スペシャル対談

2012年10月 埼玉県所沢市市長 藤本正人さん

昨年10月に埼玉県所沢市長となった藤本さんは、「東日本大震災、そ して原子力発電所の事故。あのとき誰もが他者を思い、自己をみつめ た。あのときの気持ちを忘れてはいけない。便利さや快適さをひたす ら求めてきた私たちにこそ責任がある。今変わらないで、いつ変わ る!」と訴え、「マチごとエコタウン所沢」の実現に向けて奮闘中で す。

 

便利快適から節度ある暮らしへ

 

高木 こんにちは。よろしくお願いします。まず、『地球村』との出会いから教えていただけますか。

藤本 そもそもは所沢のダイオキシン騒動(99年)です。所沢市で環境問題に関心が高まり、青年会議所で高木先生の講演会を開催しました。
当時、私も青年会議所のメンバーでしたので、妻と一緒に聴かせていただきました。
所沢で2回、浦和で1回、3回続けて講演を聴いて、「ああ、本当にその通りだなあ」と思って会員になりました。

高木 そこからずっと会員で?

藤本 はい。そこからは『地球村通信』を読むだけの会員ですが、以来13年間続けています。

高木 『地球村』の理念や考え方は、生き方や政治活動に生かされていますか。

藤本 それは大いにあったと思います。人間も自然の中で生かされているわけですから、「便利快適」という欲求を満たすために「科学技術で自然を克服できる」などと考えてはいけないと思います。そういう想いで、「足るを知る」というか節度ある世の中を目指して、議会活動をしてきました。

高木 議員になられて何年になりますか。

藤本 市議を8年、県議を9年、昨年10月に市長選に出ました。

高木 その間、環境への取り組みでは、どういったことがありましたか。

藤本 2008年の県議会で、コンビニ等の24時間営業の見直しを提案しました。当時、上田知事も動いてくださり、マスコミにも取り上げられました。
しかしマスコミは、若者をつかまえて「県はコンビニの深夜営業をやめましょうと提案しているんですが、どう
思いますか」と聞く。
そう聞かれたら「そりゃ、不便っすねー」と答えるに決まっているじゃないですか。
「24時間営業の便利さか、それとも地球破壊を避けたいか」と、問うべきだと思います。

高木 そうですね。マスメディアの無責任な情報操作や、意図的な世論誘導には困ったものですね。

 

自分たちが、まず変わる時

 

高木 市長に就任されてからのことを聞かせてください。
県議の途中で辞めたのですね。

藤本 はい、3期目の当選の半年後の市長選に出ました。
「節度を持って地球とつきあっていく」という想いで議員活動を行ってきましたが、大震災と原発事故が起きて、その想いは決定的になりました。
原発は東電の責任というよりも、国策で進められてきたわけです。
さらに東京の人たちがより便利快適に暮らすための電力を作ろうと、東北に原発を作ったのです。
あの事故を見た時、「これは、自分たちの贅沢な生き方が引き起こしたのだ。我々は加害者の一人だ」と思いました。

高木 そういえば東京圏には原発はないのですね。

藤本 4月と5月、石巻にボランティアに行って、「今こそ、人間の原点に帰ろう。思うより“動く”者の時代がきた」と思いました。
「この気持ちを市政に生かそう」と決意し、市長選に挑戦することを決めました。

高木 選挙戦はいかがでしたか。

藤本 接戦でした。震災直後の県議選の時は「しゃんとしていこう日本!―そして、大人が連帯を―」をスローガンに、「大人が真正面から子どもと向き合おう」「自然の中の人間。原点に帰ってしゃんと生きよう」と訴えました。
私の演説に涙を流してくださる方もいて、トップ当選できました。
しかし市長選は全く勝手が違いました。そういう理念や理想ではなく、具体的な政策、「何をしてくれるのか」が求められました。

 

マチごとエコタウン所沢へ

 

高木 わかります。議員と市長とは求められるものが違いますね。当選されて、その後、いかがでした。

藤本 「マチごとエコタウン所沢構想」という、環境に配慮したまちづくりを推進しているところです。これまでの「もっと便利に、もっと快適に」を見直し、持続可能な社会づくりに向けて、節電・省エネ、再生可能エネルギーの導入、太陽光発電、太陽熱利用など、コンサルタントに依頼して、24年度案を出してもらい、それを所沢全体でやっていこうという計画です。

高木 市民との協働はどのように進めていますか。

藤本 市民懇話会を開催しようと考えています。専門家を招いて学習会をしたり、意見交換を行おうと思っています。

高木 そういう市民が参加できる会議、それに「見える化」がとても大切ですね。市民の願いで、所沢が環境都市に育っていけるように進めていけたらいいですね。ところで、今、何かお困りのことはありますか。

藤本 実は、「ある中学校のクーラー設置中止」が問題になっています。
航空自衛隊の基地近くの中学校に、クーラーを設置することが決まっていたのですが、卒業生や元教員に意見を伺ったところ、「開校以来30余年、窓を開けて授業は行われてきた。一番暑い時期は夏休みなので大丈夫」との声をたくさんいただきました。
冷暖房工事にかかる国からの補助金と市費(合計3億円以上)はすべて税金です。さらに市費の半分は市の借金になります。国も市も極めて厳しい財政状況です。
クーラー稼働が予想される日数を年間30日として「一日48万円」。この税金の使い方は妥当なのだろうかと考えました。
結果、補助金も借金も断って、工事費用の一部を学校の相談員や支援員など「人」に回すことにしたのです。

高木 それは大英断でしたね。反発は出ませんでしたか。

藤本 出ました。1万6000筆のクーラー要求署名が届けられ、請願も出ています。でも今こそ、次の価値観、次のライフスタイルを考えるチャンスだと思うので、腹を据えて取り組んでいきます。

高木 これを機に、みなさんに、価値観の転換、環境問題について真剣に考えてもらいたいものです。私も応援しますよ。東京に来ることも多いので、所沢にも足を伸ばします。環境を考える市民会議にも力になりたいですし、講演会などにもお招きください。

所沢市WEBページ
http://www.city.tokorozawa.saitama.jp/index.html