2011年11月号 GNH研究所 平山修一さん
平山さんは、青年海外協力隊としてブータン王国に赴いた際、プナカ市の寺院の改修に尽力。
4年半前からは、タイ王国内務省地方自治体振興局に、国際協力機構長期専門家として勤務しています。
ブータンツアーの直前に、平山さんから「お会いしたい」とメールが届き、ブータンからの帰路、タイの空港で会うことができました。
ゾンを改修した日本人
高木 はじめまして。メールありがとう。やっとお会いできましたね。ブータン滞在中、通訳のジュルミさんから、プナカゾンの改修をした日本人建築家として、あなたのお名前を伺いました。
平山 本当ですか。それはうれしいなあ。
高木 伝統あるゾンの改修に関わることになったのは、どんな経緯だったのですか。建築家であっても寺院建築が専門ではないのでしょう?
平山 私は長谷川工務店で施工関係の仕事をしていました。たまたま入社5年目に、青年海外協力隊(JICA)に、会社在籍のまま参加できるという話があったので、応募したんです。
高木 大きい会社はそういうところがいいね。私もパナソニックに在籍のまま、『地球村』に出向していた時期があるんですよ。
平山 それはすごいですね。私はニカラグアの職業訓練校の先生がやりたくて手を上げたのですが、JICAでは、「君は海が好きか」と聞かれて、「はい!」と答えたら、ブータンに派遣されたんです。
高木 なんでやねん!(笑)
平山 そうなんです。まったく海がないブータンですから意味不明ですよね。それでブータンに赴任したら、ゾンの改修の話が出て、「建築家なら、なんとかできるだろう」と言われて、「やれと言われるならやります」ということで、引き受けました。
高木 おもしろいなあ。ジュルミさんは「平山さんが明かり取りの窓を作ってくれたおかげで、内部が明るくなりました」と話していましたよ。ブータン人に喜ばれる仕事ができてよかったですね。
開発と破壊が進むブータン
高木 今回私たちは、西ブータンのパロ、ティンプー、プナカ辺りを回りました。首都ティンプーは開発ラッシュだったし、市内はゴミの投げ捨てが非常に多かったし、ゴミの処分は山の中に捨てるだけ、埋めるだけという乱暴なものでした。
ツアーの仲間は、桃源郷としてのブータンをイメージしていた人も多く、ショックを受けました。都会に人が集まり、地方と格差ができ、豊かさを求めて環境がどんどん破壊されていく、日本や他の先進国がたどった過ちを、ブータンも繰り返しそうな不安を感じました。平山さんはその辺り、どのように捉えていますか。
平山 同感です。私が初めてブータンに行ったのは93年ですが、当時はプラスチックもないし、何を捨てても土に還るものばかりでした。
その頃の癖が抜けないのかなと思います。彼らは今、消費文化に足を突っ込んだばかりですので、自分たちのお金で使い捨てをすることも楽しいのでしょうね。それを、先見の明を持って、何か言ってあげる人はいないのかなあと、少し残念に思います。
高木 そうですね。ダメなものはダメだと言ってあげる人が必要です。私も、しばらくブータンに通って、顧問をしたいと思うくらい、強い危惧を感じました。
平山 ぜひ。彼らには、いいアドバイザーがいないんです。日本人が行っても、ほめ言葉ばかりで、本当に辛口の言葉を言う人がいないように思います。
私は5年くらい前から、辛口なことばかりいっています。それで、仮想空間として「GNH研究所」を立ち上げたんです。
彼らに、いろいろキツイことを言わなくてはならないし、その返す刀で、日本も変わらなければならない。
日本が変わり、充実した生き方を見せてあげ、「実はブータンの考え方を取り入れたんだよ」と彼らに伝えることで、「そうか。俺たちの生き方が手本なのか」ということをやりたいなと思っているんです。
高木 それはいいですね。私も賛成です。平山さんに協力して、なんとかしたいなあ。
子どもには何を残せるか
高木 GNH研究所は、どれくらいの人数で、どんな仕事をしているのですか。
平山 全体で研究員・会員を合わせて約100名(ブータン在住が4人)いて、その人たちで会合をもっています。活動としては、スタディツアーを行ったり、ブータンに関する本を作ったりしています。
高木 なるほど。私は、首都ティンプーのごみ処理や開発ラッシュに問題を感じますので、市役所の環境部に改善を働きかけたいと思っています。それとブータンの自然を守るために、ブータンの環境保護団体の支援も考えています。
平山さんやGNH研究所としては、今後どんなことを考えておられますか。
平山 私は、これからは女性の力が大切だと思うんです。子どもたちはお母さんの姿を見ている。だからお母さんたちが「自分は子どもに何を残していけるか」という観点で立ちあがったらいいと思う。
こういう考え方は、先生の書かれたものを読んでわかったんです。原発にしても、自分が責任の持てないようなものを、将来の子ども世代に引き継ぐのはよくない。自分で処理できないものを子どもに残してどうなる。体を張ってでも止めないと。そういう観点で女性たちが立ちあがれるように、何かお手伝いをしてあげたいと思います。
高木 私も同感。ブータンは小さな国だけど、先進国がめざしてきたことのアンチテーゼとして成功したらいいと思う。
日本が間違ったままでは説得力がないから、日本の方向転換も働きかけないといけない。こういうブータンプロジェクトを強力に進めるために、ぜひ連携していきましょう。『地球村』とGNH研究所もリンクしましょう。
ところで、どうして私のブータン行きを知ったのですか。
平山 先生のことは、愛知万博の頃、紹介してくださる人がいて、それ以来、本なども読ませていただいています。
今回のことは、毎日メルマガ(一日一善之)で知りました。毎朝メルマガを読んで、「きょうも一日がんばろう!」「今日も笑顔で!」と元気をいただいています。
高木 ああ、そうでしたか。お会いできて本当に楽しかった。ぜひ、虹の天使になってください。今後とも、よろしく!
■GNH研究所
著書に
「ダワの巡礼」(11月中旬発売)など。