スペシャル対談

2012年1月号 漫画家 山田玲司さん

チベットの高僧から歌舞伎町のホストまで、世界で最も多くの人に話を聞いている漫画家・山田玲司さんは、『絶望に効く薬』や『ゼブラーマン』などの漫画作品以外にも、『非属の才能』『キラークエスチョン』『資本主義卒業試験』など、新書版による思想的な作品も次々発表しています。久しぶりの対談は、幸福論が語られました。

 

この国は何かおかしい

 

高木 やあ、久しぶり!

山田 久しぶりです!何年ぶりでしょうね!

高木 『絶望に効く薬』の取材がきっかけで、ジョイント講演や、てんつくマンの「豪快な号外」に協力して以来だね。
じゃあ、まず知らない方のために、『絶望に効く薬』の説明をお願いしようかなあ。

山田 当時、一日に89人が自殺するというデータを聞いて、「この国はおかしい。解決策を探そう。その答えを持っていそうな人に会って話を聴こう」ということで始まったのが『絶望に効く薬』です。

高木 週刊『ヤングサンデー』の連載で若者たちに人気だったね。その関係では、何人に取材したの。

山田 400人くらいです。みんなが幸せになれるヒントを持っていそうな方なら、宗教家、スポーツ選手、ホスト、ありとあらゆるジャンルの人に会いました。

高木 『地球村』との出会いは、いかがでしたか。

山田 衝撃的でした。環境には関心もあり、知識も持っているつもりでしたが、知らないことばかりでショックでした。高木さんの実践や生き様も衝撃でした。特にありがたいと思ったのは、具体的な実践を教えていただいたことです。温暖化などの環境問題にも、方向を明確に示していただきました。

高木 それはうれしいな。現在は、どんな仕事をされていますか。

山田 社会的、哲学的なものは新書で書いています。あとは、ビッグコミックスピリッツで『美大受験戦記アリエネ』、FLASHで『新・絶望に効く薬』を連載しています。

 

心が変われば社会も変わる

 

高木 最近の話題として、原発やTPPについては、どんな認識ですか。

山田 86年から、反原発の集会には行っていました。ただ、原発のことを漫画に描くことはタブーでしたから、雑誌社の方でも自粛していましたね。

高木 マスコミにはタブーはあるけど、雑誌社にもタブーがあるんだね。

山田 原発は特にひどかったです。

高木 現在、変化は?

山田 事故後は、書けるようになりましたね。

高木 たくさん書いて、若者に発信してください。

山田 僕の仕事は炭鉱のカナリアで、警告する役目だと思うんです。今は書店に行っても、「原発は危険」って本ばかりですし、福島の原発事故は悲惨でしたが、これから全国の原発は放っておいても止まると感じています。

高木 ええっ? とんでもない! 野田政権に変わってから原発再稼働、原発推進が表面化しているし、インド、ベトナムなどへの原発の技術協力や輸出協定などを進めたい、山口県上関原発の町長選挙でも推進派が勝利するなど、まずい方向に動いているよ。

山田さんには、「原発」の危険性や事実について、まだまだ書いてもらいたいなあ。

山田 実は、温暖化の漫画を描いたとき、何をどう描けば、人を変えることができるのかと考えました。その結果、僕の仕事は、事実を伝えて動かすっていうのとは種類が違うのだと気付きました。もう少し深い部分、本質的な心の問題、哲学の問題、アートな領域が、僕の仕事だとわかってきたので、それを今後の仕事にしようと思っています。

高木 心の問題の方が大切だというのは私も同感だよ。私も講演や本を通して、そのことを伝えているよ。「人は何のために生まれて、どこへ行くのか」そこがわかったら、原発も環境破壊も経済戦争もなくなるはず。

「TPPという名のバスに乗り遅れるな」という愚かな話も出てこないはず。

山田 そう思います。TPPは、グローバリズムの最後の悪あがきですよね。

高木 そう。しかし、そのことで、農業に限らず、医療、福祉、金融など、取り返しがつかないほどのダメージを受けると思う。未だにそれがわからない政治家や官僚は、愚かとしか言いようがない。

ところで山田さんの『資本主義卒業試験』を読んだよ。あれは、いいアイデアだね。面白かった。

山田 読んでいただきましたか。うれしいです。あれは、どうしても書きたかったテーマです。「成長では幸せになれない」「稼いだらダメだ」という逆転の思想が起こっていることを、もっと伝えたいし、楽しまないといけないと思ったんですよ。

高木 そうだね。人間は「万物の霊長」なんて威張っているけど、サルは人間のようなバカなことをしないから、サルの方が賢い。

一番賢いのは、十億年も絶滅せずに生き残っている単細胞生物だろうなあ。

 

先代からの幸せを実感

 

山田 ところで、高木さん。100年後はどうなっていると思いますか?

高木 現代文明は100年もたない。もっと早く終焉を迎える。

人口増加、食糧、エネルギーの枯渇で世界は一変。アメリカと中国の軍事的衝突で、人口は激減。2050年は江戸時代だろう。

山田 そうですよね。70億人は養えないんですよね。僕が「みんなのために」って考えたとき、そこに矛盾が生じてしまうんです。公平な分配はできない…助けるって何だろうって思うんです。

高木 だから、破局を迎えるまでにエコビレッジ(『地球村』、つまり自給自足のコミュニティ)を作らないといけないんだ。

山田 私も、最小限の食べ物や、お金もない状況になっても幸せを感じる人になりたいし、そういう人間を増やしていきたいです。僕はその役に立ちたい。

浮世絵には、雨の絵や雪の絵も多いんです。枯山水も、枯れているのを愛でる精神性があったんです。先祖代々みんな詩人だったと思います。

今後、起こりうる惨劇に対して、肯定的に生きる心の準備をアートを通して伝えていきたいです。世の中が変わっても大丈夫だよと。

高木 めざすところは同じだね。ぜひまたジョイント講演をしよう。その時はよろしく。きょうはありがとう。

山田 よろしくお願いします。


■山田玲司 公式サイト

「絶望に効く薬 on the web」
 http://www.zetsuyaku.net/