スペシャル対談

2011年5月号 ピアニスト 池宮正信さん

在米生活50年、ラグタイムのトップピアニストとして活躍する池宮さん。1980年からは、メイン州で自ら創設したアーカディ音楽祭で音楽監督を務めました。現在は、長年住み慣れたニューヨークからメイン州に居を移して森の中の家に住み、有機野菜・有機果樹作り、ソーラーエネルギー、コンポスト利用などで、自給自足のライフスタイルを送りながら音楽活動を行っています。


 
音楽を通じて平和を…

高木:『地球村』事務局にお越しいただき、ありがとうございます。まずは出会いからお伺いします。

池宮:国連で講演されたときに、初めて聴かせていただきました。

高木:というと、2000年か2001年ですね。

池宮:2001年かな。9.11の前でした。私は当時ニューヨークのマンハッタンに何十年と住んでいて、平和運動にも興味があって平和コンサートも開いていました。国連には、一般市民のオーガニゼーション(機関)があって、そこのメンバーでもあったので、国連の中にも入れたし、いろんな議会にも行けたんです。そんなとき、「日本から環境NGOの人が来ていて講演するよ」というので聴きに行きました。

高木:講演はいかがでしたか。

池宮:すごくショックでした。環境のことを実際にここまで突き詰めて、説得力のある講演をされる方を初めて見ました。日本にも年に1回くらい帰ってきますから、それからは、その度に高木さんの講演を聴かせてもらうようになりました。

高木:何度かお会いしましたね。ところで、平和コンサートとはどういったものですか。

池宮:メイン州で、有志でアーカディ音楽祭というのを開いていたのですが、冷戦終結の翌年、そこにレニングラード少年合唱団を招きました。彼らにはホームステイしてもらって、ハートのつながりをつくろうという音楽イベントでした。一度会ったことがある人が住む国には爆弾を落とせなくなるでしょう? そういう草の根的な平和運動として開いていました。

高木:素晴らしい発想ですね。いつ頃からですか。

池宮:1980年に始めたんです。その前から、いつも夏だけメイン州に行っていました。最初は納屋で始めた小さなコンサートが、教会コンサートになって、ニューヨークフィルやボストンシンフォニーの奏者を招くようなハイレベルのコンサートになってきて、世界各国から音楽家を呼べるようになっていきました。そして徐々にサポートしてくれる人たちが集まってきて、自然発生的に音楽祭になっていったんです。

高木:素晴らしいですね。池宮さんの「やりたい!」という気持ちに応えて、「サポートしたい!」という人たちが集まったのでしょうね。

池宮:高木さんもそういう気持ちでやっておられるから、みんなサポートしたいんでしょうね。


メイン州で自給自足生活スタート

高木:その後、その場所(メイン州)に住むことになったのですね。『地球村』の影響もありましたか。

池宮:そうなんです。特に本を読ませていただいて、今の価値観で突き進んだら、必ず破滅に向かう、すべてを犠牲にするような生き方はしたくないと考えるようになりました。そこで、メイン州の豊かな自然の中でエコ生活をしようと決めました。

高木:メイン州とは、どんなところですか。

池宮:ニューヨークからは車で10時間くらい。カナダとの国境で、自然の豊かなところです。

高木:奥様も移住には賛成でしたか。

池宮:はい、はじめから『地球村』の講演会に行くのも、本を読むのも一緒でしたから。メイン州にはエコ生活をしている人がいっぱいいることもわかり、毎年夏に行っていたので土地もあったんです。

高木:どのくらいの広さですか。

池宮:3.5エーカー(1エーカーは0.4ヘクタール)です。森もあるので全部使えるわけじゃなくて、3分の1くらいが畑です。そこで自然農法で果実のなる木を育てています。りんご、梨、桃、栗、梅、プラム、びわ、チェリー、いちじく、レモン、キウイ、いろんなものを植えています。自給自足で、買い物をしないで済む生活を目指しているんです。

高木:数軒の農家が組めば大丈夫ですよ。

池宮:そうなんです。「うちはカボチャがいっぱいできたから」「うちはトマトがいっぱいできたから」と、農家同士で協力し合っています。あとは、秋に採れた根菜類や調理した保存食を、地下貯蔵室で保存もしています。人に環境のことを伝えようにも、自分で実行していなかったら説得力がないでしょう。だから、できるだけ再生可能なエネルギーを使おうと思って、薪でクッキングもしています。

高木:ソーラークッカーもお勧めですよ。

池宮:そうそう! もちろん使っていますよ。


みなさん、野菜を育てましょう!

高木:アメリカには「道の駅」のような、地元農産物の直売所はありますか。

池宮:あります。ファーマーズマーケットっていうんです。直接、ファーマーから買うんですよ。ファーマーたちも有機栽培を誇りにしていて、自分の名前を出してアピールしています。私も殺虫剤をかけないで果実や野菜を作っていますから、虫食いの穴もあるんです。虫が食べるくらい安全ということで、できるだけ多めに作って、ホームレスシェルターやフードバンク(寄附を受けた食物を生活困窮者に配給する団体)に寄付したり、炊き出しに持っていったりします。

高木:炊き出しもあるんですか。

池宮:ありますよ。どんなに小さな町にもあるんです。誰がやるというより、「見ちゃいられないから」という人がいれば、その話を聞いた人が「うちにカボチャがゴロゴロしているから寄付するよ」という話になって、炊き出しが始まるんです。

高木:それはすばらしい!

池宮:私たちも野菜を持っていって、みんなと一緒に食事もしてきます。

高木:一緒に食事も! それは楽しいですね。

池宮:みんなが家族のような感じで楽しいですよ。食事をしながら、私もピアノも弾くようになって、そのうち地元の人たちが集まってきて、「ギターでフォークソングを歌いたい」と、まるでタレントショーのようになったり、私のコンサートに来てくれたりして。

高木:それは感動だなあ…。では最後に、池宮さんから会員さんへメッセージをお願いします。

池宮:みなさん、野菜を育てましょう! うちの母は生前、高木さんの講演を聴きに行って「できることから始めてください」といわれたといって、生ゴミを庭に埋めることを始めたんです。すると三つ葉やカボチャが勝手に生えてきて、それを「すごく美味しいから」と近所の人たちにも分けて、「幸せが広がった」と喜んでいたんです。そんなことでもいいですから、土いじりを始めてみてください。自分で作った野菜は美味しいし、環境にもいいし、お勧めです!

高木:あの~ピアニストとしてのメッセージは?

池宮:私はジャズの源流であるラグタイムを弾くピアニストです。コンサートでは、少しでも地球村のメッセージを知って頂きたいと、演奏の合間に環境や平和についてトークや映像でお客様に楽しく伝えようとしています。是非お越し下さい。スケジュールはホームページをご覧になって下さい。

★2011年 来日コンサートスケジュール

 3月13日(日) 岡山県倉敷市 15時開演
 3月14日(月) 兵庫県姫路市 19時開演

 詳細:ピアニスト池宮正信WebSite