が苦しくなってきているようです。

その原生林の中を1時間ほど歩きましたが、言葉に言い表せないほどの感覚でした。20年前、さらに上流のマナウスの原生林に入りましたが、その時と同様、一歩入ると、そこはジャングル! ジャングルの音がするのです!
ジャングルのざわめき! たくさんの生き物の声が聞こえるのです!
たくさんの生き物の気配がするのです!
巨木が立ち並び、若木もあり、老木もあり、倒木もあり!
雨が降っていても、やんでいても、水滴が落ちていて、土は柔らかく、暖かいのです! 木の種類、植物の種類、きのこ、木の実は無数!
ガイドをしてくれた県人会の事務局長平形さん(67歳)が、説明をしてくれましたが、言葉の端々から、心からこのジャングルを愛していることが伝わってきました! 時間の関係で、お互い残念な気持ちで、そこを後にしましたが、五感が解放され、目覚め、細胞が喜んでいるのを実感していました!

100ヘクタールの植林地は従来型植林でしたが、最初の植林から16年たち、かなりの成果がありました。
ごく一部(小規模)ですが、宮脇先生の方式による自然林再生の植林があり、そのすごさを実感しました。(詳しくはのちほど)
(アマゾン群馬の森のHPは現在ありませんが、2007年まで管理をされていた方のブログが残っています。http://gunmanomori.pokebras.jp/

★アスフローラ
現地の日本人が始めたNGOで、空いた土地、荒れた土地に自然林を取り戻そうという活動です。

特別な財政力もなく土地もなく、県人会のような組織やスポンサーもなく、熱い気持ちだけのNGOですから、「群馬の森」のような大きな成果はありませんが、小規模ながら素晴らしい成果を上げていました!
その多くは、植林して数年で、若いながら見事な自然林になっているのです!

この団体の事務局長佐藤さん(63歳)が、1人ですべてを切り盛りしています。年齢は私と同じ。頭髪は真っ白ですが、若々しく素晴らしい方でした。
アマゾンの自然林を愛する気持ちが溢れていました。
http://wagahaibr.exblog.jp/i10/

★土地なし農民
アマゾンの問題点の一つに、土地を奪われた人々、土地のない貧しい人々が、空いた土地に入り込み、掘立小屋を建てて住み始め、土地を耕して、食べ物を得るという問題があります(空き地は多くの場合、誰かの所有地です)。
その貧しい人たちが、生きるために空き地に入り込み、木を切り、小規模に焼き畑をします。焼き畑は数年でダメ(不毛)になるので、貧しい人たちは別の場所に移動して、また木を切ったり焼き畑をしたりします。

アスフローラは、そういう人たちに対しても、アグロフォレスト(森と共生できる農業)を指導していました。
佐藤さんは私たちを、支援している農民のところに連れて行ってくれました。
佐藤さんが大きな声で呼びかけると、子どもたちは駆け寄ってきて佐藤さんに飛びつきました! 佐藤さんは子どもたちを抱っこしました!
若い夫婦も駆け寄ってきました! 佐藤さんは彼らともハグしました!
現地の言葉でいっぱい話をしました! 私たちを紹介してくれました!
私たちも照れながら、お互いに挨拶をしました!
佐藤さんの「彼らは、いまは非合法ですが、5年間ここで暮らせば、生きるための最低限の土地が合法的に認められるのです。彼らが生きるために、無知なまま、これ以上、森を破壊しないようにアグロフォレストを指導することも大切だと思うのです」という言葉に、私はとてもとても感動しました。
佐藤さんの貧しい人たち、子どもたちに接する態度、その愛情に、私は深く感動し共鳴しました。
支援は、正義感や憤り、ましてや怒りではできるものではありません。
支援は、このような愛から発するものでなければならないと再認識しました。
今回のアマゾン視察の中でももっとも感動したのが、このことでした。

視察については以上ですが、『地球村』の森林保護活動の基本について、さらには森林保護について、ぜひ知っていただきたいことを説明します。



★自然林(原生林)
自然林とは、多様な樹木が共生し、世代交代しても状態が変わらない安定した森林で、多くの生物相(動物、鳥類、昆虫、植物など)が共生している永続可能な状態です。本来、自然林は何千年もかかって作られたものですから、いったん破壊されると、森林だけではなく、表土(土壌、微生物、土壌菌)が失われるので、人工的な回復は不可能または回復困難です。
人工的に植林して、二次林(遷移林)を経て自然林に戻るのには、人工的に手を入れない期間が、少なくとも数百年は必要です。

★通常の植林
通常の植林は、日本のスギ、ヒノキのように同じ樹種を植林します。
多様性がなく、生物相がなく、酸性雨や病虫害に弱く全滅したりします。
植林の際は1平方メートルに数本の密度で植えるため(そうしないと苗木が育たない)、木の成長に合わせて定期的な間伐が必要です。
人工林の管理、育成には、人手と費用がかかるため、林業として成り立たなければならず、植林、間伐以外に、下草刈り、枝打ち、切り倒し、乾燥、運搬などが必要で、労働力の確保、経費以上の売値が必要です。
しかし、日本の林業は農業と同じく、価格面で途上国に負けて衰退の一途です。これも、農業と同じく日本政府の政策の失敗例です。
現状の日本の植林は、スギ、ヒノキの植林が大部分で、広葉樹や落葉樹、木の実を付ける樹種がないため、動物、鳥たちは生きられず、生物多様性がありません。昔の里山は、しば刈りやたきぎ拾い、炭焼き、山菜摘み、木の実つみなど人手が入りながらも、森林の状況が変わらず、クマ、イノシシ、シカ、サル、リスなど野生の動物も共生できていました。いまは、その里山さえも、人手が入らないために荒れて、野生の動物も食べ物が無くなって里に下りてくるという問題が多発しています。

★宮脇方式
宮脇昭先生(82歳)は、短期に自然林(原生林)を作る(復元する)方法を発見しました。そこに元々あったと考えられる樹種をできるだけたくさん(数十種類)、できるだけ高密度(通常の10倍以上)に植えるのです。
それも一気に植える必要がありますので、人手が必要です。
そして最適の土壌が必要ですから、事前調査や、必要によっては土壌の改質が必要です。その準備がうまくいけば、植林後はほとんど人手を入れなくても、自然に自然林が復元していきます。
http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/603572.html

アスフローラは、主として宮脇方式を採用、大きな成果を上げていました。
さらに、アグロフォレストという、生きるための小規模な農業と共生する森林保護を推進していました。アグロフォレストは、自給自足、永続可能で、『地球村』のエコビレッジの考え方に合致します。