2011年12月号 里山ライフ研究所理事長 吉川宏一さん
建築家で空間プロデューサー、『地球村』の理事である吉川宏一さんは、滋賀県高島市でソルビバ農園を運営し、オーガニックレストランや里山カフェを提案してきました。
そして現在では、より多くの人たちが農的生活を楽しめるようにと、農地を解放して「みずそら(湖空)の里 自然農園」をスタートさせ、自然農による自給自足生活を呼びかけています。
不耕起の棚田作りスタート
高木 前回の対談から6年になりますね。その後の棚田の進展を教えていただけますか。
吉川 高島市で耕作放棄田を開墾して、1町5反の棚田を始めました。
棚田は効率が悪いので、それだけでは食べていけません。
そこで、棚田の有機農法で作った食材を使うレストランとセットにすることで、食べていける農業を目指したんです。
次に農法を考え直しました。トラクターで田んぼを耕すと、ミミズが掘り出されて大量に死ぬんです。「それがいいんだ。ミミズがいる田んぼはいい田んぼだ」と有機農法の方はおっしゃるのですが、素人の私は、それがどうも気持ち悪くて。
そんな時、川口由一(よしかず)さんの本を読んで、自分の中で合点がいったんです。たまたまスタッフに赤目自然農塾(川口さんの自然農法塾)に通っている人がいて、3年前にその方法でやってみたら、ちゃんとできたんです。
私も興味がわいてきて毎月1回1年間、赤目塾に通いました。そこで、「これはすごい! これや!」と納得して、1町5反全部を不耕起でやり始めました。機械は全く使いません。使うのは、クワ、ノコギリガマ、スコップ、あとは自分の手だけです。
高木 まさにローテクですね。それで収穫はいかがですか。
吉川 不耕起は、肥料を入れません。雑草を倒してそれが堆肥となって育つので、時間がかかるんですね。
うちで作っている大根や人参も、普通の3分の1くらいの大きさしかないです。ただ、耕さないので、不耕起なら週末だけの作業で済むんです。
以前、福岡正信さんが著書の中で、「国民皆農(こくみんかいのう)」ということを書いておられて、「国民がみんなで農業やればいい」というのです。
「そんなうまくいくかいな」と思っていたのですが、ほったらかしでいい不耕起なら、十分成り立つなと思いました。
週末エコビレッジを作ろう
高木 なるほど! 週末農家が増えれば、日本の自給率も上がっていくね!
吉川 1週間のうち5日働いて、週末は農業。週末に釣りに行って喜んでいた人が、大根を引き抜いて楽しむようになればいいだけです。
ソルビバ農園では、自分たちがエコビレッジとしてやっていけるだけの農地を残して、残りは「農業をやってみたい」という都会の人たちに開放することにしました。
それが「みずそらの里 自然農園」です。
ロシアには、ダーチャという農園付週末住宅があるんです。
ソ連時代、土地は個人の所有にはなりませんでしたが、ダーチャだけは特区が認められたんです。モスクワ市民は週末そこへ行って農業をして過ごした。
ソ連が崩壊したときも、ダーチャのおかげで食いつなぐことができた。この仕組みを日本でやれたらいいのではないかと。
高木 ドイツにもそれとよく似た仕組み、クラインガルテンがあるね。
吉川 はい、日本の中山間地(平地以外の山間に及ぶ農業地域)では、どんどん高齢化で農業を辞めていっている。
かといって先祖代々の土地だから、売ったり貸したりはできない。
実は中山間地は非常に水がいいし、いい作物ができるんですけれど、ほったらかしになっている。
そこにダーチャを作れば、地代は入ってくるようになる。
建物はキャンピングカーのようなものなら法律面(建築法)でも大丈夫。週末版エコビレッジができれば、農業をやりたい人は潜在的にたくさんいますから、そういう人たちに喜ばれる。
中山間地を救うことにもなり、環境も守れる。いいことづくめです。
高木 すごい! いいアイデアだあ! 打ち捨てられてきた田畑にとって起死回生のアイデアだね!
吉川 さらに、そこに老人施設を作ったらいいと思うんです。都会は土地が高いので老人施設が少なく順番待ちです。
都会ではなく、週末農園がある田舎に施設を作る。
すると、地方に雇用が増える。
自然農を指導するインストラクターも必要になる。
孫たちが週末遊びに来て一緒に畑作業をする。
経済的にも成り立ち、おもしろいことができるのではないかと思います。
一つ成功すれば、モデルケースとなって、日本のいろんなところで応用できるようになります。
高木 すごい! いいね! 本当にいいと思う!成功例を作るために、私も応援するよ!
「学ぶ」から「使う」へ
高木 他に何か取り組んでいることがあれば教えてもらえる?
吉川 以前展開していたBar, isn't it?(バー・イズントイット)をiznt(イズント)として復活させようと思っています。
今回の震災で外国人がみんな帰国しちゃって帰ってこないんです。
日本に残っている人は、ほとんどが英語教師なんですが、不景気で学校もつぶれています。
そこで思いついたのですが、日本には、英語を習う人はたくさんいるのに、英語を使う機会がほとんどない。ラーニングイングリッシュの場はあっても、ユーズィングイングリッシュの場がないんです。
そこで、英語の先生を集めて、英語が使えるバーをコンセプトにしてみようと思っています。「外人バー」というのはあるのですが、ちょっとイメージが悪いでしょう? そこで、一般の人が気軽に英語を楽しめる場所にできればと思っています。
高木 おもしろいなあ! 聞けば聞くほど、吉川さんはアイデアマンだね!
最後に、『地球村』の会員のみなさんに、何かメッセージがあればお願いします。
吉川 高島市のソルビバ農園では、まだ6反の田畑が貸せますので、一緒に農業をしませんか。
赤目塾と同じやり方をしておりますので、自然農を勉強されたい方もどうぞいらしてください。
高木 農法のこと、週末農園のこと、店のこと、英語のこと、吉川さんのお話はアイデアいっぱいで楽しいですね。
今年、還暦だそうですが、まだまだフレッシュで若いね。
また、お話に来てください。
吉川 いえいえ、こちらこそありがとうございました。
■ソルビバ農園
■iznt(神戸三宮で12月中旬オープン予定)