スペシャル対談

2012年6月号 前岡山県総社市市長 竹内洋二さん

昭和53年から岡山県総社市議会議員を4期務め、平成10年、総社市長に当選。

平成17年、総社市・山手村・清音村が合併、新「総社市」の初代市長に当選、平成19年に辞職。
その後「無農薬米を作ってみたい」と、専業農家に華麗なる転身を遂げ、今年で米作り4年目を迎えました。
昨年は、自慢のお米を地球村の「応援米」として被災地に届けています。

 

環境が一番大事」を市政に

 

高木 こんにちは。昨年は「応援米」でお世話になりました。

まずは、『地球村』との出会いから教えていただけますか。

竹内 高木先生のお話を初めて聞いたのは15年くらい前です。
それからは、環境が一番大事だという意識が芽生えてきて、市長になって2年目、平成12年7月に環境課の職員と2人で、西ドイツのフライブルクに視察に行きました。
当時、ドイツでは、原発も新設はしない、今ある原発は順次止めていく、多少コストがかかってもクリーンなエネルギーに替えていく、既にそう決めていました。

高木 原発の大きなリスクを考えれば当然の判断ですね。
私も1990年頃、フライブルクに視察に行き、ショックを受けましたよ。
同じ敗戦国でも、ドイツ人はドイツを否定していない。
復興する時も、以前のままの町並みに戻しましたね。

竹内 その話は私も聞きましたよ。最先端の町にするか、昔ながらの町にするかを、住民が話し合って、「元に戻す」と決めたそうですね。
市街地は自転車と徒歩の人ばかりで、列車の最後尾には、自転車を積むことができるようになっていて、私も記念に自転車を1台買って、列車に積んでフランクフルトまで行きました。

高木 そうでしたか。で、その自転車は?

竹内 商社の駐在員の方が手配してくれて、後日、関空まで送ってもらいました。

 

環境重視の政策を実現

 

高木 では、市長時代の政策で、印象に残っていることを教えてください。

竹内 農業と環境を重視したことです。子どもたちに無農薬米の給食を提供しようと、地元の無農薬米1俵につき1万円上乗せして買い取るということを始めました。これで無農薬農業に弾みがついたと思います。

高木 それはいいですね。他には?

竹内 薪ストーブを市役所のロビーに置きました。県北部でペレットを作っているので、それを使うストーブを普及させたいと思って、アピールのために設置したのです。
他には、使用済みの天ぷら油を回収して、バイオディーゼル燃料(BDF)製造も行い、市役所の車に使っていました。

高木 海東英和さん(前滋賀県高島市長)も、菜の花プロジェクトなどで、がんばっていましたね。

竹内 そうです。海東さんのところには視察にも行きました。
あとは奈良県の川口由一さんのところにも、無農薬農業の勉強に行きました。
私がリタイア後に、無農薬米を作ろうと思ったのは、川口さんからご教授いただいたせいかと思います。

高木 無農薬米、薪ストーブ、BDF、その他に何かありますか。

竹内 公共工事にも、環境を重視する工法を取り入れるようにしました。
この川も、コンクリートの3面護岸から、2面にして、その2面も石積みにしてもらいました。
護岸は県の事業でしたが、多自然型工法でとお願いしたら工法を変えてくれ、国土交通省も護岸工事は石積みにしています。
これが岡山県全体に波及したと思います。

高木 それはすごい。トップが「環境重視」というビジョンをきちんと持って進めれば、公共工事を変えることもできるのですね。

 

人間も野生化したらいい!

 

高木 ではいよいよ、元市長さんの専業農家への華麗なる転身についてお聞きしたいです。田畑は元からお持ちだったのですか。

竹内 畑は少し持っていますが、田んぼはありませんでした。

高木 米作りは初めて?

竹内 みんなに笑われましたよ(笑)。「米を作ったこともないくせに、無農薬米なんかできる訳ない」って。
女房にも反対されましたが、聖路加国際病院の日野原重明先生が「現代人の肉体は130歳まで生きられる。65歳が折り返し。
後半の方が楽しい」と話しておられるのを聞いて、「自分も後半戦を思う存分楽しんでみたい。
やりたいことをやらせてくれ」と無理やり説得して始めました。
田植え機、トラクター、コンバイン、乾燥機、脱穀機、全部揃えました。
JAに頼めば乾燥機は必要ないのですが、せっかく無農薬で作ってもよそのお米と混ざってしまうのが嫌なので、農機具は全部自前で揃えることになりました。

高木 総額いくらくらいですか?

竹内 1200万円くらいかかりました。たまたま、所有していた山が、「老人ホームを作るから」ということで、渡りに船というか、絶妙のタイミングで売れました。
そのお金で農機具が買えたんです。田んぼも1年目、2年目と少しずつ増えて、昨年は5.5ヘクタール。今年は体力の限界もあって、少し減らしもらい、3.6ヘクタールくらいです。

高木 無農薬農業はいかがですか。

竹内 これは川口さんから教わった方法なんですが、水をやらずに発芽させるんです。100粒撒いて40粒くらいしか成長しないけれど、それがものすごく逞しい。
「これは稲か! 稗(ひえ)じゃないのか?」と、近所のお年寄りがビックリするくらいです。
育った苗は、1本植えをするんです。1本植えだと、360度あらゆる方向に自由に分蘖(ぶんけつ)できるから強いのです。
川口さんいわく「自然の摂理に戻してやれば、稲が野生化する。野生化した稲は1本でも強くなる」。
これは多分、人間もですね。ハングリーに、スパルタに育てた方が、逞しく育つ。

高木 私も昔、そういう農法を勉強したことがあるのでわかりますよ。
草に負けずに育った稲は逞しいし、頭も垂れないくらい強く、台風にも負けません。

人間も、例えばアフリカでは子育ての悩みなんかない。
子育てもしていない。
子どもは5人も10人もいて、勝手に育つ。
弱い子は死ぬ。そういうものです。

では最後に、これからの夢をどうぞ。

竹内 農業は、ライフワークとしてこれからもやっていきたいです。
他にも、私が必要とされる場面が出てきたら、滅私奉公で働きたいと思います。

高木 滅私奉公かあ!すごい言葉ですね。たしかに聞きましたよ。
では、今後もお願いしたいことがあれば連絡します。
よろしくお願いしますね。