【地球は今...】アイスランド―型破りの再生計画―
ギリシャやアルゼンチンの財政破綻では厳しい緊縮政策が取られた一方、同じ財政破綻から型破りな方法で立て直しを果たしたアイスランドの素顔に迫ります。(高崎渉)
2008年、アイスランドは財政破綻した
アイスランドの人口は約32万人。東京・新宿区ほどの数の人々が、北海道よりやや大きな島国に暮らしています。
この北欧の小国が、民間銀行による負債を抱え、2008年に財政破綻しました。
政府は当初、民間銀行への公的資金の注入を予定していました。それは、35億ユーロという莫大な額の借金が国民にのしかかり、大口預金者であったイギリスとオランダに将来に渡って利子つきの返済を続けることを意味していました。
「民間銀行の借金は国民の借金ではない!」と主張
アイスランドの国民は、「民間銀行の作った借金は企業責任によるものであり、国民の借金ではない」として公的資金の注入を拒否。
政府や諸外国からの反発がある中、2度の国民投票によって、銀行をそのまま倒産させて国有化しました。
加えて通貨の暴落によって外貨建てのローンが膨れ上がったことを受け、国民の住宅ローンを免除。
更に、銀行の破綻を招いた責任者の捜査が行われ、企業役員や銀行家、企業役員など数百人が逮捕・投獄されました。
また通貨のクローナは2011年には投資適格に回復しました。
別の選択肢があることを示した
日本では国民の反発にも関わらず、民間銀行への公的資金の注入が行われており、また、ギリシャやアルゼンチンなどの多くの国家破綻でも、民間銀行の借金を国民が背負う形で財政再建が行われています。
しかしそれは、借金返済の利子によって利益を得る資本家にとって有利な方法となります。
アイスランドの人々は、そういう不正をただす決断を行い、諸外国に「正しい選択」を示しました。
しかし、これら一連のアイスランドの対応は大手メディアで報道されず、諸外国にはほとんど知られませんでした。
アイスランド人の国づくり
アイスランド人がこのような勇気ある決断を下したのには、暮らしの至る所に見られる彼らの深い知恵と無関係ではありません。
その一例を紹介します。
・エネルギー…水力7:地熱3。原発や火力はなく、電気代は日本の3分の1以下。
・農業…地熱を利用した温水が国中に行き渡り、各家庭の温室で一年中新鮮な野菜 栽培されている。
・家…平均的なサラリーマンの1年半分の年収ほどの低予算で、自分で建てるのが般的。
平均50坪(約165平方m)の敷地があり、別荘を持っている人も多い。
・家族関係…小中学校には農繁期に合わせて3カ月の夏休みがあり、子どもは家の事や、時には家づくりを手伝いながら生きる知恵を学び、家族の絆を深める。
・人間関係…道を行きかう人々は互いに笑顔で挨拶を交わし合う。
国民全員分の電話番号と住所録があり、政治家を含め、誰にでも自由に連絡を取ることができる。
・政治との距離…大統領も直接選挙で選ばれ、世界初の女性大統領が誕生したのもアイスランド。
大統領公邸には柵もなく、庭でピクニックを楽しむ国民もいる。
・歴史上、一度も軍隊を持ったことがない。
シンクタンク「経済平和研究所」の2012年版「世界平和度指数」によると、世界一平和な国はアイスランド(日本は5位)。
文化的背景
勇気ある決断により国家を再生させたアイスランド人の根底には、デンマークによる長年の支配にも関わらず、言語や宗教などの独自の文化を守り通してきたという精神的な支柱があります。
彼らは、英語とデンマーク語を学びながらも、世界でも有数の難解言語であるアイスランド語のみを公用語として守っています。
また、キリスト教に改宗された後も、北欧神話などに代表される自然崇拝を軸とした多神教の思想を受け継いでいます。
これは、難解な日本語を操り、長年に渡り大地に宿る八百万(やおよろず)の神への感謝を持って自然と調和してきた日本人にも通じるものがありそうです。
アイスランド大使館の職員の方に一連の財政再建について意見をうかがったところ、私見ながら「アイスランド人には、大切なことは一人で決めず、仲間で知恵を集める傾向がある。それが影響したのではないか」という意見をいただきました。
日本とアイスランドは、いずれも地熱と水力に恵まれた島国であり、精神的な部分も含めて共通する部分が多々あります。
噴火でできた不毛の大地の上に幾多の困難を越えて国を築いてきた彼らの深い知恵から学ぶべきことは、たくさんあります。