スペシャル対談

2012年9月号 地球サミット2012Japan代表 佐藤正弘さん

省庁や自治体の職員、会社員、NGO職員、社会起業家、作家、研究者、学生などのボランティアによって構成された「地球サミット2012 Japan」の代表を務めているのは、元内閣府職員で、京都大学の准教授の佐藤正弘さん。市民が主役の社会を、市民自身によって作る、という夢を持っています。
 

リオから20年、MSPの導入

高木 こんにちは。国のキャリアの方の登場は初めてですよ。1年ぶりですが、現在のポジションは?

佐藤 京都大学経済研究所の准教授として、環境と経済の研究をしています。

高木 京都大学には出向ですか?

佐藤 形としては辞表を出しているんですけれど、任期が終わったら霞が関に戻ることになっています。

高木 リオとの兼ね合いで、そういうことに?

佐藤 いえ、リオに向けた活動は、政府とは関係ないプライベートの活動です。また、自分の研究も兼ねています。

高木 となると、あなたのご専門は。

佐藤 僕の専門は環境経済学で、経済学の視点を持って持続可能性を考えることが仕事です。また、政府では、マルチステークホルダー・プロセス(MSP・多種多様な利害関係者が対等な立場で参加し、協働して課題解決にあたる合意形成の枠組み)を、日本に導入していく仕事を行いました。

高木 導入というと政府にはMSPがなかったの?これは20年前から基本的な考え方でしょう?

佐藤 おっしゃる通りです。しかし残念ながら政府のガバナンスというのは、有識者会議や審議会などで、有識者に専門的なご知見からご提言をいただいて…実際は我々が下書きして、政策に移していく仕組みです。しかし有識者はあくまで有識者。これからの社会づくりには、NGOや消費者や企業など、当事者が参加することが大切なのです。

高木 MSPを導入してみてどうでしたか。

佐藤 MSPは成果も大事なんですが、プロセスやソーシャルラーニング、学び合いが重要だと思っていて、政府にMSPを広めていく、一つのきっかけになったと思います。
 それを体験した上で、この原点はどこにあるんだろうと思ってさかのぼっていくと、実は20年前にリオの地球サミットに人類が集まって大きな会議をして、持続可能な発展の概念と共に打ち出されたのが、この考え方なんだとわかりました。



市民を政策現場の中心に


高木 なるほど。どころで、あなたの専門の領域の話題だけど、GNPが上がることってどう思っていますか。私は当然、よくないことだと思っています。

佐藤 GNP自体がいけないとは思わないけれど、豊かさのモノサシとしてそれを信奉するっていうのは、間違っていると思います。
GDPもGNPも、統計の数字でしかないし、僕の所属する内閣府というのは、まさにGDPを計算して公表している役所なんですが、一方で70年代くらいから、経済成長だけを追い求める政策が、地球にとってもよくないし、人々の心にとってもよくないし、それを信奉して政策を組むことで政策を大きく誤ってしまうという認識も出てきたんです。
ブータンのGNHもですが、「ビヨンドGDP(GDPを超えて)」といってGDP成長に頼らない新しい豊かさ、人々が心豊かになっていくという意味での発展のビジョンが、今、求められていると思います。

高木 そうかあ、よかった、よかった。そうでなきゃあ。でもね、キャリア組の中には、「やっぱりGNPは上げないといけない」と思っている人も多いだろうね。「GNPではなく、幸せの指標が必要だ」と思っているあなたのような人は、全体の何割くらいなんだろう?

佐藤 1割もいないと思いますね。

高木 1割以下か…。一般市民はもっと気が付いているよ。半数は気付いていると思う。そう考えると、キャリアって頭が悪いんだろうなあ。

佐藤 そうですね。僕が政府に入るとき、原点となる想いが2つありました。1つは環境、1つは阪神大震災。僕は関東なので被災したわけじゃないんですが、老若男女の市民ボランティア100人にインタビューする機会があって、その熱意や責任感、ビジョンに感動したんです。
キャリア組は頭が悪いという話につながるのですが、キャリア組は、先にモデルがあって、「アメリカを真似をする」ということなどには、とても優秀です。ところが、新しいビジョンを生み出すことは苦手なのです。
それには市民の優秀さが必要だと思います。その市民の優秀さを政策の現場の中心にしたいというのが、僕のもう一つの想いで、MSPはその一つとしてやりたかったんです。

高木 なるほど。異色のキャリアであるあなたが失脚せず、その試みが成功することを願っているよ。

国民が決める日本の未来

高木 ところで国の莫大な赤字について、霞が関のキャリアたちはどう考えているんだろうね。

佐藤 財務省の人々は、財政赤字については大きな問題にしています。この数十年間、削ろうと努力し失敗し続けているのです。国の借金をどうするかは、国のビジョンと国家予算を政治が決めて、それを国民が支持すればいいのですから、最終的には国民の問題だと思います。
ただ今までは、国民が政治的な選択をしてきた成功体験がなかっただけで、一度経験すれば、日本国民も変わっていくと思います。

高木 その通りだね。今、好機が来ていると思うし、国民が国家赤字の事実を知れば、稼ぎよりも大きな借金生活を続けているべきではないと納得するだろうし、政治が決め、国民が支持すれば、財務省は従うしかない。可能だよね。

佐藤 可能です。

高木 あなたが可能だといってくれると、キャリアも捨てたもんじゃないって希望が持てるよ。

佐藤 僕も、高木さんが提唱されている『市民国連』のようなものが生まれていくことが希望だと思っています。日本から新しい幸せのモデル、指標を提示していきたいです。それを作るのは地域で、国が作るのは、自殺とか健康とかの最低限の不幸せ指標でいいと思います。

高木 おもしろいね、その考え方は。これ以下の生活にならないよう、国民を守るのが国の役目だね。そういえば、今度、幸せのモデルを見に行く予定なんだ。11月、キューバツアーに行くよ。一緒に行かないかい。資料を差し上げますから考えてね。

佐藤 はい。いただいていきます。

■地球サミット2012Japan

http://earthsummit2012.jp/home.html