スペシャル対談

2011年7月号 イラスト・劇画・漫画「とみアート」とみ新蔵さん

とみさんは、月刊誌「乱」などで、時代劇画を描いている劇画家さん。代表作は、『鉄門海上人伝』『魔界転生』『柳生連也武芸帖』『薩南示現流』など多数あります。宗教家の家庭に生まれ育ったとみさんは、宗教学や哲学を探求する中で原始仏教と出会い、『マンガで読み解く「仏教」のはじまり』などの著作も発表しています。高木代表との出会いは13年前にさかのぼり…。

 

本当の幸せと幸せのようなもの

 

高木 お久しぶりですね。私たちの出会いはいつごろのことでしたか。

とみ 13年前になります。友人から、高木さんの「地球は今」のビデオテープを送ってもらったのがきっかけで、それから講演会にも通わせていただくようになりました。環境問題には関心を持っていましたが、高木さんのお話は、心の問題にも触れていることがうれしくて、「この人の話は凄い!」ってことでビデオテープをテーマ別に11本購入して、それをいろんな友人にダビングして送付しました。その人の関心に合わせて、「この人には『地球は今』と『オーケストラ指揮法』を。あの人には『究極の幸せ』と『生物種の絶滅』を」とか、いろいろ工夫してダビングしました。200本くらいダビングしましたから、講演をほぼ暗記しました。

高木 そんなに見ていただけましたか。

とみ はい。中でも僕が一番感動したのは、『本当の幸せ』と『幸せのようなもの』という表現です。これには驚きました。人間は、みんなが幸せについて考えて来ましたが、勘違いした幸せを探究してきた歴史が長く続いています。世界でも、いろんな哲学者・宗教家・思想家たちが、色々に追求してきましたが、ここまでわかりやすく説明した人は初めてで、僕が知る限り、歴史上一人もおりません。

そして「本当の幸せと幸せのようなもの」という明快な区分けに、実は反論できる人はどこにもいないものです。この話を初めて聞いたとき、正直、涙が出て、僕も人に伝えたいと思いました。

高木 私は、交通事故で寝たきりの1年間で、「人は何のために生まれてきたのか」「自分とは何か」「どこから来てどこへ行くのか」など、数々の命題を考え抜きました。そこで「本当の幸せとは」という命題にも答えが出たのですが、「幸せっていろいろあるよ」「人によって違うよ」「価値観が違うし」「みんなの幸せなんか無理だから、まずは個人が幸せにならないと」といわれて、それをどう整理してわかりやすく伝えたらいいか、そこはやはりすごく悩みました。考えて考えて、やっといきついた表現が「本当の幸せと幸せのようなもの」だったのです。

 

「ようなもの」は「違うもの」のこと

 

とみ これは人間の本質的な真理だと思います。これに反論する人は、申し訳ないけれど、深く物事を考えていない人ですね。深く思案すれば、誰もが「本当の幸せ」への悟りに到達するはずなんです。そう考える人が、このごろちょっと増えてきたように感じます。残念ながらこの日本には、まだ「ようなもの」を探求する人々もいますけどね。

高木 価値観を変える人は増えてきています。今回の震災も、「幸せのようなもの」を手放す、一つのきっかけになるかもしれないと思います。

とみ これからは、多くの人が『地球村』的価値観になっていくと思います。また、ならざるを得ないと思います。「幸せのようなもの」を求めると、ますます個人も社会も不幸せになるからです。

高木 幸せのような社会、便利なような社会など、「ような」がついているときは、それはニセモノです。「ような」は「違う」という意味なんです。ここがわかれば、「本当の幸せ」がわかります。

 

劇画を通して本当の幸せを伝えたい

 

高木 とみさんは、時代物の劇画を描かれているんですよね。

とみ そうです。まあ、江戸時代は、改良の余地はたくさんありますが、持続可能な社会だなあと思います。

 

高木 戦争もなく260年続いたというのは、すばらしいですよね。不平等はありましたが、自給自足の社会だったのですから。

 

 

とみ 巨大な貿易がなかった時代です。人類は巨大な貿易をやったらいけないと思います。高木さんのお話を聞いたとき、それが腹に落ちました。

高木 僕も江戸時代はすごいと思います。100点満点ではないにしても、90点以上だと思います。

とみ たしかに90点でしょうね。高木さんの講演で、持続可能な暮らしとして農村風景の写真が出てきますでしょう? あの風景は懐かしいですね。小さい頃、おふくろが釜でご飯を炊いていて、僕も手伝いましたよ。ああいった暮らしのが幸せなのだと、今の人たちは忘れてしまっただけだと思います。

高木 とみさんのお仕事は、それを劇画でわかりやすく伝えることですね。主に、どんな作品を描かれているのですか。

とみ 侍もの、剣術ものが主な仕事なんですが、それ以外に、自分が世界に伝えたい仕事ってありますよね。昭和史や原始の仏教などの作品が、お金にならなくとも、自分の生きる目的として描いた作品です。本当の幸せ社会の実現には、こういう要素も必要だという思いで描きました。

高木 なるほど。真理を伝える仕事は大切ですね。

私もこうした事実を伝えているのですが、誤解されたり、攻撃されたりすることがあります。私が述べていることは事実なのですが、おそらく、自分が攻撃されている、自分の価値観や生活を否定されていると思われるからなのでしょうね。

とみ 人はその人の意識や価値観の中でしか物事を観ないですから。高木さんがそういう世俗を超えちゃった人だと理解できない人もいるものです。

高木 モノは持てば持つほど心が貧しくなり、事実が見えなくなります。手放せば手放すほど、自由になり、多くが見えてきます。

とみさんにはこれからも語り部として、私と共に「本当の幸せ」を伝えていってほしいと思っています。

とみ ぜひとも、いろんな形で伝えていきたいと思っています。

高木 私も年齢的には、(あとどのくらいできるのかな)と思うこともありますが、最期まで精いっぱいやりますので、共にがんばりましょう。

とみ そうさせていただきます。

高木 では、今後の予定を教えていただけますか。

とみ 僕は物書きですから、「原始の仏教」のようなものをこれからも伝えていきたいです。宗教は、たった4、5千年前に始まったもので、悲しいけれど真理ではなく、多くの宗教は迷信ですから、そこから解脱することも、本当の幸せにつながるルートの一つではないか思います。生まれてきた意味、本来の生きる目的を知るきっかけに、僕の本が役立つなら、とてもうれしいことです。

高木 今日は本当にありがとうございました。

 

■とみ新蔵ブログ

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