スペシャル対談

2012年11月 民主党参議院議員 福山哲郎さん

2011年3月11日に発生した東日本大震災当時、菅直人内閣の内閣官房副長官を務めた福山哲郎参議院議員が、原発事故の際、官邸から見た状況と真相を記した著書「原発危機 官邸からの証言」を出されました。『地球村』と出会って20年近くの福山さん。震災当時や民主党について語っていただきました。

 

著書「原発危機 官邸からの証言」

 

高木 こんにちは。お久しぶり。今回出された著書『原発危機 官邸からの証言』を読んで、とてもいい本だと思い、対談をお願いしました。まずは出会いからお伺いします。

福山 私が33歳で国会議員に立候補する前からですから、20年近くになりますね。

高木 その間、議員として経験を積まれ、政権交代があり、鳩山政権で外務副大臣、菅総理時代には官房副長官の要職を歴任、ご苦労さまでした。これからもご活躍を頼みますよ。まずは『地球村』について、伺いたいですが、なにか印象はございますか。
福山 私はもともと環境や平和に関心があったので、高木さんの考えや『地球村』の活動は理解できましたし、参考になりました。

高木 そうでしたか。ありがとう。では本題に。
著書を拝見して、状況よくわかったよ。これはいい本だから多くの人に読んでもらいたいね。著者として、特に伝えたいことは?

福山 書いてある通りですが、情報が混乱、重要な情報がなかなか入ってこない、こちらの発信はマスコミを通じてもなかなか真意が伝わらないなど、とにかく非常に厳しい状態でした。その中で精一杯動いたつもりです。

 

福島第一原発事故

 

高木 事故直後に、アメリカ軍が作成した放射能汚染マップは、どう生かされたのですか。

福山 3月20日以降にその情報が入り、3月下旬にはIAEAが飯館村に行き、できるだけ早く避難するよう伝えました。本にも書きましたが、SPEEDIの情報が官邸に届いていなかったことは大きな問題です。

高木 原発では菅総理はよくやったと思う。どうして引きずりおろされたのか、残念でならない。なんとかできなかったのかな。

福山 原発問題は利害の対立、綱引きがすごいんです。

高木 あとになって「菅総理が現場に行ったから混乱した」とか、「東電は全面撤退など考えていなかった」とか、いろんな非難が飛び交ったが、だんだん東電や野党に押しきられた感があった。この本に書いてあることを、なぜ政府としてきっちり説明できなかったんだろう。

福山 枝野官房長官は何度も説明しましたし、菅総理も国会できっちり話しましたよ。

高木 私も注視していたけど、まさに四面楚歌だった。

福山 党内で意見が割れている状況で、党の力が結束できませんでした。

高木 そうだったね、見ていて歯がゆかったよ。枝野氏は、「ただちに影響はない」の繰り返しで信用を落としたし。

福山 あの場合、あれ以外の説明ができたでしょうか。「ただちに危険」というのは事実ではないし、「安全」とは、事実でもないし言えない。あれ以外の表現は、私は今も見つかりません。

高木 しかし、「真相がわからない」「情報が集まらない」「情報収集に努力している」など、事実をしょうじきにリアルタイムで言えなかったのかな。

福山 その時点でわかっている事実は発表していますが、不確実なものはなかなか言えません。

高木 原発は地震で壊れたのではなく、津波で壊れたという説明も明らかにおかしい。

福山 現在、まだ詳細はわかりませんので断定できませんが、津波対策さえしていれば事故は免れたという議論は間違っていると思います。

高木 1号機は、わずか1日で冷却水が低下して空焚きになり翌日水素爆発。2号機、3号機は冷却水が徐々に減って2日以上あとで爆発。つまり1号機の冷却水は炉心破損によって急激に失われ、2号機、3号機の冷却水は蒸発によって徐々に失われたと考えるのが妥当でしょう。

福山 そうかもしれませんが、水位計も正確に動いていたかは不明です。1、2、3号機のそれぞれの状況を今の時点で断定はできません。ただ、地震による原発施設の損傷や被害は間違いなくあったと思います。だから、津波だけの責任にしてはいけないと思います。

高木 国会事故調の報告書には、「地震による炉心破損の可能性もある」と書いてあったね。

福山 両論あります。いずれにしても耐震設計も津波対策も不十分。指摘を無視してきた結果です。

高木 菅総理が身体を張って進めた「脱原発」が、野田政権ではどんどんおかしくなってきた。外からは、枝野さんも推進派に見えるけど、どうなんですか。

福山 枝野さんは間違いなく脱原発派です。菅総理があれだけやれたのは枝野さんの力だと思いますし、再稼働を関西の2基だけで留めた現状は野田さんの意志だと思います。経済界の圧力は想像以上です。もしも自民党に政権が移れば、「脱原発」は確実に立ち消えになるでしょう。「原子力ムラ」「安全神話」は自民党時代の産物ですから。

 

市民の為の政治

 

高木 アンケートなどでは「民主党政権に失望、自民党の方がよかった」という声が多い。次の総選挙では政権維持は難しいと思う。私も、外交(領土問題、日米関係、TPP)などでは自民党の方がましだと思う。しかし「脱原発」では、自民党では絶対にダメだと思う。

福山 そこなんですが、民主党政権になってから、「救急車のたらいまわし」「医師不足」「障害者自立支援法の問題」などの報道、聞きますか?

高木 そういえば、そのニュースは減ったね。

福山 例えば、診療報酬改定で病院の経営状態が改善、医学部定員を510名増員、障害者自立支援法の見直し、高校の無料化で中退者が半減、高校に復学しようという若者が増えてきたこと、全国9割以上の学校は耐震化工事が終了、公立小・中学校含めて1万2000校にスクールカウンセラーの配置など、民主党はマニフェストをかなり実行してきています。

高木 しかし、それが国民に見えない。

福山 政権交代の時に、国民に約束した「税の配分を変える」「コンクリートから人へ」「中央から地方へ」「公から民」に力を移すというのは方向性としては間違っていないと思います。民主党の政策は、多くの人に利益が分配されるため、自民党のように、巨大な公共事業のような目立つものではないので効果が見えにくいのだと思います。   

高木 しかしここ数カ月で、凍結していた道路建設やダム建設が動き出しているけれど。

福山 八ッ場ダムについては本当に悔しいし、とても残念です。関東1都5県の知事からのこれまでの負担金の返還要求等もあり、やむなく進めることになりました。しかし、全国のダムについては全国80の中の20は凍結したのです。整備新幹線に税金はつぎ込まないし、新名神高速道路も税金はつぎ込みません。

高木 なぜそういう説明を国民にしっかりとしないんだろう。

福山 しているのですが、マスコミの方でそういう情報は流さない。面白い、わかりやすい話だけ流す、といった傾向が強いのです。

 

TPP、領土問題について

 

高木 TPPなどは?

福山 TPPは農業再生とは別の問題です。農業再生はやらないといけない。しかし、環太平洋諸国とは今後、門戸を開かないといけない。だから、その議論をしようとしているのですが、「農業にとって致命的だから議論さえ反対」というのはおかしい。農業は復興しないといけない。農業者戸別所得補償制度など有効な方法で競争力を付けないといけない。よく言われる、医療保険制度がなくなるなんて議論は項目にはありません。

高木 TPPは、一律だからよくないのでは?
FTA(二国間交渉)の方がいいのでは?

福山 TPPとFTAは両立します。21分野一律にはならないです。それぞれに交渉が必要です。

高木 領土問題は?

福山 尖閣諸島は、江戸時代鎖国が始まった時に、日本の領土だという記録がありますので、日本政府としては、領土問題は存在しないという立場です。竹島は、李承晩ライン以来、軍事的に占領されたいきさつがあり、領土問題は存在すると思います。

高木 政権交代後、問題が噴出しているのは事実だからなあ・・・

福山 いま民主党が直面している難問は、長年の自民党政権が先送りしてきた問題、未解決だった問題ではないでしょうか。消費税、社会保障、エネルギー、領土問題、すべてそうです。自民党政権に戻って解決できると思いますか。

高木 無理だろうなあ・・・

福山 自民党政権に戻ると、民主党の掲げてきた方向性、「税の配分を変える」「コンクリートから人へ」「中央から地方へ」「公から民」が元に戻る、先祖がえりすると思います。

高木 難しい問題を答えてくださってありがとうございます。では、最後に読者へのメッセージをお願いします。

福山 自分自身のスタンスは20年前とほとんど変わっていません。私が最も願っているのは、『地球村』のような市民がもっと大きな声を上げること、政治に意見を述べることだと思います。『原発危機 官邸からの証言』も、多くの方に読んでほしいです。

高木 まったく同感。今回の対談で、民主党のことがかなり理解できたよ、『地球村』も多くの市民の声をつないで、大きな声を上げるから、ぜひ、政治の場で、それを生かしてください。健闘を祈ります。
私からも、この本を皆さんにオススメします。是非読んでください。

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