【巻頭言】震災から半年、いま伝えたいこと
★日本の国民性でしょうか
私は講演で、よく次のような質問をします。
「日本は、食料の自給率が低いです。なぜだと思いますか」
「日本は、ごみの量が多いです。なぜだと思いますか」
「日本は、無駄な巨大公共事業が多いです。なぜだと思いますか」
「日本は、国民投票がない。脱原発が進まない。なぜだと思いますか」
多くの方は「政治が悪い、社会の仕組みが悪い」と答えられます。
私がまた「なぜだと思いますか」と聞くと、「政治家が悪い」と答えられます。
私がまた「なぜだと思いますか」と聞くと、「国民が悪い」と答えられます。
私がまた「なぜだと思いますか」と聞くと、「教育が悪い」と答えられます。
私がまた「なぜだと思いますか」と聞くと、「社会が悪い」と答えられます。
私がまた「なぜだと思いますか」と聞くと、「政治家が悪い」と答えられます。
私がまた「なぜだと思いますか」と聞くと、「国民が悪い」と答えられます。
あれ?
あらためてお聞きします。「なぜだと思いますか」
このことは一旦ここで留めて、最近の大きな話題について書きます。
たぶん、この中にその答が見つかると思います。
★世界の金融不安
8月5日、アメリカから始まった世界同時株安は、リーマンショック以来最大の下げ幅で、8月10日までの数日で、各国で10%以上の大幅値下げとなった。日本株も全面安、毎日20兆円以上目減り、数日で100兆円が消えた。これは、国民1人当たり100万円を失ったことになる。
100兆円といえば、今回の東日本大震災の被害総額に匹敵する。
東日本大震災については、「自分は被害は受けなかったから関係ない」と思う人もいるだろうが、そうではない。増税(復興税)、電力料金のアップ、日本経済全体への打撃(売上の減少、給与の減少、年金や保険や配当の減少)として、この100兆円は全国民が「1人100万円」を負担することになる。
今回の世界同時株安についても、「自分は株は買っていないから関係ない」と思う人もいるだろうが、そうではない。世界経済全体、日本経済全体の打撃として、この100兆円も全国民が「1人100万円」を負担することになる。国の大きな損失は、当事者だけではなく国民全員の被害なのだ。
無駄な公共事業も、社会の問題点(原発、天下り、ゴミ、車検など)も、結局自分に降りかかってくるのだから、大いに関心を持ち、大いに発言しないといけないのです。
★福島原発 その後
大事故から半年たったが、収束が見えない。
チェルノブイリ事故では、二日目に5000トンのホウ素、砂、粘土が投下され、さらなる水蒸気爆発を避けるために地下水槽の水を人手で空にした。
三日目には、核分裂減速材(鉛)を大量に投下した。
36時間後には地域住民の強制避難を始め、1週間で10万人の避難が完了した。2ヶ月後には、80万人の決死隊を募り、石棺の建設が始まり半年で完成した。
連でさえ25年前の事故では、それくらいのスピードで対策を打ったことを考えると、今回の日本の事故対応はあまりに遅すぎる。
ソ連の決死隊の被爆死者は10万人、その後のガンなどによる被爆死者は100万に及んだが、もし日本のような対応なら、もっと大きな犠牲が出ただろう。日本では、決死隊も募らなかったし、強制避難もしなかったし、スピード対応もなかった。
政府も保安院も東電も、「直ちに危険とは言えない」と繰り返すだけで正しい情報を隠したが、その結果がどれほど高くつくか、だれも想像ができない。
★なぜ日本では・・・
先進国のほとんどで「脱原発」が進み、世界全体でさえ、自然エネルギーが原子力を超えたのに、なぜ日本は自然エネルギーが1%レベルなんだろう。
これまで政府(自民党政権)は、「自然エネルギー推進」などと言っていたが、実際は、最も価格が高い太陽光発電だけを推進し、もっと安価な自然エネルギー(水力、風力、地熱など)は推進せず、買い取りもしないなど、普及できない仕組みを作ったのは、「原子力村」(電力会社、電力族議員、経産官僚、御用学者)だった。
これにドン・キホーテのように1人で戦いを挑んだのが、菅総理だったとも言える。菅さんを非難する人は多いが、実際に、菅さんがやってきたことを思い出せば、この意味が分かるのではないだろうか。
浜岡原発の停止、玄海原発の再稼働の停止、エネルギー基本法の白紙、発送電の見直し、「脱・原発依存」発言、エネルギー基本法の中間発表、保安院を経産省から分離し安全委員会と統合、再生可能エネルギーの買取法案など。
★再生エネルギー買取法案
ドイツでは、この法案が10年以上前に成立したことで、市民発電などが広がり、「脱原発」が加速した。先進国のほとんどは電力は自由化され、競争により経営の合理化、電力料金が安くなり「脱原発」が進んだ。
日本でもこの法案が通れば、自然エネルギー比率が上がり、「脱原発」が進む。「原子力村」(電力会社、電力族議員、経産官僚、御用学者)の強い反発は必至だが、この法案が通らないと、「脱原発」に必要なステップである「発送電分離」「企業の独占禁止」「地域の独占禁止」に進まない。
★菅総理辞任
菅総理は「辞任三条件(今年度第2次補正予算案の成立、再生可能エネルギー特別措置法案の成立、特例公債法案の成立)」を決めて、その実現を待って退陣するだろう。菅さんは、みんなに「とうとつ」「根回しなし」「ぶれる」「居座る」と非難されながら、とにかくここまでやった。
これをどう評価するかは、次の総理の腕しだい。
次の総理候補は、どなたも、菅さんほどの信念もポリシーも見当たらない。
下手すれば、自民党、公明党と妥協を重ねて、菅さんがこれほどがんばって付けた道筋さえ壊しかねない。私はそのことを、強く強く懸念している。
★なぜ日本は・・・
考えれば、20年も前、社会党が自民党と連合与党を組んだ時、それまで社会党が主張していた「日米安保廃止」「原発破棄」「自衛隊破棄」の実現を期待したが、なんと社会党は、それをすべて撤回して自民党に寄り添った。
国民の期待を裏切ったことが、その後の社会党の崩壊につながった。
2年前実現した民主党への政権交代も、国民は同じような裏切りを感じている。「一体なぜ?」おわかりだろうか。
日本では、国民が政治に直接タッチできないからなのだ。
・総理を決めるのは国民ではない
アメリカ、フランス、韓国など多くの国では、大統領や首相は国民が直接選挙で選ぶ。日本は与党が決める。だから、国民は首相に対して責任がないし、首相も国民に対して責任がない。
菅さんは、何をしようとしても、野党(自民党、公明党)だけではなく民主党からも内閣からも反対される。根回しはできない。与野党から「権力の座にしがみついている」と非難されたが、そうではない。国民に直接訴えようとしたのだ。これは、オバマ大統領がアメリカ国民に訴えるのと同じやり方なのだ。国民から選ばれたトップには、これができる。ところが、日本の総理は国民ではなく、与党議員が選ぶ。だから与党議員には逆らえない。だから、これまでの総理は与党(自民党)の意向に反する政策は打てなかった。
小泉さんは「自民党をぶっ潰す」と言ったが、実際には、与党の理解と協力の中でのパーフォマンスであった。だから「小泉劇場」と呼ばれたのだ。
それに対して、菅さんは、与野党の多数派(原発推進)を敵に回して「脱原発」訴えたのだ。だから、根回しできない、唐突にならざるを得ない、発言を変えざるを得ない状況だったのだ。総理は国民に直接訴えるしかなかった。しかし国民の大きな応援が無いまま、反対勢力に屈したのだ。
・どうすればいいのか
日本は大事なことを国民が直接意思表示できない。国民が決められない。
という仕組みがある。そのことが、結果として、多くの国民が「どうせ社会は変わらない」「どうせ政治は変わらない」「自分は何もできない」と思い、無知、無関心、無責任になる。この長年の仕組みを変えないといけない。
★国民投票
大事なことは国民が直接決める。それが国民投票なのだ。
そのためには、投票の前には十分な期間を設け、「情報公開」「国民的議論」が必要だし、現状のような「やらせ」「隠ぺい」「情報操作」は論外である。
国民投票での重要なテーマは、次のものだと思う。
①首相は国民が選ぶこと
日本の首相は与党議員が選ぶから、首相は与党議員のご機嫌取りだった。
民主主義の国ならば、首相は国民が選ばなければならない。
②原発
「原発の継続」を国民に問うた国はほとんど「脱原発」を実現している。
日本はすぐ原発廃棄は難しいとしても、「脱原発」を決め、その実現に向けて工程表を作り、自然エネルギーに進むべきである。
★<緊急提言>大連立は最も危険
民主党総裁選に数名が名乗りを上げている。誰一人明確な方針を出していない中で野田氏だけが「大連立」を打ち出している。
これは最も危険である。なぜなら、民主党への失望は、自民党が長年築き上げた利権構造を改めようとして、うまくいかなかったことばかり。
いま「大連立」を組むのは、民主党が自民党にすり寄ることであり、以前の社会党(自民党と連立政権を組んだこと)と同じで、民主党が消滅するだけでなく、国民の声や意識を封じてしまうことになる。
野田氏はNO!大連立はNO!