地球は今

【地球は今...】自然の恩恵を見える化しよう

「人は自然に生かされている」という考え方は、とても重要です。
今回はそれを経済活動に取り入れていく仕組みについてお話します。(事務局 瀧)

自然の価値を正しく見よう

私たちは食料や水、木材などの供給、気候の調整や自然災害からの防御、さらにクスリの原料など、自然からありとあらゆる恩恵を受けています。
ところが、私たちは目先の利益の為に自然を破壊し、結果的に自分で自分の首を絞める行いばかりをしています。
その原因の一つに、私たちの経済が自然の価値を正しく判断できていないことがあります。

私たちは普段、お金を使って生活しています。
お金中心の社会では、例えば、森を切り開いて作った畑でバナナやコーヒーが採れて、それが売れればお金が得られます。
しかし、もともとの森の機能(二酸化炭素の吸収や、飲み水を作ってくれる浄化作用など)は失われてしまいます。
普通に考えれば、森を切るより残す方が地球にとっても人類にとっても価値があるところを、現状の経済では森を残すことよりも、森を切り開いて畑にする方が利益が大きいと判断してしまう仕組みになっています。
このように、お金儲けの基準に照らし合わせると、途端に自然の価値が低く見られてしまうのです。

自然の価値は世界のGDPよりも高い

日本のサンゴ礁(防災や観光)
3345億円/年

世界の昆虫が花粉を媒介する価値
24兆円/年

日本の森林(防災や保水機能)
70兆円/年

地球全体
33兆ドル/年


日経BP「森で経済を作る」ほか

そこで、自然のあらゆる恩恵もきちんと数字で見えるようにして、経済活動の中に取り入れていきましょう、という考え方が注目されるようになりました。

右図は様々な機関が調査した自然の価値を金額に表したものです。
自然からもたらされる価値が非常に高いことが良く分かると思います。

例えば沖縄のサンゴ礁の場合、サンゴ礁には台風時の波から陸を守る防災機能が600億円、海水の浄化機能が5億円、観光価値は2300億円で、年間約3000億円の価値があると試算されています。
サンゴ礁があるおかげで、私たちは3000億円も得しているということです。
また、1997年に発表された地球全体の自然の価値を計算した論文では、その価値は33兆ドルにのぼり、当時の世界のGDP総額18兆ドルを超えていると試算されました。

コウノトリ復活で経済も潤う

もう少し身近な例もあります。兵庫県豊岡市で行われているコウノトリ復活の試みでは、コウノトリが飛来できるようにするために「減農薬栽培」や「ふゆみずたんぼ」の農法で田んぼ作りを行った結果、お米がブランド米として54%も高値で販売されるようになりました。
また、実際にコウノトリが復活したことで観光客が増え、約10億円の収入増となりました。
コウノトリ復活という生態系の回復によって、結果的に豊岡市の経済規模は1.4%増大しました。

見える化の様々な動き

自然を価値ある資産として
捉える考え方「自然資本」

このような自然の価値は「自然資本」と呼ばれています(厳密には、木材の生産や二酸化炭素の吸収価値ではなく、それを生み出す森や水などの元の資源を指します)。

自然資本を数値化するのは難しいことですが、国際機関、行政、金融業界、産業界など様々な機関がそれぞれの方法で自然資本の導入を進めています。

地球サミットで盛り上がる自然資本

6月にブラジルで行われた世界最大の環境国際会議、地球サミット(Rio+20)では各業界で自然資本に関するイベントが多数開かれました。

これらのイベントで、世界銀行、国連機関のUNEP-FI(国連環境計画金融イニシアティブ)、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)などが自然資本を企業や国家会計に組み込むこと、事業報告書に載せること、投融資の判断基準として採用することなどを話し合いました。
筆者も会場にいましたが、本筋の国家間交渉は良い結果が出せなかったのに対して、自然資本などをテーマに開かれていた500以上のサイドイベントは非常に盛り上がりを見せていました。

環境問題が注目されるようになって20年以上が経ちますが、いよいよあらゆる経済の考え方に、自然を大切にする仕組みが取り入れられるようになってきました。
この動きはこれからますます加速していくことと思います。

国内でも自然の価値を独自に算出して事業に組み込んでいる企業があります。
『地球村』の企業会員であり、国内の天然水を飲料水として販売しているサントリーでは、「水と共に生きる企業として、地下水を守りビジネスを持続可能なものにしなければならない」として、森を経営資源としてとらえ、国内各地で水を涵養(かんよう)する森「天然水の森」を作りました。
この森で涵養できる地下水量を独自に計算し、工場の取水量よりも森の地下水涵養量を多くすることで、持続可能なビジネスとして確立しています。
また、このような水資源へのこだわりをアピールすることで商品に付加価値を付けるなど、新たな価値も生まれています。